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俺の嫁は最強です  作者: 宇宙戦艦ミカサ
第一章 ココベルの街
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第五話 エバン商会

 俺は夜道の危険性を甘く見ていた。

 よく「月のない夜には気をつけろ」とか言うが、あれはネタじゃなかったんだな……。


 宿を出てすぐ、昼間に客引きのお姉さんが立っているあたりへ行くと、燕尾服を着た愛想のいい男が立っていた。俺がビラを見せると、彼はすぐに俺の手を引いて店まで案内してくれる。私の店に居るあの子は胸がドーンだとか、あの子はお尻がむっちむちだとか、そんな話を聞きながら路地を歩く俺は、ワクワクと気分を高揚させていた。

 そうして、人気のない路地を進み始めて数分が過ぎた時だった。


「おい兄ちゃん、金出せよ」


 顔に白い仮面を被り、手には反りの深い刀を持った男が現れた――。




 ◇ ◇ ◇




「あんた馬鹿?」


 翌日、宿屋の廊下で俺はシェリーに思いっきり蔑まれていた。

 手持ちの金を全て奪われてしまった俺は、折半する約束だった宿代が払えず、夜中に奪われたのだと言ってしまったのだ。そこからなぜ夜中に外出していたのかなどを根掘り葉掘り聞かれた結果、そういうお店に行こうとしていたことなどをすべてシェリーたちに知られてしまった。


「私も子どもじゃないから、別にあんたがそういう所へ行こうが夜の帝王になろうが自由だと思うわよ。だけどさ、夜中に一人でフラフラ出かけて行った挙句に金を取られて帰ってくるって、いろんな意味で酷過ぎるわよ。もっとしっかりしなさい!」


「くッ……何も言い返せないです、はい」


「仕方ないから、宿代は貸しといてあげるわ。でも、あくまで貸しなんだからね? 財宝をお金に換えたら、きちんと返しなさいよ」


 そういうとシェリーは財布から金貨を一枚出してくれた。ありがてえ……!

 俺は手を合わせてシェリーを軽く拝むと、金貨を丁重に財布へとしまう。これで今日のところは安心だ。けど、財宝を換金したらすぐに返さないとな。出会ってまだ三日ぐらいしかたってないが、シェリーは利子はトイチで払ってとか言うタイプだと思う。


「ありがとう! この恩は一生忘れない!」


「大げさよ。そんなことより……」


 シェリーは斜め後ろに立っているツキカの方へと振り返った。ツキカは何やらぎこちない笑みを浮かべて、顔を下に向けている。その雰囲気はやけに重くて、近づきがたいものだった。


「ツキカ、俺が風俗に行ったのがやっぱ……気に入らないのか?」


「いえ、とんでもない! 私はあくまで従者、主様がどのようなおなごを抱こうと口出しは致しませぬ。ただ、私の身体にはもう飽きてしまわれたのかと……」


 さみしげな表情でつぶやくツキカ。

 いや、飽きるも何もそもそも俺はツキカを抱いてないぞ!

 そりゃ妄想の中でなら既に百回ぐらい抱いた気がするが、リアルじゃ一回も行動に移していないからな。さすがに妄想だけで飽きるとかは俺にも無理である。というか、つるぺったんとかならともかくツキカのダイナマイトバディに飽きるとか考えられないし。


「飽きるも何も、俺はツキカとそういう関係になったことないし……」


「では主様、私に飽いたわけではござらぬのですな!?」


 ツキカの眼が一気に見開かれ、光を取り戻した。細く白い喉がごくりと唾を呑む。白魚のようなほっそりとした手が、俺の手首のあたりをつかんだ。

 まさか、今から……!?

 俺は混乱しつつも、期待に胸を膨らませた。どちらかといえばMの俺としては、強引なシチュエーションも嫌いじゃない。それに昨日ちゃんと店に行けなかった分、エネルギーは貯まっている。


「はいはい、今は朝だからね。そういうのは夜にしときなさいよ」


 ツキカに誘われるまま部屋に戻ろうとすると、シェリーが俺とツキカの肩をがっしりと掴んだ。やれやれといった口調とは裏腹にその力は強く、肩を掴んだ手は鋼でできているかのように動かない。その握力からシェリーのただならぬ苛立ちを察した俺とツキカは、すぐに部屋に戻るのをやめたのだった。


 宿代の精算を済ませた俺たちは、すぐに財宝を金に換えるべく町の商店街へと向かった。さすがに栄えている街だけあって、商店の数も多く一つ一つの店が繁盛している。中東のバザールよろしく露店を出している商人たちも多数おり、祭のような雰囲気だ。


 人でごった返す中をゆっくりゆっくりと波をかき分けるように進んでいく俺たち。財宝の入った袋は45リットルのゴミ袋ほどもあるから、すられるということはないだろうが、その分進むのが大変だ。人に肩をぶつけてしまわないように注意しながら、俺たちは通りの一番奥にある『エバン商会』と大看板を掲げた館へと向かう。


 エバン商会の前は、そこだけ別世界のような雰囲気だった。戦前の洋館を彷彿とさせる白く少佐な建物の前は利用者が少ないのかガランとしていて、黒服の男が玄関を守っている。俺たちはその守衛らしき男たちに近づいて行った。


「君たち、ここは宝石商のエバン商会だぞ?」


「ええ知ってます。ちょっと換金したいものがありまして」


 シェリーは背負っていた袋を下ろすと、その口を少しだけ開いて見せた。すると中から黄金色の光が溢れ出す。それを見た黒服たちは、たちまち俺たちの方に頭を下げた。


「失礼しました、どうぞ中に入ってお待ちください。すぐに買い取りの準備をさせていただきます」


「ありがとう。応接間はどこ?」


「玄関を入ってすぐ左の部屋でございます」


「そう」


 シェリーは黒服たちに軽く手を振ると、そのまま優雅な仕草で玄関の扉をくぐって行った。何だかやけに様になっている。俺はこっそり隣にいたツキカに耳打ちをした。


「なんかシェリーの奴、ずいぶん様になってないか?」


「そう言われれば、そうかもしれませぬな。きっと、シェリー殿にもいろいろあったのではありましょう」


「そういうもんかなあ……」


 昔お嬢様だったとか、そういうことだろうか?

 だけど、お嬢様のシェリーって全然想像できないよな……。俺の頭の中でシェリーが煌びやかな服を身にまとい、優雅にダンスを踊ったが全く合っていなかった。それよりも彼女にはズボンを履いた男らしいパンツルックが似合っている。体形とか顔立ちはばっちり女の子してるのだが、雰囲気が男っぽいのだ。端的にいえば、がさつなのだ。


 俺がそうして妄想を繰り広げているうちに、応接室の前へと着いた。どっしりとした木目調の扉を開けると、四人ぐらいが横に並べる座り心地の良さそうなソファがニ脚ある。シェリーがすでにその一方へ腰かけていたので、俺もまたその隣へと腰を埋めた。さらにその隣へツキカが腰かけてきて、俺はサンドイッチされたような格好となる。


 俺が少し頬を赤くしていると、奥の扉が開いた。その中から顎に肉が付いた肥満体の老人と、彼を挟むようにして女が二人出てくる。アラビアンナイトの踊り子のような服装をした女は、顔を薄いベールで隠していたが、その身体は凄かった。特に大胆に露出した胸元はさすがにツキカには及ばないものの、グランドキャニオンさながらの見事な渓谷を生み出している。さらに少し小さめの服を着ているのか、若干胸が布から溢れていた。


 たまんねえ……! あんなのに挟まれてえよ……!!

 じじい、なんてうらやましいんだ!

 俺は女の胸のあたりに手を回す老人に嫉妬心をむき出しにした。一方で、シェリーとツキカは老人に対して警戒感をあらわにする。女に興じているように見せかけていても、老人の眼は恐ろしいほど鋭かったのだ。


「ようこそ。エバン商会の主、エバン・コートネルです。どうぞよろしく」


「こちらこそ。私がシェリーン、こちらがタカウジ。一番右に居るのがタカウジの従者のツキカです」


 シェリーに紹介された俺とツキカは揃って頭を下げた。するとエバンの眉が少し上がり、驚いたように口を開く。


「ほう、その若さでそれだけの従者を呼び出せる召喚士とは。やり手なのですな」


「ええ、まあ」


「ならば、お持ちになられた品物にも期待が持てますな。さっそく、見せていただけますか?」


 俺とシェリーは下に置いていた袋を、どうだと言わんばかりの勢いでテーブルの上に乗せた。ズンッと音がしてテーブルがジリリと音を立てる。するとたちまちエバンはスーツの胸ポケットから虫眼鏡を取り出し、袋を開けて中の検分を始める。


 緊張した面持ちでエバンの手元を見守る俺たち。

 部屋に飾られた柱時計の針の音が、やけにゆっくりと聞こえた。

 そうしてきっかり十分が過ぎた頃、エバンは虫眼鏡を置いて顔を上げる。俺たちは一斉に彼の顔を見ると、唾を呑んだ。


「結論から言いますと――」


 エバンはもったいぶるように言葉を切った。そして次の瞬間。


「価値は十万といったところですな」


「えっ?」


 俺たちの疑問の声が、部屋中に響き渡ったのであった。

主人公はまだ、大人になってはおりませんでした。

けれど近いうちにそういうチャンスはまためぐってくる……はず。

詳しい描写は全年齢なのでもちろんなしですが、期待せずにお待ちください。

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