act2 予期せぬ再会
琉依が来るのを待つ間、私はずっと昨夜の記憶を探していた。
講義が終わって、蓮子や梓とショッピングへ行こうとしたら……
「あっ」
思い出した。そうだ、その時恋人の賢一が来て……
「あ〜そうだ! 振られたんだよ、私は」
私とはもうやっていけないって、別れを告げられてしまったんだっけ。それから、私の答えを待たずに去っちゃって。
「そうそう、終わっちゃったんだ」
それから、一人で飲んでいたら“彼”がいたのか……いなかったのか。
「だめだ! そこから思い出せない」
ただ、分かるのは名前も知らない男と寝てしまったということ。
「だ〜っ! しばらくは酒は控えないとね」
一人反省していると、目の前に車が止まった。中から琉依が降りてきて、座り込んでた私の顔を覗き込むと、
「おうち、帰ろうね?」
と、笑顔で言った。
たった一言なのに、琉依の言葉はなぜか気が緩んで涙が出てくる。
琉依はそんな私を見ると、私を軽々と抱き上げて車に乗せ、その場を後にした。
「賢一にね、振られたの」
運転している琉依に話しかけた。琉依は横目でこっちを見ると、
「そう……」
ただ一言だけ言うと、再び運転に集中していた。
何も聞かないのね。でもそれが琉依なりの優しさだった。
「じゃあ、後でね」
しばらく車を走らせてから、家の前で私を降ろすと琉依は再び車を発車させた。
琉依の家は、私の家から歩いて行けるほど近い。だから大学へも毎日一緒に行っていた。
「憂鬱……」
ため息をつきながら、家の中へと入っていく。
別れた賢一とは同じ大学。これから毎日会うかと思うと、ため息も出る出る。
今までは早く会いたいなと思っていたのが、1日過ぎるのも嫌になるなんて昨夜までは思っていなかった。
――――
「あ〜頭痛い」
さっきまで忘れていた二日酔いの症状が、一気に襲ってくる。教室で頭を押さえていると、
「ちょっと〜、二日酔い?」
隣に蓮子と梓が座る。
二人は学部が違うが、1限が始まるまでは私の教室で話をしていた。
「夏海ちゃん、昨日賢一君と羽目を外しすぎたのね」
梓の言葉に一瞬動揺してしまった。これだけで動揺するなんて。
「夏海?」
蓮子が顔を覗き込んでくる。
「あっ、そうそう! 私振られたんだよ、賢一に。“もうやっていけない”って言われてさ」
自分でも分かるくらい無理して笑顔を作って2人に話した。
「えっ?」
2人の表情は、驚きのものと“しまった”という様子を表していた。
「夏海ちゃん、大丈夫?」
梓が心配してくれている。本当にいい子なんだから。
「大丈夫、大丈夫。1人で飲んだらスッキリしたから」
なんて、ウソ。そんな事で忘れられる程の恋だった訳じゃない。順調にいってて、これからもその気持ちは変わらないと信じていた。私は、そう思っていた。
トンッ
その時、私の前に小さな紙袋が置かれた。
「えっ?」
それを置いた人物を見て、私は思わず凍り付いてしまった。
「昨夜の忘れ物ダヨ、槻岡夏海サン」
その人物は他の誰でもない、今朝ホテルで一緒にいた“彼”! 何で私の名前を……っていうか、何でここに?
「なっ……」
驚きの余り、何も言えないでいた私に対して“彼”はニッコリ笑うと、
「じゃあね」
手を振りながら、そのまま教室を去っていった。
小刻みに震える私の横で、蓮子は紙袋の中身を取り出した。紙袋の中身は……
「パンスト……」
蓮子はそれを私にちらつかせると、
「昨夜、1人で何してたって〜?」
再び顔を覗き込んでくる。ホント、カンベンしてよ……




