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act7 今晩おヒマ?

○月△日

パンストの彼=浅井尚弥の正体は、医学部と理工学部をトップで合格した秀才クンだった。けれど、何の迷いも無くその2つを辞退してしまった彼。そんな彼に少しずつ興味を抱き始めた……。

 「それにしても……蓮子、どうして彼の事知っていたのよ?」

 今更ながら、素朴な疑問を蓮子にぶつけた。その問いに蓮子は目を細め、妖しい笑みを浮かべた。

 「“私”よ? どれだけの情報源がいると思っているのよ」

 聞いた私がバカだった……。そう、蓮子だから知り得た事かもしれない。さすがは蓮子サン……。

 「そういえば……琉依は?」

 梓の問いに、琉依がいなかった事を思い出した。

 「確か、事務所に用があるって途中で席を立ったわねぇ」

 急にどうしたのかな……琉依。いつもの琉依からは考えられないくらい真剣な顔をしていた。事務所に用だなんて、一体何があったのかしら。

 「あっ、琉依よ」

 伊織の言葉に俯いていた顔を上げると、向こう側から琉依が髪を触りながら歩いて来た。


 「あれ、話終わっ……」

 琉依が言い終わるのを待たずに、私は琉依に駆け寄って胸元に飛び込んだ。

 「夏海?」

 琉依が覗き込んできたが、私はそのまま琉依に抱き付いていた。

 「あら、夏海ったら、琉依がちょっといなくなったからって寂しかったのかしら?可愛いわねぇ」

 伊織の言葉に少し驚きながらも、琉依は私の頭を優しく叩くと

 「へぇ……俺はちょっとでも夏海から離れたら、こうやってハグしてくれるんだ〜。役得、役得」

 そう言って抱き締めてくれるが、今の琉依はいつもと様子が違っていた。

 「琉依……?」

 「少し……このままでいて」

 琉依の顔を窺うと、さっきまで笑っていた琉依の顔は暗く沈んでいた。そんな琉依を見て、私はほんのわずかだが不安を覚え始めた。


 「……み?」

 こんな琉依、見た事ない……。

 「……つみ?」

 何かあったらいつも話してくれていたのに。まだ何も聞いていない。

 「夏海!」

 琉依の呼び掛けで我に返った。

 「もう、離れてくれてもいいんだけれど?」

 すでに琉依は私を自由にしていたが、私はずっと琉依にしがみ付いていた。

 「お、おぉっそうデスか! 失礼しました!」

 あわてて琉依から離れようとしたが、再び琉依が背中に腕を回してきた。ん……?

 「そう、気が遠くなるほど夏海チャンは俺の事が好きだったのね……」

 ごめん、ごめんと琉依は抱き締めてきたかと思うと、そのまま私を抱き上げた。……やっぱりいつもの琉依だわ。

 「あら、よかったじゃない夏海。新しい彼氏が出来たじゃないの」

 伊織は微笑ましく私に告げた。

 「冗談じゃないわよ! こんなのが彼氏になったら、すぐに妊娠しちゃうじゃない!」

 全く……普段見せない表情なんかして、少しでも心配して損したわ。

 けれど、少し芽生えていた私の不安……これが近い内に現実となるなんて、今の私には想像すら出来なかった。


 それから私達はそれぞれ講義を受けに戻っていった。とは言っても、私と琉依は一緒だが。

 一生懸命講義内容を頭に入れていく私の隣では、琉依が気持ちよさそうに眠っていた。いくらトップの成績を持っているからって、こんな風に寝てばかりいると成績も落ちるのに……。

 そんな事、言うだけ無駄である。琉依が興味あるのは遊びだけって事は充分わかっていたから……。それに、こう怠けてばかりいても不思議と彼のトップの座が揺らぐ事はなかった。それもまぁ、天才の一言で片付けられるのでしょうが……。

 「だけど、講義が終わるごとに起こす私の身にもなって下さいよ!」

 眠っている琉依に呟いたが、それで起きるほど浅い眠りではない。だから私はいつも……

 「それじゃあ、今日はここまで」

 ガツンッ!!

 教授の言葉と同時に、琉依の頭を殴る……これがいつもの起こし方である。

 「るーい! 起きなよ、これから伊織の用事に付き合う約束したんでしょ?」

 琉依の荷物も一緒に持って、まだ眠たげな琉依に声をかけた。

 「やだ、琉依ったらまた寝てたの? 仕方の無い子ね」

 待ち合わせの場所になかなか現れない琉依にしびれを切らしたのか、伊織がわざわざ国際学部までやってきた。そのまま琉依と伊織と別れ、外に出た時だった。

 「あっ……」

 私の目の前を、パンストの……もとい浅井尚弥クンが通り過ぎていった。

 「ねぇ!」

 私の呼び掛けに、彼は立ち止まり振り向いた。

 「あぁ、槻岡サン。体調はどう?」

 昨夜、飲み過ぎていたのを気遣っての事か……お優しい事。

 「えぇ、大丈夫よ」

 「そう、それは良かった。じゃあね」

 彼は笑って答えると、再び帰り道へと足を向けた。違う……そうじゃなくて、昨日の謝罪をしないといけないのに。

 「あの……!」

 私の発した言葉に、彼は足を止めると再びこちらを振り返った。

 「今夜……ヒマ?」


 ……何を言っているんだ、私の口は。

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