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004

お食事の準備ができました。

 食堂まで案内されたタスクは、何とも不機嫌だった。

 彼の黒い短髪は香料を塗って綺麗に固められ、爪の先までも丁寧にやすりをかけられ、アールの若い頃の洋服にまで着替えさせられた。


 そのお陰で何処かの身分高い王子様か貴族の青年に見えないこともない。

 真っ黒と思っていた肌は以外にも白く、北欧出身と言う証言に信憑性を加えている。

まつげは長く、切れ長で真っ黒な瞳は、西大陸では余り見かけない稀有な色である。


骨格や、顔の輪郭がまだあどけないが、成長後が少々楽しみだと誰もが認める容姿だった。

 その目がちらりと周囲を見る。


 執事が椅子を引くと、不遜な態度で席についた。

 その姿は先程の真っ黒な家の無い冒険者にはとても見えなくなっている。

 この部屋に居る誰もが馬子にも衣装と思ったに違いない。


 食事前、50歳位の貫禄ある侍従長が背筋をピンと伸ばしてタスクの前に立ちはだかると、じっとしているようにとタスクに告げ、身体を綺麗にする係りとか言うメイドが数人タスクの前に現れ、洋服を脱がし、剣を取り上げ、身体をこれでもかと磨き上げ、耳穴や爪の間まで掃除され、髪に何かを塗りたくられた。


 綺麗な服に着替えさせられ、爪にやすりをかけられている頃には、疲れて放心状態だった。

 あんな真似、誰にもさせた事がないのに、屈辱的な気分である。


 一方、侍従達は子供と聞いていたのに、以外と大人の容姿だったので、興味深くタスクにぺたぺた触っていたようだ。


 磨いてみると思っていたより美しく輝いたので、楽しくなってしまったのだろうが、タスクはここの侍従達に酷い目にあわされた。以上の気持ちは抱いていない。

 ちょっとだけ女性が嫌いになってしまったようだ。


「君か?先程、自分でできる!出来るから!と何度も騒ぎながら、廊下を走り回っていたのは。」

 食堂の長いテーブル、一番奥に鎮座している男が、席についたばかりのタスクに話し掛けた。

「はい。騒がしくて、すみません。」

 少年は頭を下げつつ、なぜ俺が謝らなきゃならんのだ?と不可解。

 見ると、タスクの隣に座っていたアールが、口元を抑えながら笑っている。


 一頻り笑うとアールは

「タィンヒル王国クルセウス家の領主、ジュード=クルセウス様だ。つまり、フィオナ様の父君にあらせる。」

 と、席に着いている者達を紹介し始めた。


 栗色の髪、淡く薄いブルーの瞳、掘り深い顔立ちをした30代半ばの男が、興味深そうでも、興味が無さそうでも、嫌疑の目でも無い、本当にただタスクを見ただけと言った体で目線を向けて頷く。

 感情が今一つ計り知れない表情である。


「タスクです。お招きありがとうございます。」

 タスクは腰を上げ、椅子の横に立つと一礼した。

 ふと見ると、食卓についているのは、騎士団長のアールと、その領主様と、もう一人の少年が、領主様の左隣に鎮座するのみで、フィオナの姿は無い。

 まあ、あの事件後すぐ食事できる精神状態にはならないだろうが。


「それに、領主様の左におわすお方が、ご嫡男のトール様だ。今年九つになられるので、君の一つ下だな。」

 と、領主の横に鎮座する栗色の髪の少年を紹介した。

「はじめまして。」

 タスクは再度頭を下げた。

 トールも又、お育ちの良さそうな一礼で挨拶する。

 領主共に、息子を見ると、二人とも何処かよく似ている。

 栗色の髪、淡く薄いブルーの瞳、掘り深い顔立ち。


“…ん?”


 タスクはふと、アールと領主達二人の顔を見比べた。

 領主殿とアールも、髪の色や目の色は違えど良く似ている。

 年の差が30代と20代位で多少違いはあるものの、近似値と言ってもいいような?


 タスクが立ったまま観察している間に、ジュードは立ち上がってタスクの傍に足早に近付いた。

「此度は私の娘の命を救ってくれたそうだな。娘はあの一件で臥せっておるので、あれに変わって礼を言う。」

 そして深く頭を下げる。


 辺境伯が身分も持たない冒険者相手に直々に頭を垂れる等聞いたことも無かったが、身分の高い人々の事情などタスクには解らない。

「いや…一人しか助けられなくて申し訳ない。頭を上げてくれますか。」

 ただ誠意を尽くしていると言う事だけは解り、先程まで不機嫌だった気持ちが急に晴れ来た。


「気さくな旅の御仁で助かる。しばらく滞在できるか。そうだな?ついでに我が跡取り息子に剣術でも教えてやって欲しい。」

 そう言いながら、領主様は頭を上げると逆にタスクの肩に手を置き、座るよう促した。

「あ、え?…宜しいので?」

 タスクは驚いて、トール少年とジュードを交互に見た。


 お坊ちゃまは何やら複雑な表情をしている気がする。

「剣の指南役は本日から募集中だ。代わりが現れるまでは頼もうか。」

 ジュードはそう言いながら席に着くと、息子トールを見て、それで良いな?とばかりに目配せする。

「…はい。」

 トールは、複雑な表情のまま頷いた。

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