act12琉依の復讐
今回のお話は、また尚弥視点で書いています。
「いらっしゃい」
昨夜電話で呼び出された俺は、その相手が指定した場所に到着した。
ここは“N・R・N”という名のバー。待ち合わせの相手、宇佐美琉依の兄の店だ。
店では、彼が一人で待っていた。店の主である、彼の兄もいない。
「ナオトから鍵を借りたんだ。ごめんね、急に呼び出したりして」
彼はコーヒーを差し出すと、俺の隣りに座ってきた。
「それで、今日は何の用なのかな?」
彼から呼び出された時、あまりにも意外な出来事だったので、しばらく驚きを隠せなかった。
「う〜んとね、せっかくこんなに天気がいいから女の子でもナンパしようかな〜って思って」
のん気に話す彼の言葉に、思わずガクッと肩を落とした。呼び出すくらいだから、どんな用事かと思ったらナンパだなんて……。
彼の事は知り合う前から、“夜遊びの帝王”等の異名で有名だったので知っていた。だが、ここまでひどいとは思わなかったな。彼女との関係も曖昧なままだったし、こうして女癖の悪い所を見ると彼女が気の毒になってくる。
「あの……そんな用なら、俺帰り……わっ」
最後まで言い終わる事も無く、俺は彼に無理やり外に連れ出され、そのまま彼の車に乗せられた。
「ちょっと、俺は行くなんて一言も……」
だが、そんな俺の事など構う事無く運転していた。しかし、運転している彼の表情はさっきまでの明るさは無くどこか暗かった。そんな彼に俺は何も言えないでいた。
「さぁ! 着きましたよ!」
彼が案内したのは、某有名女子大だった。ここで、彼曰くナンパをするのか……。
彼は門の近くに立って、好みの子を待っているのかとても真剣な目つきをしていた。しかし、さっきから何人も結構可愛い女の子は通るが、彼は見向きもしなかった。そんな彼の事を、逆に女の子たちが見ていた。
確かに、彼は同じ男の俺から見ても綺麗な顔立ちをしているので、女の子が振り向くのも無理はない。
すると、しばらくして彼の表情が変わった。好みの子を見つけたのか、俺に手招きをしてきた。彼に誘われるまま、俺たちはその女の子に近付いた。
「ねぇ、君可愛いね。これから一緒に遊びに行かない?」
綺麗な顔立ちの彼に誘われて気を良くしたのか、女の子もまんざらではなさそうだった。
「えっ! もしかして、あの有名な宇佐美クン?」
さすがは宇佐美琉依……。自分が通う大学からずいぶん離れているこの大学でも、その名は有名なのだ。
「そうそう! あら、俺って有名じゃん! こっちは俺の友達の尚弥クン、よろしくね」
いつの間にか紹介されていた俺は、思わずその子に軽く頭を下げた。
「こんにちは。石川真子です」
長い茶髪を触りながら、彼女は挨拶をした。そして、彼が彼女の肩に手をやり俺も一緒に車へ向かおうとしたその時だった。
「真子! お前何やってんだよ!」
振り返った先には、荒い息遣いをした自分と同年齢くらいの男が立っていた。
「真子チャンは、俺達と今からデートするんですよ」
彼は男を挑発しているのか、彼女の肩を引き寄せた。
「お前……、宇佐美じゃないか」
色々な女の子と遊ぶから、さすがに彼女たちの彼氏からも有名……ブラックリストに載っているんだな、この宇佐美という男は。
「ふざけんなよ! 真子! お前、自分が誰といるかわかってんのか?」
この男にとっては、俺は眼中に無いのかちっとも話に触れる事が無かった。
「て、言うかぁ……つまんないんだよね。全然刺激が無いって言うの? もうちょっと刺激がある付き合いがしたいの! 賢一にはそれが期待出来ないし〜」
賢一……? どこかで聞いたような。
「そんなにつまんない男なんだ。それに比べたら俺って最高ですよ! 毎日が刺激ばかりで」
そのまま車に乗ろうとしたが、男がそれを阻む。
「真子! 俺はお前を愛しているから、あんな……あんなつまらない女と別れたんだよ!」
うわっ……。こんな公衆の面前で“愛している”なんて叫ぶから、注目の的になっているよ……。彼女も恥ずかしそうにしているし、彼も……していない。むしろ、遊び人の顔からいつの間にか表情が曇っていた。
「やめてよ! まるで私のせいで別れましたなんて事言わないでよ! あんたなんて、そのつまらない女がお似合いなのよ」
二人の男女が修羅場を迎えている中、俺は別にここにいなくてもいいのでは?と思う。
「チッ! お前みたいな女なんか別れてやる! せいぜいその野郎にいいように遊ばれたらいいんだよ」
なんか、俺が悪い事をしたみたいに感じて、心が痛くなる。今日、彼と俺が彼女と会わなければこんな事には……。
自分の彼氏が去って行くにも関わらず、彼女は彼に夢中だった……。
いつも読んで頂きありがとうございます!次回も尚弥視点で書きます。感想等お待ちしております。