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act4 破られた誓い



 琉依のせいでずっと枕代わりだった膝は、立ち上がった時すごく痛かった。しかもまともに講義も出れず、大学に来た意味が無い。こんな事なら、家でひたすら泣いていた方が良かったかも。


 「夏海ちゃん、帰ろう」

 一人歩いていた私の元に、梓が走り寄って来た。小柄で可愛い梓……私もこうだったら、振られたりはしなかったのかなぁ。

 梓の頭を撫でながら一緒に歩いていると、

 「あっ……」

 私よりも梓の方が先に声を出していた。そんな私たちの目の前には会いたくなかった男、賢一がいた。

 賢一は私の存在に気がつくと、気まずい感じすら見せずにそのまま私の横を通り過ぎて行った。

 思わず振り向いてしまった自分が情けなくなる。賢一はもちろん振り向く素振りも見せない。見せた所で彼に何を求めるのか。やり直そうって頼む? そんな惨めな事できるわけがない。

 「夏海ちゃん……」

 虚しく立ち尽くす自分に、梓が心配そうに声を掛けてくる。

 そんな梓に伊織と帰るよう詫びると、そのまま一人歩いていった。


 ――――


 「昨日の今日だぞ〜! 少しくらい動揺した素振り見せろよぉっ」

 気がつけば、昨日と同じバーで飲んでいた。

 酒は控えようと今朝決めたばかりなのに、その誓いは一日も持たず破られた。持っていたグラスの中身は既に空っぽ。

 「ナオトぉ! おかわりぃ!」

 空のグラスをバーテンのナオトに渡す。ナオト=尚人は琉依の兄であり、もちろん彼も私の幼馴染み。そんなナオトが経営するこのバーは私たちの溜まり場でもある。

 「なっちゃん、飲みすぎだよ。昨夜も飲んでたじゃないか。今日はもう帰りな」

 ナオトは私からグラスを取り上げると、代わりに水を差し出した。ナオトが止めるほど飲んでいたのに、全く酔ってなかった……酔えなかった。今すぐさっきの賢一の顔を忘れたかったのに。お酒を飲む事でしか忘れられないこの情けない自分にも愛想が尽きる。

 「いいっ! ナオトがくれないなら自分で淹れるから」

 ナオトの側にあるボトルを取り上げ、水を捨てたグラスに注ごうとした私の手を誰かが掴んできた。

 「飲みすぎだよ、槻岡夏海さん」

 声の主は、パンストの彼! これで3度目の遭遇だわ。

 「よく会いますね〜。蓮子から聞いたよ〜、同じ大学なんだってね」

 自分の腕を掴む彼の手を払い除けると、お酒をなみなみと注いだ。

 「で、何かと会いますがまだ私に何か用があるのでしょうか?」

 一気にグラスのお酒を飲み干して彼の方を見ると、彼はただ黙って座っているだけ。

 「つまらない男ね。まるで人形みたい」

 ツンっと指先で彼の頭を突いた。そして、再びグラスにお酒を注ぐ。

 すると彼は私の注いだお酒を取り上げると、そのまま一気に飲み干した。あまりにも突然の行為に驚きはしたものの、すぐにご機嫌になり、

 「あら、いい飲みっぷりじゃん。ほら飲んで飲んで〜」

 再びグラスにお酒を注ぎ、その度に彼は飲み干していく。徐々に私の気分も良くなっていく。

 「ホント、よく飲むねぇ」

 空になったボトルを彼に見せ付けた。そして、もう1本と物色していた時、やっと彼の重い口が開いた。


 「飲む事で寂しさを紛らわせるのは、反って惨めになるだけだから……」

 彼の言葉に、ボトルを探す手が止まる。確かにそう、飲んで泣いて飲んで泣いてを繰り返すだけ。それが惨めなだけというのは自分でも分かっている。

 「分かっているけど、惨めだって分かってる! けど、他に方法がないんだもん。どうしたらいいの? お酒を飲む事以外でアイツを忘れられるにはどうしたら……」

 小刻みに肩を震わせながら言った。

 「だからと言って、酒に頼るのは……」

 「わかったような事言わないでよ! 何よ、1回ヤッたくらいで彼氏ヅラしないで!」

 わかってる。彼は少しも悪くない。むしろ心配してくれているのだから、感謝するべきなのだ。それなのに私の口から出る言葉は、その意思とは反するものばかり。

 でも、どうする事も出来ないの。大きく開いてしまった心の中の空洞は自分ではもう修復できない。

 「好きだった……愛してた。いっぱい、いっぱい愛してた!」

 飲んだお酒みたいに大量の涙が流れてくる。助けてよ、こんな惨めな私を助けて……。


 ただ泣いていた私の側に、覚えのある香りが漂ってきた。落ち着ける私の好きなこの香り。その香りの主は、私の頭に優しく触れてきた。

 「琉依ぃ」

 いつの間にかやって来た琉依の姿を見た途端、さらに気が緩んでしまった私は琉依にしがみ付いた。琉依はそんな私をいつもの様に優しく包んでくれる。

 「兄貴、悪かったな」

 琉依はナオトに呼ばれたんだ。ナオトにも心配かけさせるなんて。

 「それと、えっと……」

 琉依が私を抱き上げた後、彼に何か言っているが意識が遠のいてしまいそれを聞く事も出来なかった。

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