act22大切な恋人と仲間へ…
「それでは、琉依の夢への第一歩に乾杯!」
琉依のイギリス行きを目前にした今夜は、仲間が集まってナオトの店を貸し切りにして送別会をする事となった。
渉の一声でみんなはグラスを高く上げると、琉依の未来に乾杯した。
先日、琉依に宣戦布告(?)してから、私は少しずつ自分を変えていく準備をしていた。
「待ってるよ」
と、言った琉依に少しでも追いつく為に努力は惜しまない。琉依の予想以上の私に変わるのだから。
「見てなよ、絶対にいい女になってやるから!」
「ちょっと、いい気分になっている所を申し訳ないのですが、今日は琉依の送別会っていうの分かっていますか〜?」
一人、変に盛り上がっていた私を伊織が鎮めにやって来た。
た、確かに、今日は琉依が主役だった……。
「じゃあ、琉依! 何か俺達に言うこと無いか? 今なら何でも言っておけよ!」
そう言って渉は琉依の背中を押した。琉依は照れくさそうに私達の前に立つと、一度軽く咳をした。
「じゃあ……、俺からみんなへ一言……」
普段、滅多に見られない琉依の真剣な顔に、思わず私達も真剣な顔になってしまった。一体、何を言うつもりなの?
「もし……、もし、俺が今まで寝た女達が俺の居場所を聞いてきても、決して教えないで下さい! もう、それだけが心配なのよ! 俺は……」
私が出るまでも無く、すでに伊織と渉が琉依の頭を殴っていた。
本当に、こんなのの為に私は魅力的な女を目指してもいいのかと、今になって悩んでしまう。
「嘘! 嘘よん……。ちゃんと言うから殴らないでよ!」
渉と伊織の攻撃に必死に抵抗しながら琉依は立ち上がると、再び真剣な表情になった。
「俺の大切な仲間にこうして集まってもらえて、俺は本当に嬉しいです。突然の俺の身勝手な行動に快く送り出してくれて本当にありがとう」
琉依はそう言うと、渉の前に立った。
「お前は、目立っていないようで実はみんなを元気にする力があるんだ。これからも、お前の有り余っている元気をみんなに分けてやってよ」
そう言った後、琉依は渉に何か耳打ちをしていた。何を言ったかは知らないが、渉の顔が何故か赤くなっていた。
「伊織、アンタは将来絶対いいデザイナーになりますよ。そしたら、アンタがデザインした服を俺に着させて下さいよ」
頷く伊織は涙ぐんでいた。琉依はそんな伊織の肩を優しく叩いていた。
「蓮子、君は介護士になるんだってね。間違って患者や他の介護士を誘惑しないようにね」
蓮子の肩を叩いて言うと、蓮子も涙を我慢しながら頷いていた。
「梓……。君には一言だけだよ。愛しているよ!」
「きゃ〜! きゃ〜! きゃ〜!」
ここだけはいつもと変わらない展開に、一気に気が抜けてしまった。さっきまで涙ぐんでいた筈の伊織が、再び琉依を殴っていた。
「やっぱり……バカ」
「そ、そして、浅井クン……て言うか、尚弥でいいかな?」
伊織に殴られてフラフラの琉依の申し出に、浅井クンは頷いていた。
「尚弥、君とはわずかな付き合いだったけど、この何ヶ月かは一番君とたくさん話した気がする。君はしっかりしているから、これからもみんなをまとめてやってね」
琉依が言い終わると、今度は浅井クンが琉依に何か耳打ちをしていた。浅井クンからの一言に、琉依は笑顔で返していた。男同士の秘密なのか?
そして、とうとう私の前に立つ琉依。優しく見つめるあなたは、私に何を伝えてくれるの?
「……おいで」
そう言うと、琉依は私の腕を引っ張りみんなの前へと立たせた。何が何だかわからない私やみんなは、琉依を見るしか出来なかった。
「頑張るよ。イギリスで必死になって頑張るから。夏海が来る時には、いつものように余裕のある俺で迎えられるようにね」
あ! このバカ! そんな事言ったら、みんなが……ほら、驚いた表情で見ている。みんなにはまだ言っていないのに……。大バカ!
「あ、あらあらまあ……。何? もしかして、あなた達付き合っているの?」
ほら、伊織が聞いてきた。どうするの? なんて思っていたら、琉依が私の肩を引き寄せた。
「最後に、俺の彼女の夏海チャンです。みんなよろしくねん」
なんて、最悪な紹介の仕方……。怒り通り越して呆れて、気を失いそう……。その前に、力を込めて自分の肩に置いている琉依の手を抓った。
「いてて……。でも、本当に待ってるよ」
みんなの前で、琉依は私を抱き締める。
「愛してる」
みんなには聞こえないように耳元で囁く琉依の告白付きで。
もう一度、その言葉を聞いてみせる。今度はイギリスで……。それまで、どうかこの言葉の効力が消えないように……。
とうとう、ここまできました。予定では、あと2話で完結です。只今、シリーズ第二弾の執筆中です!こちらの方もよろしくお願い致します。