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act17これも恋の始まり?

△月○日

琉依が退学届を提出した事が発覚して、何も知らされていなかった私達は大騒ぎ。一体何を考えているのか、いい加減分からなくなってきたその時、琉依から電話が……会いたいよ。

 

 合鍵で玄関の扉を開けるが、中は本当に琉依がいるのかと思うくらい静かで真っ暗だった。

 電気を点けて、階段を上がって琉依の部屋の扉を開けると、隅の方で琉依はただ座って俯いていた。


 「琉依……?」

 私の呼びかけに、琉依は俯いていた頭を上げるといつもと同じ様に笑いかけた。

 “会いたい” なんて滅多に言わない事を言うくらい弱気になっているくせに、無意味な強がりを見せる琉依が更に弱々しく見えた。

 そんな琉依の側に近付き座ると、小さく感じた琉依の体を腕で包み込んだ。

 「いつもと立場が逆だね」

 小さく笑いながらまだ強がりを見せる琉依だけど、やがて自分の弱さを素直に出してくれたのか、何も言わずに私に体を預けてきた。



 「どうして、急に退学届なんか出したの?」

 しばらくして、琉依が落ち着いたのを確認してから尋ねた。

 「急じゃないよ。前々から思っていたんだ」

 落ち着いても、まだ琉依は私から離れずに答えた。

 「そんな素振り見せてなかったじゃん」

 「見せたりなんかしないってわかってるでしょ」

 私の言葉に意地悪く答える琉依は、いつもと変わらない琉依だった。そう、琉依は決して人に弱さをさらけ出したりしない。だからこそ、私は琉依の苦しみを分かってあげる事が出来なかった。

 「心配したんだから。今朝も私の事見えてたくせに、そのまま通り過ぎて……」

 「大事な用があったんだ……」

 「大事な? 私よりも?」

 「夏海よりも」

 意地悪な琉依の笑顔に一瞬気が抜けたが、自分よりも大事な用事が気になる。


 「夏海」

 「な〜に?」

 「ギュってしていい?」

 「……はっ?」

 いつもなら、何も言わずに抱き締めて来るくせにこうして了解を得て来るところを見ると、やはり今日の琉依はおかしかった。

 「嫌って言ってもするくせに……」

 そう呟くと、琉依はまた意地悪な笑顔を見せてきた。

 「じゃあ、遠慮無く」

 本当に抱き締めてくる琉依に呆れたりもしたが、どこか様子がおかしい琉依に何でもしてあげたいと思ったので、何も言わず身を任せた。


 「夏海……」

 「な〜に? 今度は何をして欲しいの?」

 今日くらいは我がままを聞いてあげようと思っていた私は、琉依の呼びかけに笑顔で返した。


 「俺……、イギリスに行くんだ」

 突然の琉依の告白に、思わず顔を上げて琉依の表情を確認したがさっきまでとは違って真剣なものだった。

 「な、何言ってるの?」

 あまりにも突然すぎて、今の状況を把握できていない私を琉依は少し寂しげな顔で見ていた。

 「語学の勉強に行きたいとずっと思っていた。大学では視野が狭すぎる。もっと広い所で……」

 「そんな事を聞いているんじゃない! そんな事じゃない……」

 どうして“今”なのか? 私の気持ちが不安定な時に……、どうしていなくなるって言うの?

 あぁ、琉依が困った表情を見せている。これ以上琉依を困らせたらダメだと分かっているのに。琉依を自由にしてあげないと……。琉依を……、自由に……。

 「出来ないよ……。出来ない……」

 流れてくる涙を抑える事無く、琉依に訴えかけた。

 やっぱり出来ないよ……。琉依が自分から離れるなんて……。

 「私、まだ琉依を自由にできる自信がないよ……」

 改めて自分の弱さを思い知らされる。小さい頃から琉依がいないと何も出来なかった私……。どうして、こんなに自分は甘く弱い人間なのか。どうして、今更気付いてしまったのか……。一番近くにいたのに……。失いかけてから気付いてしまうなんて……。



 「俺を自由に……しなくていいよ」

 子供みたいに泣きじゃくる私の頭を撫でながら答える琉依を見上げると、さっきまでの寂しげな表情から穏やかな表情へと変わっていた。

 その表情から、琉依が何を考えているのか分からなかい私は、ただ琉依の顔を見上げるしか出来なかった。

 「一緒について来てくれる?」


 一瞬、琉依が何を言っているのか分からなかった。本当に分からない事ばかりなので、この言葉の理解にも苦しんだので思わず、

 「はいっ?」

 気の抜けた私の返事に、琉依も気が抜けたのか笑っていた。

 琉依は一体どういう意味を込めて言っているのか。

 「俺も、これ以上夏海を自由にはしてあげないから」

 その言葉を聞いて初めて気がついた、琉依のさっきの言葉。でも、私の勘違いかもしれない。だから、ちゃんと伝えて?

 「俺は夏海が好きだよ。もう、人にも自分にも嘘がつき通せないくらい」

 「琉依……」

 私の返事を待たずに、琉依が抱き締めてきた。

 一番近くにいて当たり前だった存在……。やっと気付いた琉依の大切さ。ずっと側にいたい……いて欲しい。そして、私を必要として。


 「夏海が俺を嫌いでも、ずっと側にいてやる。他に好きな男がいても俺に振り向かせてみせるよ。ずっと夏海がよそ見を出来なくなるくらい、誘惑し続けるから」

 いつもの遊び人の顔とは違うのが分かる。それでも、やっぱり琉依が言うとおかしくなる。

 「すごい自信……。どこから出てくるの?」

 「ん? 俺だから出てくるの!」

 琉依の答えに呆れもしたが、琉依らしいと笑ってしまいそのまま琉依の背に腕を回した。


 「いつか、そんな余裕を見せられなくなるくらい私に夢中にさせてやるから」

 無理な強がりを見せた私を、琉依が笑顔で抱き締めた。


 今までずっと一緒にいたのに、失いかけてからやっと気付いたこの気持ち……。


 これも恋の始まり?



 



いつも読んで頂き、本当にありがとうございます! とうとう琉依が自分の気持ちに正直になりました。これから夏海がどの道を選ぶか、完結まであと少しですが見守って下さると嬉しいです。

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