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漆黒のファースト ~First of The black onyx~  作者: うーCHAN
第2章 二日目 <午前>
18/67

017

泥だんごと借用書

 タスクの親の件と、タスクの採寸と、魔術師の手配、及び直属の兵士への指示を一度に済ませたジュードは

「以上だ。仕立て屋の置いていった既製品の洋服に着替えたら、フィオナの部屋へ行ってくれ。アール、案内を。」

 と、書類を束ねながら言う。


 これからその手に余るほどの書類を片付けねばならない。

 隣の領地への配慮、国王陛下への報告書、近隣住民に森林へ近付かせぬよう顧慮、今後の方針、部下達の報告書、隣国に動きを悟られぬようそれら全てを行う為の書類の束である。


 アールは一礼してタスクを手招きし、タスクは自分の荷物を持って一緒に出て行こうとして、ふと立ち止まり振り返った。

 それに気付いたジュードが何だとばかりに顔を上げる。

「大人でもお祝いされると嬉しいのか知りませんが、誕生日おめでとう。」

「どうも。」

 返事をしたものの変わった子供を拾ったものだ、とジュードはしみじみ思いながら、出て行く二人を見送った。


――――――――――


 フィオナの部屋に向かう前にタスクの部屋へ寄る。

 鞄をまさぐって中身を確認してから、小さな机の上に放った。

 すぐ着替えを済ませると

「お待たせ。」

 と部屋の外で待つアールに声をかける。


 さっき同室で採寸していた姿を目に入れているアールにとって、タスクが着替え終えるまで、室外でわざわざ待たされるとは今更な気もしつつ入室する。

 タスクが朝着ていた金糸を織り込んだ上着と違い、多少動いても洗濯すれば汚れが落ちやすい布地で出来た洋服姿を眺める。

 アールの服を着ていた時は、貴族か王族のような印象を得ていたが、今は騎士家系の血筋を持つ青年位に見える。

 結局服装なのだな。

 とアールは一人で腑に落ちる。


「アール。」

「ん?」

 上の空であったアールに急に声がかかる。

「サットンからあんたの話を聞いた。」

 何を。と思うが、タスクの様子を見て、壁に寄りかかると、そうかと頷く。

「本人不在で聞く話じゃ無かったと思ってさ。」

「ははは。ここに来てまだ二日目なのにそれはご苦労。」

 そして5年以上も前の噂を笑い飛ばす。

「そうして笑ってくれると助かる。」

「悪魔の証明に一々頓着していなかったんだが…耳にしてしまった方はそうは行かんのだろうな。」

 行っていない行動の証明は困難であるとアールは苦笑する。


 サットンと居る時は虚偽の噂等相手にするべきでは無いと思っていたタスクは、ふとアールが笑い飛ばして否定すると、空気が変わったような気がした。

「そうして否定した方が良いよ。何も言わないと肯定にも取られる。」

「ほう。面白い事を言うな。」

「何が面白いんだ?まず自分が否定しなきゃ誰も信じてくれないじゃないか。」

「違いない。」

 アールはそう言って笑ったが、領主に絶対服従のアールの性格や、未だクルセウス家に住んでいる所を鑑みれば、誤解であるとはすぐ解る事だ。

 しかし男女の痴情の縺れにタスクは介入出来ないし、何があったか見た訳でも無いし、自身の事はさっさと否定するべきだと思う。

 アールを信じる者は多いのだから、やり方次第では噂を潰す側に回るなり、何かしら手助けも出来るだろう。


"いや、5年も前の噂なら、もうそのようにしたから今があるのか。"


 なら、今更口を挟むのはお門違いか。と、自らの口を呪うタスク。

 タスクからすればつい先程の話だが、アールからすれば大昔の話を掘り返されて不快にさせたかと思い、どう語を継ぐべきか困る。

「不快にさせたろう。すまなかったな。」

 そんなタスクを見守っていたアールが先に謝罪したので、困窮する。

「あんたが謝るなよ。俺は何も持たないからあんたの気持ちは解らない。不快にさせたらそう言ってくれた方が楽だ。」

 アールはタスクの頭を撫でる。

「むしろ嬉しい半分と、ありがたい気持ち半分だな。」

 で、これは忠告だが、と更に言葉を重ねる。

「この手の社会じゃ、よくある話だ。良くも悪くも話を引っ掻き回すトリックスターは何処にでもいるからせいぜい巻き込まれないよう注意したまえ。」

 君は素直で世間知らずだからと笑うアールに、タスクは何か告げたそうに顔をしかめたが、それ以上何も言わなかった。


――――――――――


 ジュードがフィオナの部屋へ行くように指示したのは、アールが勤務中に個人的な動きを嫌う理由からである。

 アールからすれば公私を分けたいのだろうが、彼を慕う子供達からすれば寂しい話である。

 故にジュードは、タスクをフィオナに正式に紹介させる為と言う名目を使用する。

 またアールも有難くその好意を受け取った。

 メリー=フィッシャーから俺が会いたがってるのを聞いたのかなあ。とタスクは深く考えては居ないが。


 アールと一緒にフィオナの部屋に入室すると、早めの昼食中だったようだ。

 ベッドでぐったりしているほっぺがふくふくした可愛らしい少女に、どうやってお食事をさせようか思案中のメイド、メリー=フィッシャーが目に入る。

 少女の髪はメイドの手によって、少年のようにばっさり短く整えられ、それが痛々しかった。


 部屋はやたら可愛らしい。

 基本的にピンクを基調としており、天井のシャンデリアは下から見上げるとまるで花弁の多い花が広がったようで、何かにつけ豪奢だ。

 精巧に作られたドールハウスがベッドの傍に置いてある。

 天蓋付のベッドには透けたレースが幾層も重なっており、窓にも同じ生地で作られたお揃いのカーテンが飾ってある。

 擦り切れたガラス製のランプの淡い光が漏れて、フィオナの顔を照らしている。

 壁紙も可愛らしく花柄をあしらっており、幼い少女のための部屋だとすぐ解る。

 ベッドの傍に置いてある大き目のロッキングチェアがちょっと違和感があるものの、全て少女の為にあつらえられた部屋だと解った。


「アールおじちゃま。」

 入室したアールを見つけて、フィオナが嬉しそうに微笑んだ。

「フィオナ様。ご容態は如何でしょうか?」

 一礼したアールが近付いてフィオナの傍に跪いた。

 少女と目線を同じにする為だ。

「怪我もほとんどしてないのに、みんな寝てなさいって。」

 少女の首から肩に、骨折したような三角巾が巻かれているが、怪我の範疇では無いらしい。

 まつげを揺らし、フィオナは退屈そうに溜息をついた。

 顔色は青白いものの、いつもの調子のフィオナに安堵するアール。

「では後程、図書館で本でも見繕って参りましょう。」

「じぶんでいけるわ。」

 また寝てなさいって言うの?とむくれる少女。


 アールは笑って頭を撫でるとタスクを紹介した。

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