第5話 宿屋
ギルドを出るとまだ日が高かったから、町をぶらつくことにした。まず、武器を買うために武器屋に行く。
武器屋は、いかにも職人の工房みたいな所に、武器がいろいろ並べてあった。中に入るとドワーフのオッサンがいた。
「いらっしゃい」
「すみません、双剣ってありますか?」
俺はゲームでも愛用していた双剣を探す。
「おう、あるぜ」
そういって指差した先には、綺麗な双剣が置いてあった。
「それは、ミスリルの剣だ」
ミスリルか! ゲームでお馴染みのやつだ。
「オッサン、これいくら?」
「四千セールだ」
「よし、買った」
銀貨を四枚はらう。今の俺は少し金に余裕があったから、迷わず買う。オッサンは、剣を鞘に入れて渡してくれた。ついでに、今まで持っていた鉄の剣を渡す。溶かして再利用するらしい。
店から出る。俺は防具を買おうかと思っていたけど、よく考えれば、身軽でいたいので止めておく。
とは言っても、この装備のままでいるのも嫌だったから、服屋に入り、黒のズボンとインナー、それから黒の外套と全身黒の服を買った。
ちなみに双剣は左右に一本ずつ引っ提げた。目立たない様にて思い、黒にしたけど、黒づくめの格好で左右に剣を提げているのは、逆に目立つ気がするのは気のせいだと思いたい。
服は全部で五百セールだった。以外と高い・・・。まあ、結構いい服みたいだからしょうがないか。
その後も、町を適当にぶらぶらする。いつの間にか細い道に入っていた。迷ったかと思ったけど、すぐに大通りに出るだろうと思い進んでいると、前に何やら揉めている五、六人の人達を見つける。
「うわ、最悪」
厄介事は勘弁なのだが、気になるので近づくと、獣人の女の子が五人の男達に囲まれていた。
「何してるんだ?」
とりあえず聞いてみる。女の子なら助けるのも吝かではない。
「うるさいな! 俺は今いらついているんだ! ギルドで気に喰わないガキと言い合いをして、むしゃくしゃしている所にこの獣人のガキがぶつかって来やがった! なのに謝らねえんだ! 獣人の癖に生意気な奴だ!」
やっぱり獣人って差別とかあるみたいだな。猫耳とかかわいいのに……、関係ないか。
それにしてもよくしゃべるな。このチャラチャラした男いらつく……んっ、この男見たことある様な…………、あっ、ギルドで絡んできたやつだ!
って気に喰わないガキって俺のことか。
「ねえ、俺のこと覚えてない?」
俺はついつい言ってしまう。
「はぁ、何言ってんだ……あっ!」
俺の言葉にこっちを見ると、俺に気付いたのか、俺の顔をジロッと睨んでくる。
「てめぇ、ギルドでは恥かかせてくれやがったな!」
「いや、あれは自滅でしょ」
「黙れ! もういい、お前らこいつをやっちまえ!」
すると、後ろにいた四人が殴り掛かってくる。俺は流石に剣はまずいと思って、素手で対応する。相手も素手だし。幸いステータスのおかげで力は増している。
「ぐはっ!」
「ゴバッ!」
「へぶらっ!」
「がっ!」
すぐに4人には地面とキスしてもらった。
「その顔を二度と見せんなよ!」
俺は言いながらチャラチャラした奴も殴る。簡単に五人をあしらった俺を、獣人の女の子は驚いた顔をして見ていた。
彼女は俺より少し年下みたいで、猫耳としっぽがついていた。猫の獣人かな?
「あ、ありがとうなの」
「おう、いいって。俺はハヤト。冒険者になったばかりだが、よろしく」
「あたしはスン。あたしも冒険者になったばかりなの」
スンの頭の猫耳がしゃべる度にぴくぴく動いて面白い。
「本当にありがとうなの、この恩は必ず返すの」
スンはそう言って走り去ろうとする。
「ちょっと待って」
俺は走り出そうとしたスンを呼び止める。
「何なの?」
急に呼び止められて、不審に思ったのか、こっちを警戒している。だが俺は急にせず用件を切り出す。
「恩はここで返してくれないか?」
「こ、ここで! 何をさすの?」
何を勘違いしているのか、涙目で見てくる。かわいい、思わず抱きしめたくなった。
「何を勘違いしているか分からないけど、俺は道に迷っているんだ。ギルドの所まで案内してくれないか」
「そ、そんなことなら早く言って欲しかったの!」
スンは顔を真っ赤にして言った。
訳が分からん。
スンに案内して貰ったおかげで、無事ギルドまで戻って来れた。
「助かったよスン、ありがとう」
「あたしの方こそありがとうなの」
スンは恥ずかしそうに上目遣いで言うと走り去って行った。猫耳サイコー!
俺は興奮が治まると、既に日が暮れかけていた。今日はもう宿屋に泊まろうと思い、ギルドの向かいにある宿屋に入った。
「いらっしゃいませ」
宿に入ると、おれと同い年ぐらいの女の子が、カウンターの中から声を掛けて来る。短めの茶髪で目がクリクリしていてかわいい。にしても、この世界は可愛い娘が多いな。
「え~と、部屋は空いてますか?」
ちょっとドキドキしながら話し掛ける。家でゲームばっかりしていた俺は、女の子と話すのに慣れない。でも、かわいい娘はいいな。
「はい、空いてますよ。お一人様ですか?」
その娘は笑顔で答えてくれる。笑顔が眩しい!
「はい、そうです。一泊いくらですか?」
「三十セールです。ご飯は二十セールで付けることができます」
「じゃあ、ご飯付きで。とりあえず、十日分」
しばらくはこの町から出るつもりはないから、とりあえず十日お願いして、銀貨を一枚渡す。
「はい、ありがとうございます。お釣りの五百セールになります」
俺は半銀貨5枚を受け取る。
「私は、ニーナです。両親がこの宿をやっているので、手伝っているんです」
やっぱり娘か。これで店のおかみだとか言われたら、驚きの若さだ。
「え~っと、俺はハヤトです。一応冒険者をしています」
「冒険者ですか、怪我の無い様にして下さいね」
ニコッと笑い掛けてくる。
「どうかしましたか?」
「い、いえ何でもありません」
少し見とれていただけに、話し掛けられてあせる。
「そうですか、では、部屋に案内しますね」
「お願いします」
ニーナさんは、カウンターから出てくると、階段を上って行く。俺は急いで追いかけた。
「わあ、いい部屋ですね」
部屋は、そんなに広くないが、綺麗にまとまっていていい感じだ。何だか安心できる。
「夜ご飯は日が暮れてから、朝は日が昇ってから食堂に来て頂ければ食べれます。お風呂は、一階にあるのでご自由にどうぞ」
おお、風呂があるのか。勝手な想像で無いかと思っていただけに嬉しい。やっぱり日本人は風呂でしょ。
「分かりました」
「では、ごゆっくり」
ニーナさんはそう言うと出て行った。
俺はまだ、日が出ているし先に風呂入ってこようと思い、部屋でくつろぐ事もなく、部屋から出る。
「あ~、気持ちよかった」
風呂から出て来ると、もう日が暮れていた。晩飯を食べに食堂に向う。途中で見知らぬおばさんに話し掛けられた。
「あんた、新しいお客さんだってね。ニーナから聞いたよ。あっ、あたしはニーナの母親のシミルだよ」
ニーナのお母さんか。ニーナとはイマイチ似てない。
「よろしくお願いします。食堂って向こうですよね?」
「ああ、そうだよ。食事を作っているのは夫のバールだよ。味は保証するよ」
シミルさんは胸を張って言う。
「それは楽しみだな」
「それから、ニーナとは仲良くしてやってくれないかい? ずっとこの宿で働いてるから、同年代の友達がいないんだよ」
「えっ! もちろんいいですよ」
「じゃあよろしくね」
そう言うなり去って行った。何だか嵐の様な人だった。
食堂に着くと他にも何人か客がいた。だが一人の客は他にいなかった。みんなパーティーを組んでいるか、奴隷を連れたりしているみたいだ。
一人なのでカウンターに座る。ウェイトレスが来て、注文を聞いてくる。俺は、料理名なんて分からなかったから、オススメを聞いてみてそのまま頼んだ。
運ばれてきた料理は、パンっぽいのと、何かの肉を炒めたものにスープだった。シミルさんが言ってただけあって味は美味かった。
「ごちそうさま」
一人寂しく感謝する。それにしても、美味しかった。異世界で、どんな料理が来るかビクビクしていたから満足だ。実に一日ぶりの食事。
俺は疲れた体を休める為に、食堂を後にして部屋に戻った。
「今日は疲れたな」
一人でつぶやくとベッドに寝転んだ。今日は本当にいろいろあった。元の世界で心配されているだろうか? …………まあ友達はいなかったから、あまり悲しまれていないだろう。なんだか目から水が……。
にしても、親には悪いことしたな。何も親孝行出来なかったし。
まあ、この世界でも生きていけそうだし安心しといて欲しい。何たって俺は、チートだし。無双とか出来そう。
もう、開き直って女の子たちを侍らして、ハーレムでも作ろうかな。地球では女の子と縁がなかったからな。こうなれば、いよいよ元の世界に未練が無いかも。
よ、よし、目指せハーレム!!
俺はそんな事を考えながら眠った。
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2012 2/02 加筆修正