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ハーレム目指して何が悪い  作者: かいむ
第3章 勇者と魔王
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第44話 セフィア

「――んっ……」


 少女はうめくと、苦しそうに目を開けた。


「――っ!」


 周りを見渡すと、自分が見られている事に気付き、息を呑み目を見開いた。


「あっ、起きたの」


 スンの嬉しそうな声が虚しく響いた。


「……あれ、なの?」


 スンは戸惑っている様だ。俺たちがみんなで喜ぶと思っていたのかな?


 はっきり言って、この少女の事は全然知らないし、俺がほんの二、三言話しただけだ。


 信用してない、と言うより寧ろ信用されてないだろう。急に起きたら自分が起きた事を喜ぶ人たち。――確実に怪しいと思い、警戒するだろう。


 だからと言って、無言で居られても同じだろうが……。スンがこの空気を作り出した事で、一番話し安い雰囲気になったのかもしれない。


「俺は君を連れ出したんだけど覚えてる?」


 出来る限り警戒されない様に優しい声を出す。無駄とか言うな。


「……勇者さま」


 ポツリと呟く様に漏らす少女。


「おう、やっぱり覚えていたんだ。俺はハヤトって言うんだ、よろしく」


「……覚悟は出来てます」


 急に何かに気付いた様に表情を変えた。


「はっ?」


 思わず変な声が出てしまった。覚悟は出来てるってなんだよ?


「え~と……」


 横に居るミルシアと目を合わせるが、ミルシアも首を振っている。反対のエルメナも両手を横に上げていた。


 少女の方を見てみるが、顔を俯かせたままジッと動かない。その姿からは諦めの色が滲んでいた。


「……と、とりあえず顔を上げなよ」


 俺は少女の扱いに戸惑いながら話し掛ける。


「……何ですか、もしかして体を所望ですか? 楽にいかせてくれないのですね」


 はっ? はっ? あ~? この子何言ってんの。体を所望って! こんなスンより小さな女の子が発する言葉じゃねぇ。


 ジッと、左右から視線が送られる。何を言わせてるんだというメッセージが簡単に読み取れる。だけど、これは俺が悪い訳じゃないだろ。


「そ、そんな事はないから、何も危害を加える気はないから、安心してくれ」


「……期待させようとしても無駄ですよ」


 期待って何だよ。もう! 話しが進まないな。


「……さっきも言ったけど、俺はハヤト。君の名前は?」


 とりあえず、攻め方を変えた。まずは名前を聞き出そう。


「…………」


 そんな事は教えたくないと言う様に黙りこくった少女。


「あたしはスンって言うの」


 そこでスンが名前を名乗った。少女は驚いた様子でスンを見た。まるで今まで気付いていなかったかの様に。


「アタシはエルメナよ」


「私はミルシアです」


「私はハッシュベルだ」


 みんながそれぞれ名乗る。少女は呆然とその様子を眺めていた。信じられないと言った様子で。


「――君の名前は?」


 俺は少女の目を見詰めて聞く。少女は迷う様に視線をさ迷わせると、決心した様に軽く頷く。


「……セフィア」


 消え入りそうな声で自らの名前を告げた。


「よろしく、セフィア」


 セフィアは俺の言葉に驚いた様に目を見開く。


「……何でそんなに親しくしてくるの」


「何でって、まあわざわざ危険を冒して連れ出したんだからな、親しくしないとな」


「……あなたは勇者なんでしょ、私があなたを召喚したんですよ、どうせ私に復讐する為に牢獄から出したんでしょう」


 何だ、そういう事か。だから覚悟は出来てるって。


「何だよ、そんな事か」


「……そんな事なんて、私は教会に従う事しか出来なかった。そして、言われるままに働く事しか出来なかった。そして失敗したら牢に入れられた」


 セフィアは顔を歪める。


「……怨んだ、教会を、従う事しか出来なかった私を。だから、選択肢無しにこの世界に呼ばれて、魔王を倒せと言われて、召喚した本人を怨まない訳がない!」


「そんな事はないさ。なら君より、君に召喚をさせた教会を怨むよ」


「……それでも――」


 何処か必死な形相で言い返そうとするセフィアを遮る。


「それに、俺は別にこの世界に召喚された事を怨んでないよ。今じゃ感謝してるくらいだ」


 感謝や喜びははしても、怨んだり怒ったりはしていない。だから、本当にどうでもいい。


「……元の世界に大切な人がいたんじゃ」


「いないよ」


 両親ならいたけど、今の方が遥かに大切な物が多い。


「……急に魔王を退治とか言われて理不尽だとかは」


「思わなかった訳じゃないけど、俺には考える時間もあったし、大切な物も出来、この世界が好きになっていたから」


「……なら――」


「別に怨んでないよ。怨んでいたら牢に置いてきてるよ。だから俺たちと一緒に行かないか? セフィア」


 セフィアは考え込む様に俯く。しばらくすると、ゆっくり小さく頷いた。


「よかった。これからよろしくセフィア」


 俺はそう言い、手を差し出した。握手はこの世界でもあるみたいだ。


「……まだ、信用した訳じゃないから」


 プイッと顔を背けて言う。その顔は微かに赤く染まっていた。


「はははっ」


 その仕種が子供っぽくて、思わず笑ってしまった。


「……!」


 セフィアに睨まれた。無言で睨まれた。


 でも、何とかこれからもやっていけそうだ。


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