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俺の嫁は最強です  作者: 宇宙戦艦ミカサ
序章
4/6

第三話 出発

 体にフィットした薄手の全身タイツのような下着の上に、白銀に輝くいわゆるビキニアーマーを着込んだ従者スレイブ。その挑発的すぎるボディラインに、思わず俺の視線が釘付けになる。身体を少し動かすたびにゆっさゆさ揺れるお山はまさに男のロマンだ。やばい……!


「タカウジ、あなた召喚士サモナーだったの!?」


「ん、ああ!」


 惚けてしまっていた俺の耳に、シェリーの驚いたような声が飛び込んできた。

 俺はその声ですぐにピンク色の妄想から現実へと帰還する。そうだ、今は戦闘中だ。興奮して鼻の下を伸ばしてる場合じゃない。


「よし! そいつを倒してくれ!」


「了解!」


 拮抗していた剣と青龍刀。

 しかし、俺が指示を出すと同時に剣が青龍刀を一気に押し返し始めた。ウルフは仰け反りながらもそれに抗するが、やがて勝てないと悟るとバックステップを踏み一気に距離をとる。そしてこちらを睨むと、唸るように声を上げた。


「やるな! だが、この程度の従者では俺には勝てんぞ!」


 ウルフは青龍刀を腰もとに構えると、姿勢を低くした。そしてアキレス腱でも伸ばすかのように脚を開き、目の前に居る従者に狙いを定める。その視線はさながら獲物を狙う猛禽のようだ。

 シェリーの顔がたちまち青くなった。彼女は髪を振り乱して俺の方を見ると、焦ったように叫ぶ。


「まずい、八龍剣はちりゅうけんが来るわよ!」


「なんだって?」


「もう遅い! 八龍剣!!」


 ウルフは気迫を込めて叫ぶと、猛烈な勢いで突きを繰り出した。風が鳴り、ビョウという音が連続する。そのあまりの速さに、一本のはずの青龍刀が何本にも分裂して見えた。その数は全部で八本。蜘蛛の足のごとく広がるその剣の群れは、とてもかわせそうにない。

 足を踏み出し、一気に従者への距離を詰めるウルフ。瞬間、俺とシェリーの叫びが重なった。


「ヤバい!」


 ゆっくりと動く世界。

 その中で従者は持っていた剣を一旦手放すと、腰を低くした。そして迫ってくるウルフの方へ強烈な足払いを仕掛ける。それは見事にウルフの太もものあたりへ直撃し、うッと呻き声が聞こえた。

 素早い動きをするために、全神経を腕の方に集中させていたのだろうか。ウルフの身体は軽々と吹っ飛び、壁へと叩きつけられた。細い身体はそのまま壁を突き破り、向こう側の部屋へと飛び込む。


 俺とシェリーはウルフの様子を確かめるべく、壁の穴へと飛び付いた。すると、壁の向こうで倒れているウルフは白目をむいて気絶している。壁にぶつかった時に折れてしまったのか、前歯が一本抜け落ちたその姿は間抜けで少しおかしかった。


「やった! ウルフを倒すなんて凄いじゃない!! ありがとう!」


 ギュッと抱きついてくるシェリー。

 俺の胸に柔らかいものが押しあてられる。細身の体型をしているからてっきりぺちゃんこだと思っていたが、全然そんなことはない。俺的にはまだまだだが、E-ってとこだろうか。まだ十五、六歳だから上手くいけばGぐらいまではいけそうだな。


 思わぬ感触に俺がどぎまぎしていると、従者が俺たちの方へ近づいてきた。俺は彼女の方へ顔を向けると、シェリーにそちらを向くように促す。


「俺より、従者スレイブの方に礼を言ってやってくれ。戦ったのはこいつだし」


「そうね……ありがと!」


 シェリーは俺から離れると、従者に向かって頭を下げた。すると従者はクールな表情で言う。


「私は主様の剣として役割を果たしたまで。礼を言われるようなことはしておらぬ」


「そう? まあでもお礼ぐらい言わせてよ」


「俺からもありがとう。君が居なかったらきっと俺たち死んでたから」


 俺が軽く頭を下げると、シェリーの時とは打って変わって従者の顔が真っ赤になった。彼女は顔をぶんぶんと横に振りながら、戸惑ったように声を上げる。


「主様!? そ、そんな私は礼など要りませぬ! ただあなた様のために……」


 従者は顔から湯気を出しながら、口をまごまごと動かした。凛とした雰囲気の美女が顔を真っ赤にして動揺している様子は、とても胸にくるものがある。できることなら、このままずっと見て居たいぐらいだ。が、そうも言ってはいられない。


「新手が来たわよ!」


 騒ぎを聞きつけたのか、通路の角から何人かの男たちが現れた。俺たちの姿を見つけると、すぐさまこちらへ走り寄ってくる。こうして、俺たちの戦いはそれからしばらく続いた――。




 ◇ ◇ ◇




 その後現れたウルフの部下は、ウルフに比べて圧倒的に弱かった。幹部クラスでさえも鎧袖一触、ほとんど一撃である。シェリーの話ではこの魔賊団は近隣ではそれなりの強さを誇っていたそうだが、この分ではウルフのワンマン経営だったのかもしれない。


 船に居た魔賊をあらかた倒した俺たちは、ウルフを荒縄で縛り上げ、彼が貯め込んでいた財宝もろごと甲板に備えられた小舟へと詰め込んだ。その船は人が一人寝起きできるほどの設備を備えたヨットのような船で、本船に何か起きた時のための脱出用だったらしい。船を持っていない俺たちは、ひとまずこの船を譲り受け――正確には脅して奪ったのだけど――街まで行くことにした。船の操縦については、シェリーが一応程度だができるらしい。


「さてと、最後はこれを燃やせばいいのか」


「ええ。いよいよね」


 まだ気絶しているウルフの懐から、厚ぼったい紙を取り出す。ウルフとシェリーの契約書だ。

 俺がそれを手渡すと、シェリーはランプの火を使ってすぐにそれを燃やしてしまう。灰はたちまち甲板を吹き抜ける風にさらわれていき、外へと落ちて行った。俺は眼下に広がる白い雲海を眺めながら、ほうとため息をつく。


「やっと終わった……」


「そうね。長かった」


 シェリーはぼそりとつぶやくと、眼に一滴の涙を浮かべた。しかしそれを彼女はすぐに拭きとってしまうと、俺の方に向日葵のような笑顔を向ける。


「私は船を出す準備をしてくるから。疲れてるなら、休んでていいわよ」


「ありがと、そうさせてもらうよ」


 俺は崩れるようにして甲板に腰を下ろした。ずっと気を張っていたせいか、予想以上にくたびれてしまっている。戦闘時の緊張のせいか身体は少し火照り気味で、夜明け前のひんやりした風とよく冷やされた木の床がとても心地よい。


「そういえば、余裕がなくて聞けなかったけど……」


 一息ついたところで、俺は目の前に居る従者の方へと視線を投げた。彼女ははて、と首をかしげる。


「どうかしましたか?」


「いや、君って俺が呼んだ従者で間違いないんだよね?」


 鑑定スキルで確認したところ、きちんと彼女の上には「従者スレイブ」と出てはいた。

 それにゲームで設定した従者と全く同じだから、今更疑う余地はないだろう。しかし、万が一何かあると困るので一応だが、確認しておきたい。そもそも、俺自身がどうやって彼女を呼び出したのか判然としないのだ。ひょっとしたらがあるかもしれない。


 こうして俺が尋ねるとたちまち、従者はその少し太めのきりっとした眉を若干だが中央へ寄せた。その目は少し呆れの色を帯びている。


「もちろん! 当り前ではありませぬか!」


「よかった。……ところで、君は俺に造られた時の記憶とかあるの?」


 今の状況を知る手がかりになるかもしれない。俺はそう思って尋ねたのだが、従者の顔は浮かないものだった。彼女は申し訳なさそうに首を横に振る。


「それはありませぬ。最低限の常識などはありますが、記憶については呼び出されてからのことしか」


「そうか……」


「申し訳ない」


「いいんだよ。さてと、俺たちもそろそろ出航の準備を手伝うか」


 小さな船だが、それでも立派な飛行船だ。飛ばすとなるとそれなりに手間がかかるだろう。いくら休んでいていいと言われたからといって、さすがにシェリー一人にすべてを任せるのは忍びない。

 俺が重い腰を上げて船の方へ移動しようとすると、従者が「あのッ」と声を上げた。すぐに俺がそちらへと振り向くと、彼女は何やら紅い顔をしてもぞもぞとし始める。腕で胸が潰されて、谷間の深さが三割増しになっていた。俺の顔がたちまち崩壊しそうになるが、それを何とか気力で堪える。


「すみませぬが、出かけるに私の名を決めてはくださらぬか?」


「あ……! まだ決めてなかったね」


「はい、ですのでなにとぞ……」


 期待を込めた眼差しを向けてくる従者。

 はてさて、どうしたものか。困ったことに、俺はネーミングセンスにあまり自信がない。しかし、下手な名前を付けるわけには……。


「うーむ……」


 脳がオーバーヒートを起こしそうなほどの勢いで考えることしばし。

 うんうんと唸り声を上げながら空を見上げた俺に、ようやくいいアイデアが降ってきた。これだ、目の前の従者にピッタリな名前はこれしかない。といっても、元ネタは非常に単純なのだだけれども。


「ツキカ。月下美人の月下の読み方を変えてみた」


「おお、それは素晴らしい! 気に入りました!」


 従者改めツキカは、満面の笑みで俺に抱きついてきた。ウホッ、さすがに破壊力がシェリーとは段違いだ、ダイナマイトと戦略核ぐらい違いがあるぞ! やばい、埋もれる。上半身が埋もれる……!

 血が全身を駆け巡り、顔から火が出た。それと同時に、鼻から赤いものが垂れる。たぶん、今の俺はとんでもなく無様な顔をしている気がするが構わない。この幸せをもう少し……


「そろそろ出発するわよ! 船に乗って!」


「わかった! 今行くから待っていてくれ」


 ツキカはあっさり手を離すと、スタスタと船の方へ向かって行ってしまった。クソ、シェリーめ。余計なところで声をかけおって……。俺は心の中でシェリーへの愚痴を際限なくこぼしつつも、梯子をあがって船へと乗り込む。するとすでに、シェリーが船の舵を握っていた。


「乗ったわね。さ、いよいよ出発するわよ!」


 シェリーは操舵輪の右にあるごついレバーを一気に引いた。すると船の下から光が飛び出し、魔法陣を描いていく。やがてそれが綺麗な星形を結ぶと、船が重さを失った。華奢な船体が甲板の上を滑り、その先の雲海へと乗り出していく。


 こうして朝焼けに染まり始めた空のもと、俺たちは街へ向かって出航したのであった。

ツキカの口調についてはいろいろとまだ模索中です。

侍っぽい口調って、意外と難しいですね……。

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