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act23束の間の別れ

恋人同士は、必ず一緒にいなければならないと言う訳じゃない。お互いの進む道が違ったら、離れたらいいだけ……。別にそれが恋の終わりじゃない……。必ずまた会えるのだから、その時にめちゃくちゃ甘えてやればいい。琉依……こんな私の気持ちをアンタはどう思う?

 

 とうとう、琉依が旅立つ日……


 「何ていうか、ここまでみんなが来てくれるとイギリスへ行く実感が全く出てこないよね〜」

 空港の国際線ロビーでは、琉依がイスに座ってくつろいでいた。そんないつもと変わらない琉依を、冷めた目で見ているみんな……。

 「まったく……このバカはイギリス行っても通用するのかしらね」

 呆れたように伊織が呟いていた。でも、わかっている。本当はもの凄く緊張しているって事くらい。

 「琉依! 荷物預けてきたぞ!」

 戻ってきたナオトはそう言うと、琉依にチケットを渡した。

 「ありがとう、兄貴」

 受け取る琉依の手が少し震えているのを見逃さなかった。やっぱり、不安なんだよね……。初めて行く場所だから、不安も拭いきれないくらいたくさんある筈。



 「さて、俺たちは先に屋上に行ってるから。夏海、恋人との束の間のお別れをちゃんとしろよ!」

 渉はそう言うと、みんなを連れて屋上へと向かった。

 みんなの気遣いで与えられた、私と琉依の二人だけのわずかな時間……。でも、いざとなると何を話したらいいかわからないよ。


 「て、手紙を書くから……」

 「手紙なんか出しても、返事書かないよ」

 早速、イギリス女と浮気する気満々かい……。

 「で、電話かけてもいい?」

 「だめ。一生出ないから」

 う……。琉依の意地悪な仕打ちに思わず涙が出て来る。普通、別れ際にはもうちょっと優しく接しようとか思わないのか……。

 「何をするのもダメ! だって、せっかく夏海が魅力的な女になるのに、会うまでにそれが分かってしまったら嫌ですから」

 意地悪だと思ったら、琉依の嬉しい我がまま……。ほら、寂しくて流れていた涙が今度は嬉しくて流れてくる。

 ここまで想われている私は、やはり幸せなのかもしれない。

 でも、ここでそんな優しい言葉を掛けられたら、飛行機なんて飛べなくなってしまえばいいなんて思ってしまうよ。


 −○○航空ロンドン行き××便ご搭乗のお客様は……−


 しかし、そんな私の願いも空しく無情にも琉依を呼ぶアナウンスが鳴り響く。


 「それじゃあ、行こうかな」

 手荷物を持った琉依が立ち上がる。


 “もう、行ってしまうの?”


 そんな一言が言えたらいいのに……。何かがそれを邪魔している。つまらない意地? こんな時くらい、そんなもの捨ててしまえたらいいのに。


 「じゃあね」

 あっさりした一言で、琉依は歩いて行く。私の返事を聞く事もなく、早々と去っていく。

 なんて、あっさりした別れ方……。本当、琉依らしいよ。

 琉依の後ろ姿を見送らずに、私は屋上へと向かう。これもくだらない意地の一つなのかもしれない。けれど、その時だった……。


 「なっちゃん!」

 琉依の久しぶりに呼ぶ私の愛称に思わず振り返ると、琉依が足早にこちらへ戻って来る。そして、私の前に立ったかと思いきや……。

 「……!」

 琉依の唇が自分の唇に重なる。そして、ゆっくりと琉依は離れると

 「こういう場合、最後はやっぱりキスで締めくくらないとね!」

 「る……琉依!」

 自分勝手な琉依の行動に、思わず手が出てしまう。そんな私の手を、琉依は簡単に掴むと再びキスをしてきた。

 「……行ってきます」

 もと来た方を振り返る時に、私の頬にかかった滴……。少し温かいこの滴は、琉依の……

 「涙……?」

 さっきよりも足早に去っていく琉依。手を振る事もなく、こちらを振り返る事もなく……。


 みんなが待つ屋上へ行き、琉依が乗る飛行機を眺めた。

 「一緒に行くと思っていた……」

 じっと眺めていた私の元に、浅井クンが声を掛けてきた。

 「行かないよ、今はね。これから自分を磨き倒して、魅力的な女になってから琉依に会いに行く事にしたから」

 大丈夫、例え時間がかかっても必ず行くから……。アンタが痺れを切らして日本に帰って来る前に。

 「ありがとう。出会いは最悪だったけど、あなたに出会えて本当に良かった」


 目が覚めたら、見知らぬあなたと同じベッドの中……。そこで終わりかと思いきや、偶然同じ大学だったあなた。

 無理矢理飲み会に付き合わせて、愚痴を浴びるほどぶつけた挙句八つ当たりまでした。

 でも、その度に私の心を何回も動かしたあなたの言葉は、今でもちゃんと響いている。あなたのおかげで今の私がいるから、たとえ最悪な出会い方でも今では最高の友達。

 「俺も槻岡サンに出会えて良かった。何も興味が無かった俺が、今はこうして弁護士の勉強を始めたり、こうして大切な仲間も出来た。本当にありがとう」

 ちょうど琉依が乗っている飛行機が離陸した時、私達は握手をした。握手なんてちょっと照れくさい感じもしたけど、自然と行動に出ていた。


 「さあっ! バカを見送った事だし、お昼でも食べに行きましょうよ」

 伊織がみんなを率いて屋上を後にする。私は、もう一度琉依が乗った飛行機が飛んでいった方向を振り返った。大丈夫だよ……。すぐに会えるから……。


 「せいぜいイギリス女と遊びまくってるがいいわ! 遊んで遊んで、それでも結局は私が一番だと必ず思わせてやるからぁぁぁっ」

 既に姿の見えない空に向かって、私は届くはずの無い言葉を叫んだ。そんな私を、伊織が恥ずかしそうに引っ張って行く。




 待ってろよ……琉依。



1ヶ月振りの投稿です!遅くなり、本当にすいませんでした!この作品もあと1話で終わりです。次回作は梓が主役のお話を作っておりますのでよろしくお願い致します!

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