第46話 森の中
気付くと森の中に投げ出されていた。周りには木しかない。
俺は起き上がって周りを見渡すと、隣にはセフィアが倒れていた。他の四人は見当たらない。
「何処だ、ここは……?」
確か、追手から逃げるために、セフィアに転移の魔法を発動してもらったはずだ。
あの衝撃で失敗したのか? どうやらミルシアたちとも逸れてしまったみたいだ。
ミルシアたち無事ならいいんだけど……とにかく早く合流しないと。その為にもこの森から出ないと。
「おい、セフィア起きろ」
俺が呼び掛けるが、起きる様子はない。ここに飛ばされた時に打ち所でも悪かったのか、完全に気絶していた。
息はしているから大丈夫だとは思うんだけど、どちらにしろまた転移魔法を使ったから魔力が切れて起き上がる事は出来ないんだろう。
「ん~、どうしよう」
周りを見渡してみるが、人がいそうな雰囲気ではない。完全に森の中だった、それもかなり深いと思われた。
一体何処に飛ばされたのか、一体どっちへ向かえば森から出れるのか、ミルシアたちは無事なのか、何も分からなかった。
俺はどうしようかと考えて、しばらくボウッとしていた。すると、近くから草を掻き分ける音が聞こえてきた。
「――何だ!」
俺は警戒心を高めてセフィアの近くに行き、音のした方を見る。
人間ならラッキー、道を聞いたりセフィアを運ぶのを手伝ってくれるかもしれない。
魔物なら最悪だ。セフィアを守りながら戦わなければならないし、一匹魔物がいるということは、他にも沢山魔物がいるだろう。ちょっと動くだけで一苦労だぞ。
すると、茂みから出て来たのは狼の様な魔物だった。青白い体毛に被われた体を屈め、こちらを警戒している。
俺は周りを見て他に魔物がいない事を確認すると、セフィアから少し離れて立ち、魔剣を二本共抜き放った。
狼は俺を敵と判断したのか、俺の方を睨んで唸っている。
そして、俺の方に向かって駆け出して来た。速い!
剣に魔力を込め炎と水を纏わせると、繰り出された長い爪に切り付けた。
「くそっ!」
弾かれた! 今までの魔物より遥かに強い。
再び向かい合う俺と狼。
狼がその場で腕を振ると、爪が風を起こす。俺はその風に吹き飛ばされる。
「ぐはっ!」
まさか、魔法を使えるのか!? 狼は体に風を纏っていた。
俺は立ち上がると、身体強化もフルに使う。こいつは強い、今までの攻防で分かった。
「うらぁぁぁ!」
今度は自分から仕掛ける。反応して振られる爪を避ける。纏っている風が俺に傷を付けてくる。
気にせず、横から魔剣を叩き込む。血が吹き出す。しかし、風に邪魔されて傷は浅い。
そのまま反対の剣でも切り付けようとしたが、狼は反応して爪が迫ってくる。
一旦離れると、すぐにまた走り出す。狼から風が何度も迫って来るが、腕を振るという動作がある為、避けやすい。
爪をかい潜り、今度は両方の剣を揃えて脇に叩き付けた。剣は深々と刺さり、血が吹き出す。狼は断末魔の叫び声を上げ、倒れた。
俺は剣を抜き、鞘に戻す。セフィアは少しも動いていなかった。
セフィアの元に行くと、セフィアを抱き上げ、背中に背負う。
身体強化も使いながらその場を離れ、森から出る為に歩き出した。
あの狼の血や叫び声に釣られて、他の魔物がやって来かねないから急がなければ。あの狼ぐらいの魔物が集団で来ると、聖剣を使わなければ厳しい物があるぞ。
近くで物音がした。俺は静かにセフィアを木にもたれ掛からせ、物音の元に近づいて行く。
その場所には、角を生やしたうさぎがいた。あいつには何度か会ったが、速い動きで撹乱してその角で突き刺して来ようとしていた。草食動物のくせに凶暴なやつだ。
静かに音を立てない様に後ろから近づく。魔剣を抜き魔力を込める事なく、投げつける。音もなく飛んで行った剣はうさぎに突き刺さる。
魔剣を回収してセフィアの元に戻ると、もう流石に疲れていた。何時間経っただろうか、もう暗くなっていた。
セフィアはまだ起きそうになかった。魔力の枯渇が効いているんだろう。
この状態では寝る事も出来そうにない。俺はセフィアを背負うと、また歩き出す。
このまま歩いても、森から出られるかは分からない、でも俺にはただただ歩き続ける事しか出来ない。
いくら身体強化を使っているとはいえ、何時間も人を背負いながら歩きっぱなしは、きつかった。
眠気と疲れでフラフラになって来た頃――既に日が顔を出し、辺りが明るくなっきた時、俺はとうとう森の端まで来た。
森から出ると、目の前には村があった。
助かった。やっとこれで寝れる。背中で寝ているセフィアを背負い直して、村に向かう。
後少しでゆっくり休めるぞ。それから早くミルシアたちとも合流しなくちゃならないな。
あれ? 体に力が入らない。俺は急に体から力が抜けて行くのを感じた。
そのまま前に倒れ込んでしまう。何故だ、あと少しで村に着くのに。
俺は力が入らない体を必死に動かそうとした。でも、俺の意識とは裏腹にピクリとも動かない体。そのまま意識はブラックアウトした。
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