第45話 追手
「これなんか似合うんじゃないかしら?」
やたら豪華なドレスみたいなのを持ってエルメナは言う。
「…………」
「これがいいと思うの!」
可愛いワンピースを持ってスンは言う。
「…………」
「これはどうでしょう?」
ミルシアはTシャツにズボンというラフな服を持って言う。
「…………」
だが誰の言葉も見事に無視されていた。いや実際は無視はしていない。言葉に出してないだけで、顔に、表情に感情は出ていた。
最初から、遠慮、羞恥、呆れの表情をしていた。
セフィアは俺たちと行動する事は了承してくれたが、言葉通り信用はしていない様だ。
ほとんど会話が成り立たない。言葉を口に出さないんだ。
今日――この町に来た次の日にセフィアの服を買う事になった。そこで町の服屋に来たのだ。
で、女性陣がセフィアの服を選んでいるんだが、セフィアは無言で拒否をしている。
俺はハッシュベルと共に見守っていた。
スンが持っていたワンピースは良かったのにな。残念。エルメナとミルシアが持っていたのは正直どうかと思ったけど。
結局セフィアは魔法使いらしいローブに決めた。もちろん牢に入れられていたセフィアがお金を持っている訳はなく、俺が払った。
「本当にそれで良かったのか?」
店を出てから聞いた。
「……?」
不思議そうに首を捻っていた。なんだ、声を出したら負けとか思ってんのかな?
「いや、ワンピースとか似合いそうだったけど」
「……!」
俺が言うと、無言で睨まれた。いや、ただの感想なんだけど。
「まあ、別にいいんだけど」
俺たちはそんな感じでセフィアとの親交? を深めあった。
「ハヤト様、あれを」
突然ミルシアが前を見ながら言ってきた。
ミルシアが指差す先には聖地にいた兵と同じ恰好をした兵がいた。この町の兵士の恰好とは違うから、聖地から来た兵士だろう。
という事はほぼ間違いなく俺たちを追って来たのだろう。
「まずいな、予想よりも早く追って来てる」
「とりあえず、宿に戻りましょう」
俺たちは兵士に見つからない様に気を付けながら宿まで戻る。
「ハッシュベルは馬車を見て来てくれ」
ハッシュベルに馬車の様子を見に行かせ、その間にどうするか考える。
「聖地の奴ら思っていたより早く追ってきたな」
「そうですね、まさかもう来てるなんて思いませんでした」
「問題はどれくらいの兵士がいるかね」
兵士の数が少なかったら気付かれずに突破するのは楽だ。だけど、数が多かったら見付かるかもしれない。
俺たちは馬車で移動しているから、馬を使われたら逃げ切るのが難しくなる。
だからと言って、馬車を捨てて徒歩で行くと時間が掛かり過ぎるから頂けない。
「あたしちょっと見てくるの」
スンはそう言うと、外に出て行った。
「どちらにしろこのまま真っ直ぐ向かうと、また追い付かれるな」
「そうね、町を避けるべきね」
「町に入ると、また兵士がいるでしょうからね」
「町を避けるか、後魔王の所までどれくらいだったっけ?」
「馬車なら、十日ぐらいです」
「なら、食料を買って道から離れた所で野宿をすればいいわ」
「そうだな、そうするか。二人は食料を買って来てくれ、くれぐれも兵士には見つからないようにな」
「分かりました」
「任せて」
二人は食料を買いに出て行く。部屋には俺とセフィアの二人になった。
すると、セフィアが口を開いた。
「……私を突き出せばいいんじゃないですか」
「突き出すか……でも、元々俺が無理矢理連れて来たみたいな物だぞ。今更セフィアだけを突き出しても意味がないよ」
もう既に教会に牙を剥いたんだ。それくらいで状況は変わらないだろう
「……それなら、何で私なんかを」
「それは俺が助けたかったからだよ。教会のやり方は気に入らなかったし、良いんだよ」
「…………」
するとセフィアは黙り込んでしまった。
「なあセフィア、転移の魔法使えるか?」
セフィアは無言のまま俺の問いに頷く。
「そうか、ならもし逃げ切れそうになかったら、また使ってもらえるか?」
コクんと頷くセフィア。
これで逃げられる可能性は上がったか。
「馬車を前まで持って来たぞ」
ハッシュベルが馬車部屋に戻って来る。
「そうか」
するとスンが走って帰って来る。
「兵士はいっぱい居たの。町の入口を閉鎖していたの」
閉鎖しているとは面倒だな。
「なら強行突破するしかないか?」
「そうなの、入口は全部兵士が居たの」
少しすると、ミルシアとエルメナが帰って来た。
「食料買って来たわよ」
「よし、馬車に向かおう」
「分かりました」
俺たちは宿から出て、馬車に向かった。
馬車に食料を乗せると俺たちも乗り込み、馬車を走らせる。
「ハッシュベル、突っ込め!」
町の入口が見えてきた。兵士が数人いて、検問みたく出入りする人を調べている。
俺たちの馬車が突撃すると、兵士たちは避けて町から出る事は出来た。
「いたぞ!」
兵士たちは必死に叫んで味方を呼んでいる。
少しすると、後ろから馬が追って来る。
「やっぱり、逃げ切るのはきついか……セフィア頼めるか」
セフィアは頷くと、呪文を唱え始める。
セフィアが呪文を唱え終わろうとした時、後ろの兵士からの魔法を受けて馬車が揺れる。
「うわっ!」
俺は近くにいたセフィアに手を伸ばす。すると、目の前が白くなった。
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