第51話 吸血鬼
「すみません!」
俺は不法侵入の罪悪感から反射的に謝り、頭を下げる。
「謝ったら済むと思ってんのか! ああっ!」
なんか無茶苦茶凄んできたよ。見た目は好青年風なのに、完全にそっちの人みたいだ。
セフィアは怖がって俺の背中に抱き着いて来ている。ナイス、いいぞ!
「ああっ! 人様の家に無断で入って、ただで許されると思ってんのか、ごるぅぁぁぁ!」
すごい巻き舌だ。ズボンのポケットに両手を突っ込みながら、肩を凄ませ近付いて来る。
いかにも過ぎる。何なんだこいつ、こんな立派な洋館に住んでいるにしては下品過ぎるだろ。
セフィアは近付いて来るのを怖がってより、俺に体を押し付けて来る。その慎ましい体が最高だ!
「いや、そう言われても……」
俺は自分が悪いだけに余り強く出れない。
「舐めてんのかぁ! われぇ、どうしてくれんじゃ!」
何なんだ、全く会話が成立する気がしない。どうしたら良いんだ?
セフィアが怖がっているし、大変残念だが状況を打破しなくちゃならないな。とりあえず、吸血鬼について聞いてみるか。
「あの俺はこの洋館に吸血鬼が居ると聞いて来たんですが、何か知らないですか?」
俺の質問を聞くと、今まで俺たちを睨みつけていた視線が一瞬弱まり、更に鋭くなる。
「――お前、どっからそれを?」
おっ、なんか動揺してる。よし、何とか状況を打破できそうだな。
「すぐそばの村の人から聞いて、吸血鬼を退治してくれと頼まれたんですよ」
「お前は、冒険者かなにかか?」
「ええ、そうですが、何か知らないですか?」
「…………」
俺の質問に男は答えず、ただ黙り込んで俺を睨んでいる。
「あの、どうしました?」
嫌な予感を感じながら尋ねる。
次の瞬間、男の目があやしく赤く光った。
俺はその刹那には、セフィアを連れて横に跳んでいた。
「……きゃ!」
俺たちが居た場所に、男は突っ込んでいた。俺たちの後ろにあった扉に男の有り得ない程伸びた爪が刺さっていた。男の目は不気味に赤く光っていた。
くそっ、やはりコイツが吸血鬼だったか。普通に怒ってきたから油断していた。
「セフィア! コイツが吸血鬼だぞ。後ろに下がっていろ」
俺は左右の剣を抜き、魔力を込めて構える。炎と水を纏った双剣を見ても、驚かない吸血鬼。
「ハハハッ! そうだよ、俺がその吸血鬼だよ。お前なんかに殺されて堪るかよ!」
「ちょっと待てよ、お前も会話出来るなら、魔物っていう訳じゃないんだろ?」
油断せず、吸血鬼を見詰めながら、聞く。話せるならただの魔物ではないだろう。
「はっ、それがどうした。俺が魔物じゃないからと言って何がどうなる」
「話せるなら、お前が魔物じゃないなら、人間と上手く共存できるかも知れないだろ?」
「何を馬鹿な事を。俺は人間を襲ったんだ。血を吸わないと生きていけないんだ。そんな化け物を人間が認めると思うか? そんな綺麗事を言うなよ! 俺はお前を殺して、人間の血を吸って生き続ける!」
俺の言葉は否定され、吸血鬼は怒ったように叫ぶ。
「グワァァァ!」
目の中が真っ赤に染まると同時に、俺に向かって飛び掛かって来る。
「ちっ!」
俺は全身に身体強化を掛けると、吸血鬼に向かって走る。
吸血鬼がその伸びた爪を振る。俺も水を纏った剣で対応する。
――キンッ
相当強いらしく切り落とされる事なく剣が弾かれる。
くそっ、厄介だな。ただの爪ではない、あれに攻撃されたらただじゃ居られないな。
「……水の玉」
セフィアの呪文が地下室に響き、水の玉が吸血鬼に向かって発射される。
「ちっ!」
腕をを振るい、爪でその水の玉を霧散させる。あの爪は魔法も打ち消すのか。セフィアは攻撃魔法は得意ではないと言っていたから、これ以上は厳しいか。
「はぁぁぁ!」
俺は気合いを入れると、吸血鬼に向かって走り出す。
左右の剣を縦横無尽に動かし、吸血鬼を切り付ける。身体強化も使っているから、普通の人には見えない程のスピードだが、吸血鬼は爪で全て弾いてくる。
身体能力も尋常じゃないみたいだな。これは厳しいぞ。
「くそっ!」
一旦、吸血鬼から離れて体勢を整える。
「はっ、その程度か」
吸血鬼はそう言うと、部屋の隅でどうしようもなく呆然としていたセフィアに向かう。
「止めろ!」
俺は叫び、必死に追う。セフィアには何が起きているか分からない程の速さで俺たちは走る。
前を走る吸血鬼とスピードは拮抗している。このままだと、セフィアがやられるのを黙って見ている事になる。
俺は片手の剣を、振りかぶり吸血鬼に向かって投げる。
吸血鬼は後ろに目が付いているが如く、爪で弾く。
問題ない!
俺は後ろに背負っている聖剣を抜く。そして、叫ぶ。
「伏せろ!」
と、同時にラムドスクを横に振る。
地下室に凶悪な風が起きる。地下室の中を暴れ回るように、吸血鬼に向かって風が迫る。
「なっ!?」
吸血鬼はそのまま吹き飛ばされ、壁にたたき付けられ気を失った。
力を加減したから命は無事だろうけどな。加減しなかったら、俺やセフィアまでどうなったか分からない。
「セフィア、大丈夫か?」
「ふあぁ、怖かったよ〜」
泣きながらセフィアは抱き着いて来た。なんか、ここに来てから妙にセフィアが怖がっていて、可愛い。
俺はセフィアを安心させるように抱きしめた。
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