act15衝撃の一日
△月◎日
浅井クンの突然の来訪に驚いたけど、私の話を聞いてくれた時の彼の顔はとても真剣だった。そんな彼を見て、やっと元気になれた気がした。琉依にも感謝! 賢一に復讐してくれたと聞いた時は本当に気分がすっきりした。
翌朝、今までなかった出来事が起こり、思わず驚きを隠せないでいる私……。今まで当たり前のように思っていたから、尚更驚きも大きい。
そんな私は、ただ家の前で呆然と立ち尽くしていた。確かに私の存在をその目で確認した筈なのに、そのまま私の前を通り過ぎて行った……琉依。
いつもなら、大学に行く時は必ず家の前で待つ私を乗せて一緒に行ってたのに。今日は、そのまま走り去ってしまった。
門の前にいたのだから気付かない訳がないと思ったが、琉依は行ってしまったのだ。戻ってくる気配も無い……。
何かあったのかも……そう思う事にして、私は久しぶりに一人で大学に行く事にした。
「おはよう」
「あら、夏海。琉依は一緒じゃないの?」
いつも通り教室で待っていた蓮子の一言は、私を疑問へと導いた。
琉依なら、先に到着している筈なのに……。まだ来ていない? どうしたのか? などいろいろ考えたりもしたが、結局また遊びに行っているのだろうと思う事にした。琉依の事だ、悩むだけ無駄である。
「さぁ? どうせ、また遊びに行ってるんでしょ」
よくよく考えてみると、琉依はよく私を大学まで送ると自分はそのまま遊びに行ってしまう事が多かった。そう考えると、今朝の一件もやはり大した事ではないのだ。
一限、二限……と講義が終わる毎に、そろそろ琉依が来るのでは? と思っていたが、その思いも空しく琉依が来る事は無かった。来ても寝ているだけなのだが、私は今朝の事を尋ねたかった。
携帯に掛けても、ずっと留守電のアナウンスが流れるばかりで、電話の主が出る事は無かった。
そんな事を繰り返している内に、やがて昼休みを迎えてしまった。
いつものメンバーと裏の広場でランチタイムを過ごす為に、荷物を片付けて広場へ向かう。
広場には、すでに伊織と梓と浅井クンが待っていた。
「あら、琉依ったらまだ来ていないの? 仕方の無い子ね」
自分が作ってきたランチを一つ一つ広げながら伊織が呟いた。
「この弁当……。全部東條が作ったの?」
七人分のランチを眺めながら、浅井クンが伊織に尋ねていた。
「そうよ〜。みんなのランチは私が毎日作っているのよ。これも私の趣味なのよ」
伊織の嬉しい趣味のおかげで私達はお弁当を作る必要が無くなり、こうして毎日豪勢なランチを頂く事が出来るのである。
「だって、梓に毎日おいしいご飯を食べさせてあげたいもの」
伊織の言葉に梓は照れているのか、顔を赤くして笑っていた。相変わらず仲がいいなぁ……。
「悪い悪い! お待たせ」
渉と蓮子が遅れてやって来た。そのまま渉は浅井クンの隣に座ると、浅井クンと話し始めた。
このメンバーの中では一番話しやすいのか、浅井クンと渉がよく話しているのを見かけていた。
「蓮子ちゃんも珍しく遅かったじゃない。どうしたの?」
「ん〜? ちょっと用事を済ませて来ただけ〜」
梓の問いに、蓮子はおかずを口に入れながら答えた。行儀が悪いと、伊織が蓮子を叱咤する。これもまぁ、いつもの事なのだが……。
「そうそう、聞いて! 昨日ねぇ……」
「大ニュース! 大ニュース!」
私が話し始めた時、広場を走りながら誰かが叫んでいた。広場でランチをとる人は多いので、皆は突然の乱入者に何事かと注目していた。
「まぁ……何事かしら? 騒がしいわね」
伊織が少し苛立ちを見せながら、その人物を眺めていた。
「大ニュース! 国際学部の宇佐美琉依が退学届を出したんだってよ!」
「えっ……?」
静かだった広場に響き渡ったのは、突然の琉依の退学騒ぎだった。