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act10尚弥VS琉依

今回の話は、前回の最後でいなくなった尚弥と琉依が一体何をしていたのかを書いていますので、尚弥視点で書いています。


 「ちょっと……いいかな?」

 簡単な挨拶を済ませて少し話をした後、彼=宇佐美琉依に声を掛けた。

 「ここでは、無理な話?」

 先程、挨拶をした時と変わらない笑顔で彼は小声で尋ねてきた。しかし、俺が答える前に彼は立ち上がると、

 「渉! 部屋を一室借りるぞ」

 家の主、一ノ瀬の了承を得ると、俺を手招きして案内してくれた。


 「で、俺に何の話かな?」

 他の人に聞かれたくない内容だというのは、部屋を借りた時点で分かっているくせに……と思ったが、呼び出したのは自分なのでこれは答えるべき事なのだ。

 「槻岡夏海サンの事だと言ったら分かるかな」

 遠回しな俺の発言に彼は、

 「あぁ……」

 と、何かを察したかの様に呟いたが、

 「さぁ? 何の事かな?」

 さっきまでの笑顔とは違って、怪しげな笑みを浮かべて答えてきた。

 本当は知っているが全てを俺に話させようとする彼を、手強い相手だとさえ感じた。

 「さっきも聞いたけど、本当に槻岡サンと付き合ってない?」

 彼女に対して、恋愛感情を持っているわけじゃない。だが、今まで何に対しても興味すら抱いた事が無かった俺が初めて興味を抱いた存在なのは確かだ。そんな彼女の事を少しでも知る事が出来たら……。

 しかし、さっきの彼女と答えと同じ反応を待っていたのに、彼が出したのはただの沈黙だった。何も言わず、ただ笑みを浮かべて黙っているだけだった。

 これはどう捉えたらいいのか? 肯定しているのか、否定しているのか。


 “彼の片想い?”


 “彼女の片想い?”


 “やっぱり、付き合ってました?”


 そう勝手に三択を考えていても、彼は変わらず沈黙を守ったままだった。

 「じゃあ、質問を変えるよ。二人の関係って?」

 「さっきの質問とあまり内容変わってないし!」

 やっと口を開いたかと思ったら、俺の質問へのダメ出しだった。

 「何? 浅井クンは夏海の事が好きなの?」

 質問を質問で返された。どうしても、俺の質問には答えたくないらしい。

 「別に……好きだという訳じゃないけど」

 そんな俺の返答を聞いた途端、彼は再び笑顔に戻ると、

 「なら、答える必要はないよね?」

 恋愛感情があるかどうかは別として、彼女達はよくこんな手強い彼と一緒にいられるな……改めて彼女達に感心してしまう。


 「恋愛感情は無いけれど、彼女に興味を抱いたんだ。彼女の事を知りたいと思ったんだ」

 なぜ、彼女じゃなく彼にこんな事を打ち明けているのか、だんだんわからなくなってきた。

 「へぇ……夏海にねぇ」

 わざとらしく答える彼に、わずかだが苛立ちさえも覚えてくる。


 「夏海とは幼馴染みなんだ。夏海の両親が共働きでね、うちによく預けられていたんだよ」

 突然、彼が話し始めた。もう、答えは返って来ないと思っていた俺は、思わず顔を上げた。

 「同じ年だけど、姉のような存在だったり、妹のような存在でもあったり……」

 淡々と話してはいるが、俺の質問の答えにはなっていない。

 「幼馴染み……。それだけ?」

 彼女と一緒に飲んだ夜、彼の兄に呼ばれた彼が血相を変えてやって来たのを俺は見てしまった。俺に詫びてはいたが、そんな彼の表情は決して穏やかではなく、むしろ……敵意さえ感じた。

 「幼馴染みとかは君にとってはどうでもいい話なんだよね。でも、俺が答えられるのはここまでなんだ」

 彼はそう答えると、また沈黙を続けた。彼が意地でも沈黙を通し続けるのは、彼女の事を思っての事なのか。

 「じゃあ、話はこれで終わり!」

 まったく納得する事もないまま、話は完結を迎える事になった。部屋を出てみんながいるリビングへ戻ると、彼はそのまま彼女の元へ向かう。今までのやり取りが無かったかの様にふるまう彼。そして、一緒にいる彼女はこちらを見ることも無く、彼に笑いかける。


 そんな彼女の笑顔を、自分にも見せて欲しいと思ったこの感情は何の始まり?

第10話を迎えました。作品を読んで頂き、本当にありがとうございます! シリーズ第1弾も中盤を迎えました。最後までどうぞよろしくお願い致します。

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