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ハーレム目指して何が悪い  作者: かいむ
第3章 勇者と魔王
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第42話 脱出

 目の前で力無く座り込み、俺をその碧い瞳で見上げている少女を見る。


 この少女が俺を召喚した少女か。見えないな、俺より全然幼く見える。実際に幼いのかもしれないけどな。


 そう彼女が俺を召喚した少女。その少女がいるという話しを聞いたのは、二日前。






「なあ、聞いたか。あの巫女、牢に入れられたらしいぞ」


「えっ、あの勇者を召喚したとかいうあの巫女か?」


 エルメナたちと模擬戦をした日の夜、俺は何となく眠れなくて教会の外を散歩していた。


 すると、近くから声が聞こえてきたのだ。おそらく、見張りの兵士だと思われる男たちの会話が。


 教会のくせに見張りを立てたりして、完全に軍だった。町を襲っている魔物は倒さない癖して自分たちは、しっかり守るってか。嫌な国だな。


 俺はとっさに隠れて話しに聞き耳を立てた。勇者を召喚したとかいう気になる内容だったからだ。


「ああ、あの巫女、勇者を召喚するのに失敗したんだろう?」


「そうらしいな」


「で、上の人たちを怒らせちまったらしいぞ。あの娘にはそれしか期待してなかったみたいだ」


「マジかよ。怖いな」


「心配すんな、俺たちは何も期待されてないよ」


「ハハハッ、それもそうだな。無能でよかった。でもあの巫女、可愛かったのに残念だ」


「お前狙ってたのか? お前じゃ無理だよ」


 兵士たちは笑いながら遠ざかって行った。


 何? 俺を召喚した巫女がここにいる? しかも牢に捕らえられているらしい。


 俺は次の日すぐに情報を集め出した。さりげなく兵士たちに聞いたり、兵士たちの会話を盗み聞きしたりした。


 どうにか、その巫女がいるらしい場所を突き止めた俺は、夜他の四人を集めた。


 気になるな。俺が本物の勇者か調べてほしいし、そんな理由で牢に入れられているなんてかわいそうだ。助けてあげたいな。……別に可愛いって聞いたからじゃないぞ。


 俺がその巫女を助けたいと言うと、みんな賛成してくれた。


「もちろんです。ハヤト様らしいですね」


「いいに決まってるでしょ。ハヤトはそうでなくっちゃ!」


「もちろんなの。ハヤトさんはやっぱり凄いの!」


「私は反対だな。姫様が危な過ぎる」


 みんなそう言って、快く協力してくれた。


 ちなみに最後の人の意見は聞いていない。邪魔さえしなければそれでいい。


 詳しい事を決め、その日は解散した。そして今に至る。






「……勇者さ、ま…………」


 少女はそう呟いた。


 それは、俺を自分が召喚した相手だと分かって言ったのか、ただ助けてくれた人が勇者に思えたのかは分からない。だから、聞いた。


「それは、俺が君の召喚した勇者だからか?」


 少女は黙ったまま頷く。そして、顔を伏せたまま上げない。


 まあ、何にしてこれで俺が勇者だと証明された。なんたって、召喚した本人が言うんだからな。


「行くぞ!」


 少女は俺の声にピクリとも反応しない。何してんだよ、早く逃げなきゃならいんだよ。


「――えっ……!」


 俺は少女を抱き上げた。逃げないなら、無理に連れ出すだけだ。


「……な、何で?」


 何でもじゃない。残念ながらここは俺の自己満足に付き合ってもらう。


 少女の膝の裏と背中に手を回した状態。つまり、お姫様抱っこで持ち上げた少女はすごく軽かった。ちゃんと飯を食ってるのか心配になる。まあ、牢に入れられていたからたいした物は食べてないんだろう。


 来た道を走り戻る。階段を上り、地下一階に着く。そのまま、また階段を上り地上に出る。


 教会内は騒がしかった。エルメナたちが上手くやってくれたみたいだ。


「…………」


 少女はずっと黙り込んでいる。諦めた様に目を虚にしていた。


 東に向かって走る。ひたすら急いだ。身体強化も使って全力で。


「あれは、勇者様!?」


 くそっ、見つかったか! やばいぞ。


「あれは、巫女? まさか待て、待つんだ!」


 誰かが気付きやがった。少女を落とさない様に抱き直し、走る。


「ハヤトさん、早くなの!」


 スンの声が聞こえた。もうすぐか!


 前に見えた馬車に飛び乗る。中にはもうみんないた。


 俺は少女を優しく下ろし、ハッシュベルに叫ぶ。


「出せ!」


「分かってる!」


 叫び返された。


 馬がいななくと共に馬車が勢いよく進み出す。


 馬車の作りは天井があり、そこから横に垂れ幕みたいに布が垂れる様になっている。今は全開で周りがよく見える。


 神官たちも異常に気付いた様で、何人かが行く手に並んで魔法を唱えるようとしていた。


 ミルシアとエルメナが身を乗り出し、魔法を放つ。神官たちはまだ戸惑いがあったのか、何もしない内に吹き飛ばされる。


「急いで下さい」


「分かってるって言ってんだろ!」


 馬車はどんどんとスピードを出して行く。教会からかなり離れた所まで来た。


「ふう、もう安し――」


 安心しかけると、後ろから馬が何頭か神官を乗せて走って来た。


 どんだけ必死なんだよ。確かにこの少女は大事かも知れないし、俺が魔王を倒さずに逃げると思ったのか。とりあえず、神官は必死に追って来ていた。


「追い付かれるわよ!」


 エルメナとミルシアは魔法で攻撃するが、流石に相手は魔法の本場の神官。上手く防いでいる。


 聖剣を使う事が頭を過ぎったが、まだちゃんと使いこなせない。下手したら馬車まで巻き込まれる。


 くそっ、どうしたら!


 俺たちが焦っている内に段々と近付いている神官たち。数も増えてきた。


 馬車が揺れる。神官の魔法が届き出した。マズイ。


 エルメナとミルシアは魔法を放つが、ことごとく防がれている。


 聖剣を使う事を覚悟する。駄目で元々。運が良ければ助かる。


 俺は馬車の後ろから身を乗り出す。神官たちはすぐ近くにいた。


「魔王はちゃんと倒してやるから安心しろ!」


 覚悟を決め聖剣を振ろうとした、その時。


 後ろからぶつぶつと消え入りそうな声が聞こえたと思ったら、周りの景色が真っ白になる。


「うわっ!」


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