act3 優しい琉依
「……で、気が付いたらさっきの彼と同じベッドの中って訳ですか」
しつこく聞いてくる蓮子のせいで、一限目の講義をサボって構内の喫茶店で二人に説明すると、蓮子が目を細めて言った。
「夏海ちゃんったら」
お嬢様の梓にとったら、こんな事は考えられない事なんだな。
それにしても、“彼”は一体何者? どうしてここにいたのか。
「そういえば、さっきのパンストの彼だけど見たことあるわよ」
「誰っ! 誰なの? アイツは」
思わず蓮子に飛びついて尋ねた。さすが、男好きの蓮子だけあってそこいらの男はチェック済みなのね。
「同じ大学の人よ。確か文学部……国文学科だったかな。夏海は国際学部だから知らなくて当然だわ」
そういうあんたも、社会学部で本来なら知り合う事すら無いのに……と思ったが、蓮子には言うだけ無駄だった。そんな蓮子の隣りで梓は何かを考えていた。
「あら? 夏海達じゃない。どうしたの?」
全員が振り返ると、そこには伊織が立っていた。
「ちょっと、夏海に事情聴取中! そういうあんたは、今頃来たの?」
「そうなのよ、昨日の稽古が遅くまで続いてさっきまでグッスリ。夜更かしは美容に悪いのよねぇ」
蓮子の問いに、伊織はそう可愛らしく欠伸をして話す。伊織は、おネェ口調ではあるがれっきとした“男”である。そして、
「おはよん、梓」
梓の頭にキスをするこの一応男は、梓の彼氏でもある(オカマだけど)。2人が付き合うようになってしばらく経つが、未だに信じられないくらいだ。
けど、2人が仲良くしているのを見ると賢一との事を思い出す。
「事情聴取は終わりね。私、レポートを出してくる」
「夏海?」
立ち上がると、蓮子の声に振り返らず手を振って喫茶店を後にした。今の自分の顔を誰にも見られたくなかった。
流れてくる涙を拭きながら歩いていると、広場で寝転んで煙草を吸っていた琉依の姿が視界に入った。側に寄って琉依の顔を覗き込むと、琉依は笑顔で返した。
「講義は?」
泣き声で琉依に問いかけると、
「夏海いないから、サボっちゃった」
相変わらず琉依は笑ったままだった。そんな笑顔につられて私も、
「せっかくノートを写させてもらおうと思っていたのに」
そう、笑顔で答えた。
何も聞かないし、何も言わない。わかってる、それがあんたの優しさっていう事を。
「……っていうか、パンスト忘れたらダメでしょ」
隣りで寝転んでいる琉依の突然の一言に、思わず飛び起きてしまった。
「何で知ってるのよ!」
あぁ、蓮子だ。朝、教室でパンストをちらつかせていたら、誰の目にも留まりますわな。
琉依はケラケラ笑っていた。確かに迂闊だったが、あの状況ではとても周りの確認ができる程の余裕はなかった。まぁ、普段から女遊びをしている琉依ならそんなヘマはしないのでしょうけど。
「当たり前でしょ。俺は寝る女とは情事の一期一会。後々が面倒だから、そんな再び会う口実が出来るようなヘマはしませんよ」
言っている事にやっている事は最悪だけど、なんだかんだ言って長く付き合っていられるのは、そんなところを嫌だと思わせない琉依の魅力のせいなのだろう。
しかし、関係を持った女とは一期一会だという琉依にも例外がいる事を私は知っている。長い付き合いの私でさえも、未だに不思議さを感じるこの……
「バカ!」
私の膝枕で寝入った琉依の頭を軽く叩いた。こんなバカでも、恋ではない愛しさを感じさせる。
ふと顔を上げた私の視界に、再びあの“彼”が現れた。
「あっ」
立ち上がり行こうとしたが、琉依が寝ていた為それはできなかった。
“彼”はそのままその場から去っていった。私と琉依の関係でも誤解されたかなぁ。でも、まあ別に関係ないけど。
「……ていうか、講義に出たいのですがねぇ」
気持ちよさそうに寝ている琉依の頭を叩いた。
今度はさっきより強めにネ。