003
回想
一人で旅の途中、タスクの路銀は底をつき、空腹にもなるし、森で狩をしていた。
突然昼間なのに辺りが暗くなり、大きく地面が揺れ、大きな音が森中に響いた。
そのすぐ後、幾人もの悲鳴が聞こえたので、声のする方へ向かったら、花畑らしき拓けた場所で、人の形かどうかさえ悩むような死体がいくつも転がっていた。
死体の中心には、大きな塚のような岩が割れて倒れており、傍に大きな窪みが出来ていた。
大きな窪みを覗き込むと中は暗くよく見えず、目を凝らしていると、森の方から子供の悲鳴が聞こえたので、生存者がまだいるのだと思い、声の方へ向かった。
広場からさして離れていない所で、一つ目の大きな髪の毛の塊が、少女を襲っていたので、後ろから切り倒した。
髪の毛の塊は、真っ二つに割れて倒れたが、まだ死んでいないのか、髪の毛が蠢いていて生きているようだった。
生存確認の為、調べようか迷ったが、子供を保護する方が先だと判断して森を離れた。
移動中、少女に家は何処か訪ねたが、意識が無かったのでどうしたものか考えていたら、森を出てしばらくすると少女の探索隊と調度かちあって今に至る。
タスクが順序立てて話し終えると、アールは時折質問を挟みながら、頷きつつ書類に何か書いている。
「森が暗くなったって、どれ位?夕方?夜?」
「ミクスチュアの広場…失礼、君のいう拓けた場所の事だが、そこからどれ位離れていたんだろう?方角は解るかな?」
「そのモンスターはサイズにしてどれ位になるんだ?」
「蠢いていたって、等分されたモンスターも蠢いていたのか?」
「モンスターの目玉と本体の比率は?」
質問が細かかったので、タスクは筆記用具を出すよう頼むと、絵にし始めた。
遠い目をしつつ、思い出しながら回答して行く。
「暗さは解らん。夜と言うには明るいが、太陽が雲に隠れるよりは暗いと思う。辺りは目を凝らせば見えてた。」
次に昔教わった時間の計り方を元に時間を逆算する。
「広場からの方向は…太陽はあっちにあったから…今より2時間くらい前の話と仮定して、北の方になるかな?」
モンスターと子供の簡略化した絵で、大きさの比較をわかり易く説明する。
「子供の大きさがこれ位、髪の毛の塊がこれ位かな。で俺の身長が160cmないから、それの倍…2~3mはあったんじゃ無いかな。髪が触手みたいに伸びるから、都度サイズが変わるだろうし正確かどうかは解らない。他の木に自身を支えるように髪の毛をこう…絡めてた。足が無かったから、前に進むために絡めてたのかも。前方の木に髪を絡めて引っ張って進みたい方へ進む。みたいな感じだったのかもな。足跡らしいものが無かったし…まぁ今にして思うと。って感じだから、何とも言えないが。」
足元に倒れたモンスターの絵は流石に、画力の問題上無理があったので、何とか口で説明する。
「モンスター本体から生えている髪の毛も、苦しそうにもがいてたな。何かを探すように蠢いていたと言うか。目玉はゼリー状の表面が破れたので、そこから臭い液体が溢れてて気持ち悪かった。それを見る限り倒せたと思ったんだが…ちゃんと死体になるまで見てた訳でも無いから、解らない。」
一番困ったのは目玉と身体の大きさとの比率である。
真正面から見た訳ではないし、切って捨ててから覗き込んだ記憶では、説明が難しい。
「…うーん。体と目玉の比率はよく解らん。正面から見た訳じゃ無いんだ。切ってから見たし。その感じでは、全身目玉って感じだったな。口もデカかった。目のやや下位にデカイ牙が縦列してた。子供…あ、いやお嬢さんの体を、植物の弦みたいに巻きつけて持ち上げてたのを咎めて咄嗟に攻撃しちまった。そんな状態だったもんで、じっくり観察する暇が無かったんだ。」
タスクの簡単な説明に対し、アールの質問で補足を加えさせられ、思い出しながら詳細を語った後、ソファの背もたれに倒れこむ。
記憶を絞る作業は思っているより疲れるのだ。
騎士団長殿は、真剣にタスクから聞いた話を整理する為、紙に書かれた内容を何度も何度も眺めていた。
こんなタイプのモンスターは見たことも聞いた事も無い。
この周辺にいるモンスターの種類を調べるのは、討伐隊の役目でもあるが、そんな報告も聞いた事が無い。
基本的に大型のモンスターは、森の奥か人里離れた山奥で生息しているので、人通りのある広場や街中に顔は出さない事から鑑みてもかなりの異常事態である。
タスクがモンスターを倒して終わりにしてくれたのならそれで良いが、新種のモンスターが誕生した可能性も考えるし、何にしても生死確認と、原因究明の調査をする必要があるだろう。
アールが黙って考え込んでいるので、もう終わりかと思い、タスクは声をかけた。
「…もう良いか?」
「ん?ああ、すまない。もう少し…」
質問に対し、継続の意志を告げようとした所で、何者かがノックした。
メイドが現われて、食事の準備が整いそうだと言う。
タスクはメイドの言葉を聞いてから、アールを見た。
まだ続くのか?と言わんばかりである。
「食事を先にしよう。当領主が君を食事に招きたいそうだ。…あ、着替えも用意させなきゃならないんだっけ?」
夢中で聞き込んで段取りを忘れていたと、罰が悪そうに騎士団長殿は頬をかきながら、ドアのそばにいるメイドに話し掛けた。
メイドは無言で苦笑し、肯定の意をとなえる。
「じゃ、先に身綺麗にしてから食堂に集合しよう。」