act11忘れられない……
「この前、渉の部屋で彼と何を話していたのよ」
彼を琉依達に紹介した日から数日後、ずっと気になっていた事を運転している琉依に尋ねた。しかし、琉依は笑って黙っていた。
「秘密の多い男だね、琉依は」
少し嫌味を込めて告げたはずなのに、琉依はそれでも変わらず笑顔のまま。
「夏海が気にするような話じゃないよ。気にしないで、今日のデートを楽しみましょうよ」
そう、今日は前々から約束していた琉依とのショッピング。賢一に振られた時、落ち込んでばかりいた私に琉依が誘ってくれた。
「心配しなくても、彼とは付き合わないよ。夏海チャンはヤキモチ焼きなんだから」
「何、バカな事言ってんのよ! ほら、安全運転しなさい!」
左手でハンドルを操り、右手を私の肩に回してからかってくる琉依を叱咤すると、琉依の右手を強くつねった。
「さて、どこに行きます? 何が欲しいの?」
ハンドルを操る琉依の頭からは既に、先程の話題など綺麗に消え去ってしまっているのだろう。自分にとって、必要の無い事はすぐに忘れてしまうのが琉依の特技である。
「服や雑貨店を見回って、それから……おいしいものが食べたいなぁ」
「了解! この辺においしいイタリアンの店があるから、そこへ行こうか!」
さすがは琉依……。毎日のように遊びに行くだけあって、女性が好きそうなお店をしっかり把握しているわ。改めて、感心してしまいますよ。
車を止めて、様々な店が立ち並ぶ通りを二人で歩き始めた。自分がいいと思った店を見つけると、入って商品を眺める。自分に似合っているかどうか琉依に見てもらったり……。
「いやぁ、買った買った! 久しぶりだから、ついお財布も緩くなるなる」
けれど、何点かは琉依に買ってもらったり……。
「お腹も空いたし、ご飯を食べにいこうよ〜」
琉依の手を握って、上機嫌のまま食事に行こうとした。しかし、琉依は何故か真剣な顔をして、その場を動こうとしなかった。
「……琉依?」
「あ、悪い! よし、行きましょうか。でもあっちからの方が近道だから、そこから行きましょう!」
さっきまでと違って、急に不自然な態度を示す琉依を不思議に思った。
「何言ってるの! イタリアンの店ならこっちからの方が……」
あぁ……、琉依がこちらに行こうとしない訳がやっと理解できた。隣りでは、琉依が顔に手をやっていた。今更ながら、琉依の言うとおりにしておけば良かったと後悔してしまう。
私の視線の先に映ったのは、可愛い女の子と楽しげに笑いながらショッピングをしている賢一の姿であった。
「夏海……」
私の肩に手を置くと、そのまま琉依は私を連れてその場を離れた。
「やっぱり、他に女がいたか! いやぁ……参りましたよ」
何とか琉依の前では涙を見せない様にしているけれど、結構辛い……。我慢しすぎて、肩が震えてくる。
「別れてから、もう何日も経っているから忘れる事ができたかなぁと思っていたのに、やっぱりまだ……」
好き……。
言葉にならなかったのは、とうとう我慢できずに涙が流れてきたからである。
「見たくなかったなぁ……」
琉依が近付いてきて、私を優しく抱き締めてくれた。
「見なきゃ……良かったなぁ」
そのまま琉依に抱き締められたまま、ためらうことなく涙を流し続けた。
道の真ん中なのに、そんな事に構う事なく……。誰かに見られているかもしれないのに、それでも私は泣くのを止める事は無かった。
やっぱり……まだ忘れられないよ。
そんな私の頭を優しく撫でる琉依……。
道の向こう側で、偶然居合わせた浅井クンが見ているとも知らずに……。