第48話 消えた後
「いたぞ!」
兵士たちの必死な叫び声が飛び交う中、馬車を走らせ逃げている。
「やっぱり、逃げ切るのはきついか……セフィア頼めるか」
ハヤト様がそう言うと、セフィアさんは呪文を唱え始める。流石は聖地で巫女をしていただけあって、私なんかよりも遥かに早くて正確で高度ですね。攻撃魔法は専門ではないらしく、得意じゃないと言っていたのが救いです。
セフィアさんの詠唱が終わろうとした時、もう逃げれると油断していた私たちの馬車が後ろの兵士の魔法によって揺れる。
私は突然の揺れでバランスを崩して、床に倒れ込んでしまう。床に倒れた私が見たのは、ハヤト様が近くにいたセフィアさんに手を伸ばす様子だった。
「あっ――!」
視界が真っ白になる程の光が溢れ出す。光はゆっくりと収まっていくと、ハヤト様とセフィアさんの姿はなかった。スンさんとエルメナさんは床に倒れている。
馬車は完全に止まっていて、外に聞こえる馬の足音と、人の気配でセフィアさんの魔法が失敗した事を知らせていた。
「姫様! 馬が車と切り離されました。ここは危ないですから早く外へ!」
この男も無事だったみたいで、焦った様子で中に飛び込んできた。
「そうです。ハヤト様とセフィアさんが突然消えましたが、とりあえずこの場を乗り切りましょう」
「そうね、行くわよ!」
「分かったの!」
私たちが馬車から飛び降りると、周りを囲む様に神官たちがいた。
「大人しく投降しろ!」
「早く巫女を出せ!」
うるさく叫ぶ神官たちは少なく、総勢10人くらいしかいない。これなら4人で大丈夫そうですね。
「行くわよ!」
エルメナさんの声を皮切りに走り出す。私はその場に留まって魔法を発動させる。
まずは敵全てに風の魔法で行動の邪魔をする。
そこに、エルメナさんたちが突っ込んで行く。
エルメナさんは魔法とレイピアを使い、神官たちを次々と昏倒させていく。
スンさんも素早い動きで神官を出し抜き戦闘不能にしていく。
ハッシュベルは巨大な大剣を振り回し、神官たちを吹き飛ばしている。
私は3人から遠い所にいる神官に魔法を放ち、気絶させていく。
どうやら、聖地にいた神官たち程鍛えられてなく、弱かったからすぐに全員倒す事ができた。
「さあ、早く馬車に神官たちが乗ってきた馬を繋げましょう」
「そうね、ハッシュベル頼むわ」
「わかりました」
エルメナさんに言われて、素直に従う。彼は怯えている馬を捕まえに行く。
「これからどうしましょう? ハヤト様たちとは逸れてしまって、何処にいるか分かりませんし……」
私はエルメナさんとスンさんに聞く。まさかハヤト様と逸れてしまうなんて。
「そうね、ハヤトがいないんじゃどうしようもないから、とりあえずハヤトを探さないといけないわね」
「そうなの、でもハヤトさんたちが何処に行ったか分からないの」
そうなんですよね。転移魔法が失敗したわけですから、何処に転移させられたか全くもってわからないのが問題です。まあ、ハヤト様の事ですからどうにか無事にやってるでしょうが……。
「とにかく、私たちはこの後行く予定だった町に行きましょう。そこに居てハヤト様を探しましょう。ハヤト様もそこに来るはずですから」
「そうね、ハヤトも私たちを探しているでしょうから、町で待つべきね」
「それがいいの」
「にしても、ハヤトとセフィアちゃんが二人で消えたのは心配ね。ハヤトと変な事にならなきゃいいんだけど……」
「そうですね、心配です……」
「だ、大丈夫なの……」
なんて言ってもハヤト様ですからね。非常に心配です。早く合流しなければいけませんね。
「姫様、馬車の準備ができました」
馬車を引いてやって来る。私たちが乗り込むと町に向かって走り出した。
「なんで私がお前と一緒に行かなければならないんだ。できれば姫様と一緒に町を歩きたかった」
「それは私も同意見です。何が嬉しくて、私が貴方なんかと二人で歩かなければならないのですか」
私は町の中を男と二人で歩いていた。何故こんな事をしているかと言うと、それは数十分前の事。
「町が近くなって来たわね。町に入りたいんだけど、多分このまま馬車で行くとすぐにばれて、町に入る時に捕まるわ。だから馬車は乗り捨てるとして、歩いても4人だったら気付かれるかもしれないわ」
「だから半分に別れて町に行きましょう。多分、町にいる兵士たちも私たちの顔までははっきりとは分からないでしょうから、目印はミルシアさんとスンちゃんでしょうね。エルフと獣人がいる集団なんてそうそういないから。だから、私とスンちゃん、ハッシュベルとミルシアさんに別れて町に入って、後から中で合流しましょう」
というエルメナさんの発言で、私はこの男と二人で町を歩いているのです。町には問題無く入れたのはよかったですがこの男と二人っきりとは嫌すぎます。
まあ、スンさんをこの男と二人っきりにするのは危ないので仕方がないんですが……。
「くっ、そんな事より。姫様はなるべく町の中心にいろと言っていたな」
「ええ、そうですね。合流するにも町の中を知らないからなるべく中心にいろと」
「中心と言ったらこの辺りか、じっとしていても仕方がないから探しに行くぞ」
私たちはエルメナさんとスンさんと合流すべく、歩き出した。
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