表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ハーレム目指して何が悪い  作者: かいむ
第3章 勇者と魔王
54/54

第52話 吸血伯爵!? 

「すみません、すみません、許して下さい。助けて下さい。命だけは――」


 目の前にはロープで縛り上げられた吸血鬼が、必死に身動きしにくい体を動かし、土下座をしていた。


 あれからセフィアが落ち着くと、俺は吸血鬼を縛り上げて、起きるのを待っていた。


 吸血鬼は起きて状況を理解すると共に、すぐに謝り出した。困った事にそれからずっとこんな感じだ。


「いや、もういいから。殺すならもう殺してるから」


「いや~そうだよね。焦ったぁ~殺されるかと思った」


 俺の言葉に殺される事はないと思ったのか、吸血鬼は顔を上げる。


 なんだ、この変わりよう。こいつには主体性がないのか?


「いやお前、俺たちを殺そうとしてただろ? 何が殺されるかと思っただよ」


「いや、だってね。吸血鬼を探してるとか言われたら、殺されると思うでしょう。後は勢いで……」


 吸血鬼はねえ、と馴れ馴れしく同意を求めてくる。何か一々うっとうしいな。


「……まあ、確かに不法侵入した俺たちも悪いんだけどな……」


「そうだろ! お前らが悪いんだよ。訴えんぞ! 早く縄を解け!」


 俺が少し弱気になると、すぐに調子にのる吸血鬼。


「早く解けや! ゴラァ! 訴えんぞ、いいんか!」


 俺は近づき、ごちゃごちゃとうるさい吸血鬼を蹴り飛ばす。縛られたまま成す術がないまま倒れ込む。


「おい、あんまり調子に乗んなよ――」


「すみませんすみません許して下さい助けて下さい」


 すぐに変わり身して、謝り倒す吸血鬼。うぜぇ~。


「ああ、もういいから」


「そうですよね~」


「チッ――で、お前は吸血鬼でいいんだな?」


 いらつく反応に舌打ちをして、一応確認を取る。


「ええ――私は、この屋敷の主である吸血鬼。スルノ伯爵である」


 縛られたまま背を伸ばし胸を張り、偉そうに自己紹介をする。


「ふ~ん、俺はハヤトだ。こっちはセフィア。お前は町の人を襲ったんだよな?」


 俺も適当に名前を名乗って、質問を続ける。


「ちょちょちょちょ! 俺の名前聞いてた? スルノ伯爵だよ。伯爵。分かる?」


 俺の態度が気に入らなかったのか、質問に答えず逆に質問してくる。


「だ、か、ら?」


「いやいやいやいや。伯爵だぜ、どう考えても偉いって事は分かるだろ?」


「ああ、そうかもな」


 若干呆れながらも、話に付き合う俺、我ながら出来た人間だ。


「だろ? 偉いんだよ、俺は。だから解放しろ。さもないと訴えるぞ!」


「また始まりました……何回やるんでしょう?」


 セフィアも呆れたように呟いている。


 俺は無言でスルノ――もう呼び捨てでいいだろ――に近づき、胸倉を掴み上げる。


「いちいち調子に乗んなよ」


 スルノは俺に怯えたようで、カクカクと首を上下に動かしていた。


「調子に乗ってすみませんでした。実は伯爵というのは嘘です」


「嘘かよ!」


 俺は思わず突っ込んでしまってから、スルノのニヤニヤ顔を見て、激しく後悔した。


「……で、お前は村の人を襲ったのか?」


「え……ええ、まあ」


 イマイチ歯切れが悪いスルノ。


「何で襲ったんだ?」


「吸血衝動が抑えられなかったんです」


「吸血衝動?」


「はい、吸血衝動です。私は定期的に血を吸わなければ吸血衝動が起きるのです」


「だから村人を襲ったのか?」


「いえ、私も出来ればそんな事をしたくありませんから、家畜の血で我慢できるかと思ったんですが、無理でした」


 つまり、吸血衝動が起きたが、人を襲いたくなかったから家畜を襲ったが、それでは我慢出来なくなったという訳か。


「じゃあ、お前は出来れば人間を襲いたくなったのか?」


「そうです!私も元は人間だったんです。何が楽しくて人間を襲うんですか」


「なるほどね。何で人間の血なら吸血衝動が収まって、家畜の血なら収まらないんだろ?」


「知りませんよ」


 知らないと言うスルノから目を離し、セフィアを見る。


「私も分かりません」


 吸血衝動か、血、血……


「そうだ、お前魔物の血を吸った事はあるか?」


「魔物、魔物はないな……」


 スルノは予想外だったのか、俺が脅してから丁寧だった言葉が崩れていた。


 魔物の血は吸った事はないか。確か魔物にも血は流れていた。なら、もしかしたら魔物なら。


「よし、試しに魔物の血を吸いに行くか」


「は……!? マジで」


 俺は驚いているスルノの縄を解いて、洋館から連れ出して、俺たちがさまよっていた森に来た。


「マジで、魔物の血を吸わなきゃならない?」


「ああ、物は試しだ。お前が魔物化したら俺が責任を持って殺してやるから安心しろ」


 不安そうなスルノに早くするように言う。


「どうなっても知らないからな!」


 スルノは近くの魔物に襲い掛かった。






「いや~、まさか魔物でも吸血衝動が収まるとは」


 口元を真っ赤に染めたスルノは嬉しそうに言う。恐いな。


「よかったな。もう人を襲うなよ」


「ああ。今日から魔物退治の旅に出る事にする」


「そうか、頑張れよ」


 スルノは荷物をまとめると、魔物を退治しつつ吸血衝動を抑える為と、冒険者になると旅立った。


「いいんですか? また、人を襲うかも知れませんよ」


 スルノが去ってから、セフィアが聞いてくる。


「いいんだよ……」


 実を言うと少し心配だったりするんだが、信じるしかない。


 元々殺してしまった方がよかったのかもしれないが、俺には勢いや怒りに任せて人殺しは出来ても、冷静な頭では出来ないみたいだ。


 今回は今まで人殺しをした時と違い冷静だった。


 そんな状態で俺に人殺しは出来なかった。


 俺はなんだかんだ言っても、まだまだ甘い。


 でも、それでもいいかなと思っている。


「行くか」


 俺はセフィアに声を掛けて歩き出す。


ご感想お待ちしています。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ