act5 朝、目が覚めると……2
○月×日
自分で作った誓いを早速破り、パンストの彼と浴びるように酒を飲む。あぁ・・・惨めだわと思いながらも、そうする事でしか自分を慰められない自分の不器用さに情けなくなってくる。
目が覚めると、そこは見覚えのある部屋。隣りには、この部屋の主である琉依が手を繋いだまま寝ていた。
昨夜の事は覚えている。あれだけ飲んだのに、本当に酔えなかったんだ。ただたくさん飲んで、醜態をさらしてはみんなに迷惑を掛けただけ。
「参った。これじゃあ本当に惨めなだけだわ」
今更ながら、自分の情けなさを思い知ってしまう。
琉依にも迷惑をかけてしまった。いくら幼馴染みでも頼りすぎている。これじゃあダメだって事は分かっているけれど、今の私には支えてくれる人がいないと辛い。
そう思いながら、寝ている琉依の髪に触れた時ゆっくりと琉依の目が開いた。
「おはよん」
そのまま琉依はベッドから降りると、階下へ行ってコーヒーの用意を始めた。
「ごめんね」
戻ってきた琉依に対して私は謝ると、琉依は反応する事も無くコーヒーカップを私に差し出す。
『ごめんね』
この言葉を私は今まで何回言ってきたのか。琉依はそのまま私の隣りに座ってくる。
「夏海は、嫌な事があったらすぐに怒鳴り散らすけど、俺が一緒に寝たら翌朝必ず1番に謝ってくるんだ」
仰るとおり。痛いほど、琉依は私の事を分かっている。
「大丈夫、わかっているよ。夏海は不器用なだけなんだって事くらい」
そう言うと、琉依は優しく私の頭を撫でる。
ありがとう。琉依は、今の私には1番必要な存在かもしれない。
「兄貴も心配してたから、後で電話してねん」
琉依の言葉に、ただ頷くだけだった。
「あと……浅井尚弥君にも」
うん、うん……うん?
「浅井尚弥? 誰それ」
寄りかかっていた琉依の体から離れて、琉依の顔を見上げた。
「蓮子曰く、パンストの彼? 彼も心配していましたよ」
あぁ、彼にも悪い事したなぁ。
彼は全く関係ないのに、酒をガバガバ飲ませるだけ飲ませた挙句に当り散らすなんて……最悪を通り越していますよ。と、言うか
「何で琉依がパンストの彼の名前を知っているのよ?」
「パンスト、パンストって。昨夜、迎えに行った時に聞いたんだよ」
琉依は苦笑いをしながら答えた。
浅井……尚弥。次に会ったら、聞きたかった名前。
“飲む事で寂しさを紛らわせるのは、反って惨めなだけ”
昨夜こぼした彼の言葉が頭から離れない。
「夏海?」
琉依が顔を覗いて来る。私は顔を琉依の胸に埋め、ぐいぐいと頭を動かした。
「な〜に甘えているんですか? 子供みたいですよ」
琉依はそう言うと、煙草に火をつけた。でも、それ以上は何も聞かない。ホント、あんたは私の事をよく知ってるね。
大学へ行って、ちゃんと浅井クンにも謝らないと。
琉依から離れ、ベッドから降りてクローゼットから服を取り出した。しょっちゅう琉依の家に泊まるから、何着か服を置いているのだ。
「て言うか、今度こそお酒を飲むのはやめよう!」
改めて、誓いを立てた。失恋をお酒で忘れるのは自分が惨めになるだけだから。
「そうだね。夏海ならすぐに立ち直れるよ」
琉依は私の頭をポンポンと優しく叩き、そのまま顔を近付けてきたかと思うとキスをしてきた。
「琉依〜!」
琉依の頬を抓ると、琉依は痛そうな顔をしながらも
「昔から、こうしてキスしたら夏海元気になってたし〜」
そう言われたら、何も言えなくなるじゃない。確かに、私は小さな頃から元気がない時に琉依がキスをしてくれると、不思議と笑顔になり元気になっていたから。
「ていうか、今も通用するとは思いませんでしたが……」
琉依は笑っていた。
本当に琉依には感謝している。いつも助けてもらってばかり。もし、琉依がいなくなったらどうなるのか。
そう思いながらジーッと琉依を見上げていたら、琉依はケラケラと笑うと、
「大人になったら、1回じゃ物足りないのかな?」
と、再び顔を近付けて来たので、私は琉依の額をバチンと叩いた。
ふざけた行為だと思うが、私はだいぶ癒されたと感じていた。これが、琉依なりの癒し方なのだ。
「さて、大学に行きますか?」
私は車のキーを持ち出し琉依に渡すと、琉依の家を後にした。