012
閑話休題 上
アールを見送った後、タスク達は森林の見張りを継続していた。
何が出て来るか解らない森林を見守る中、騎士団員及び歩兵達は好奇心旺盛にある場所を取り囲んでいた。
勤務中であると知ってはいるが、岩場をテーブルにしたアームレスリング大会が彼等を熱くさせているのだ。
と言っても全員が岩場を取り囲んでいるのではない。
くじ引きで負けた隊員のみが、森林を従来通り見張っている。
ちょっとしたレクリエーションと言う訳である。
トーナメント方式で負けた騎士達が次の対戦相手を応援している中、誰が勝つか賭けをし始める。
一番人気は2mの巨体を持つサットン。
二番人気は強弓の名手イーニアス。
三番人気の槍の名手カール。
大穴狙いは10歳のタスク。
負けた者から順次見張りに戻るようサットンから指示は得たものの、賭けまでし始めては誰も言う事を聞いていない。
それを見て苦笑する副総長サットン。
ここでアールが居たら、人気順位は変わっていただろう。
いや、そもそもアームレスリングなんて始めたかどうか不明だが。
準決勝では三番人気カールとタスクが戦うも、タスクが勝利を治め、次に 一番人気の副総長と二番人気イーニアスが潰し合い、サットンが決勝戦進出。
弥が上にもアームレスリング大会は盛り上がる。
「お前ら負けたなら見張りに戻れ。」
と再度サットンが苦笑しながら、しっしっとでも言うように手を降る。
ここで子供に負けたら格好もつかないので、ちょっと言ってみたようだ。
まさか一番人気と大穴狙いの決勝戦が見れるとは誰も思わず、タスクとサットンの傍を離れる者は居ない。
くじ引きで負けた騎士団員達すら、視線は森では無くサットン達へ向いている。
それは見張りじゃない。と突っ込んでくれる者は誰も居ない。
タスクはテーブル代わりにした岩に肘をつき、右手をサットンに向けると 真剣な顔つきで見上げた。
「さっさと終わらせて、撒いた種を刈り取ろうぜ。」
この騒ぎを作った張本人が苦笑すると、タスクと手を合わせる。
兵士達の声援が急に大きくなった。
二人の手の大きさは文字通り大人と子供。
本来なら副総長が勝利を治めると誰もが信じているが、そうは行かないだろうとサットンは思っていた。
先程のタスクの戦闘力を見るに、例えお遊びでも真剣勝負をしなければならない場面であるとタスクもサットンも知っている。
岩のテーブルで握ったタスクの手は思った以上にしっかりしている。
サットンがタスクの手を握るには、少し体勢を下げ腕の角度を変えねばならないので不利である。
それでも副総長は口角を上げた。
「俺達も何か賭けるか。」
「酒おごってくれ。」
「良いとも。じゃあ俺が勝ったら、その剣を貰おうか。」
一瞬黙ったタスクが腰元に視線を落とした。
腰ベルトに備え付けられた剣は、別段派手な装飾も施されていない普通のロングソードである。
「子供から巻き上げるのが趣味かい?」
「何かご褒美でも無きゃ、子供相手に本気なんか出せるか。」
タスクは、ふふんと鼻で笑った。
「こいつがあんたに仕えるかな。」
「俺は魔剣だと思っている。違うか?」
「…。」
目を細めてタスクは笑ったが否定も肯定もせず、審判を見上げ、準備が出来たと目で合図を送る。
サットンも同じく頷くと、審判が二人の手を取り開始合図を叫んだ。
「GO!」
兵士達の沸き立つ声援が辺りにこだました。
盛り上がりを見せたアームレスリング大会は終息を迎えた。
結論から言うと大穴が優勝したのだが、サットンはさして心残りがある訳でも無く、切り替わった様子で
「ほら。レクリエーションは終了。持ち場に戻れ!」
と部下達の尻を叩いた。
部下達は子供相手に負けた憤りもあったものの、サットンのそんな態度に 子供相手に勝ちを譲ったかのようにも見え溜飲が下がった。
また試合中、顔を真っ赤にしてサットンの攻めに耐え抜き、優勝をもぎ取ったタスクを賞賛する声も少なくない。
団長が居れば、この順位が変わった筈だと口にする者も多かったが、サットン発案のこのちょっとした親睦会は、タスクと騎士達の距離を更に縮めるものとして大いに役立った。
持ち場に戻る兵士達を他所に、タスクは先程の岩場の上に立って、森林を見つめている。
先程の森林とは少し違って柔らかな雰囲気なのは、僅かに小鳥が騒ぎ出したからだろうか。
それでもこの森の何処かであのモンスターが潜んでいると思うと、気が気じゃないだろう。
そう考えると、よく腕相撲なんかやる気になったなと副総長の肝にタスクは感心していた。
ふと足元を見ると、そのサットンが岩場に体重をかけてタスクを見上げている。
「何?」
遠くを見つめる顔の角度のまま、サットンを見下ろす。
「飲み会はいつにする?」
「良いの?俺すげえ飲むけど。」
「子供が遠慮するな。…ん?子供に飲ませる訳に行かんのか。じゃあ、せいぜい奢ってもワイン一杯位だな。」
さも今思いついた様子でサットンは言う。
「…きたねえ。」
「奢るんだ文句言うな。」
都合は考えておくよ。と笑って、タスクを見上げていたサットンの視線が腰元に伸びる。
そして勝っていればなあ。と、悔しそうに笑った。
サットンが気に入ったので追記しました。
後2話作ったけど表示させるか迷い中です。




