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001

これまでのお話:少女、話しかけられる。

 恐る恐る両手で覆った顔を少し上げ、指の間から声がする方を覗き見ると、少女の随分近い距離に、少年の顔があった。

 年は14歳か15歳位だろうか。

 頬の微かな丸みが何処か少年臭さを感じてしまう。


 顔が黒く汚れているので容姿は何とも言い難いが、髪まで汚れているから黒い訳では無いだろう。

 見たことも無い漆黒の髪が、先程まで追いかけて来ていたモンスターの髪より、ずっと黒い気がした。


 見覚えの無い顔だが、目玉のおばけでは無い事だけ認識できると、何があったのかと少女は辺りを見渡し始めた。


 嘘みたいな話だが、この黒髪の少年が少女を助けてくれたようだ。

 落ちてきた少女を抱きとめたまま、片腕でロングソードを構えて仁王立ちしている。

 少女へ声はかけたものの、周囲への警戒は解いていない。


 その様子をしばらく見つめていた少女は、震えながら少年にしがみついた。

「ううっ…う~~っ」

 声をこもらせながら、大きな声で泣き始めた。


 少年は、少女の背中を軽く叩いてから、さすってやりつつ、まだ辺りを油断なく見渡していた。

 二人の側には、等分されたモンスターが倒れている。


 目玉から、どろっとした汁が溢れ、地面がモンスターの流した何かの液体で穢されている中、無数の毛が弱弱しくも未だ蠢いており、風が吹くたびに少しずつ少しずつまとまって行くみたいに見える。

 周囲に生えた木々に絡まっていたモンスターの髪の束も、音を立てて落ちて行きつつ蠢いている気がする。


 少年は、少女に絡まっているモンスターの髪が、まだ少女の髪をしっかり捉えているのを確認した。

 真っ黒な糸のようなモンスターの髪がみみずのようにうねり、少女の髪と混じり合っているのを暫く見つめてから、剣を持ち上げ、少女の髪を切り捨てた。


 森を抜ける頃には、すっかり夕方になっていた。

 少年は、目が溶けるほど泣き喚いて、すっかり腰が抜けて立てなくなった少女をおぶってやりながら、取り留めの無い事を語った。

 恐怖心で少年にしがみ付いたままだが、随分落ち着いて来たようで、それを耳に入れながら、いつかしウトウトと船を漕ぎ出している。


「俺はタスク。」

 とか

「お嬢の家は何処だ?何処に送れば良い?」

 とか

「髪、ごめんな。」

 とか

「東大陸から来たんだ。」

 とか、そんな声が耳の奥でずっと聞こえていた。


 その声と一緒に

「お嬢様~」

「あ!あんな所に」

「お嬢様!!」


 と、泣き声ともつかない幾人もの大人達の声も聞こえるようになった気がしたしたが、気を失うように眠りについた少女には、もう解らなかった。

短い気がする。

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