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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

対旋律シリーズ

伴奏

作者: finale

 また吹奏楽部の楽器が盗まれた。ユーフォニアムだ。

 これで四件目。一体、誰がやっているんだろう。私のオーボエも先週盗まれたばかりだ。

 律先生は緊急ミーティングで、犯人は部員の中にいるかも知れないって言っていた。実際、状況から考えて私も犯人は部内にいると思う。部内の誰なのかの見当はつかない。でも、こんな事を繰り返している人がいるなら、今すぐ止めさせたいと思った。楽器を盗んでいる時間は、皆が下校した直後だろう。そうでないと、出入りするときに目立ってしまう。私は放課後、皆が下校したあと三十分だけ準備室を見張ることにした。その間に誰も来なかったら仕方がないからそのまま帰ろう。変な自分ルールをつけて、私はみんながいなくなった後チューバの陰に隠れて様子を窺っていた。大丈夫、音楽室は二階だし、その気になれば飛び下りられる。あ、でも、窓を開けたせいで犯人が入ってきたらどうしよう。そしたら後で学校に来て「忘れ物をした」って言えばいいか。……その方が犯人より怪しいか?まあいいや。

 そんなことをぐだぐだ考えていると、カラッ、と音楽室の引き戸が開く音がした。

 ――遂に来た。

 そいつは、音楽室を経由して準備室に入ってきた。どうやら、ちゃんと鍵を持っているらしい。チューバの陰からそっと、そいつの姿を覗き見た。

 ――――え?

 そいつ、いや、その人の姿は私が予想もしていなかった人物の姿だった。二十代後半くらい、髪は黒い短髪で、背は大体175cm。

 嘘でしょ?まさかそんな、この人が。

「り、律先せ…………!」

 思わず声を出してしまった私の方に、律先生はぐるりと首を向けてにやりと嗤った。まるで、律先生じゃないみたいだった。気味の悪い怪物みたいな笑いだった。

「残念、俺は優しい律先生じゃないぜー」

 そう言った律先生の手の中にあるものを見てしまった時、私は全身が震えているのを感じた。

 そうだ、そうだよ。この人は。

 いつもの指揮棒を振りながら笑う律先生じゃない。律先生は絶対に生徒にナイフをかざしたりしない。

 ね?そうだよね?律先生?

 ――――律先生?

 突然視界がぼやけはじめた。それと一緒に、体中の力が抜けていくのを感じる。

「俺の……は栢田…………」

 律先生の声が聞こえたような気がしたけど、ふっと目の前が暗くなって、あとは何も分からなくなった。


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