第37話 勇者
次の日、俺達は起きると、朝一に教会に向かった。全てをはっきりと知る為に。そう、俺を召喚したかも知れない人達の元へ。
俺達は昨日と違い、教会で取り次いでもらうとすぐに入れてもらえた。流石にここではエルメナが王女という事を使用させてもらった。ここで隠してもどうせ気付かれる。
しばらくすると、広間に連れて行かれた。広間には法衣を着た神官と思しき人達が整然と並んでいた。
俺達は無数の視線に晒されながら、広間の中央まで行く。正面には、椅子に座っている老人がいた。
「よくいらっしゃいました、エルメナ様」
その老人――白い髭を生やした神官が言う。
「なんでも、異世界から来た者を連れてきたとか」
「ええ、そうです。貴方がたが勇者を異世界から召喚し、失敗したと聞いたものですから」
エルメナは場の雰囲気に飲まれる事なく、堂々と言う。流石は王女だ。
「ほう、よくご存知で」
「隠していた訳でもないのでしょう。噂になっていたくらいですし」
エルメナはぬけぬけと言ってのける。調べるとか、秘密だとか言ってたのに。
「……で、その異世界から召喚された者はどなたなのですか?」
「こちらの方です」
俺はエルメナに手で示され前に出る。
「ハヤトと申します」
意味のない所で敵意を持たれても困るから、改まって挨拶する。
「ほう、貴方が異世界から召喚されたという?」
「はい、そうです。一ヶ月程前に突然、この世界に召喚されました」
「一ヶ月程前か、時期は合っているな」
周りが少しざわつく。
「なら貴方は自分が異世界から来た事を証明出来る物はありますか?」
「いえ、それは……」
「それなら、本物か分からないじゃないですか」
俺の答えが気に入らなかったのか、横に控えていた若い神官が言う。
「ですが、実際に召喚した方なら何か分かるかと思い、ここに来たのです」
「む、そうですか。しかし、召喚を行った者は今、いないのです」
「本当ですか……なら、その方を待たなければ分からないという事ですか……」
俺は落胆する。まさかいないとは想定していなかった。
「いや、お待ち下さい。一つ勇者だと証明する方法があります」
マジか、それは嬉しい。
「本当ですか!」
俺は少し興奮してしまう。
「ええ……それを行えば本物か分かるでしょう。その場所に移動しましょう」
神官達はその言葉に動き出す。俺達も神官の一人に案内される。
「にしてもよかったな。調べる方法があって」
「そうね、また待たされたら困りものだったからね」
歩きながらの俺の言葉にエルメナが答える。
「どの様な方法なのでしょう?」
「怖い方法なら嫌なの」
怖い方法って、どんなのだよ、嫌だな。実際、何をされるんだろう。
「魔法とかかしら?」
「いや、実力を示してみろとか言われるんじゃないのか」
「できればすぐに終わるのが良いな」
俺達は勝手にいろいろ想像しながら、歩いていた。
案内された先は教会の地下にある部屋だった。
薄暗い部屋に、松明が何本か立てられていて、無機質な壁を映し出していた。
部屋の中心にある岩の周りに神官達が並んでいた。
俺達がその岩の近くまで行くと、老人が話し掛けてくる。
「ハヤト様には、勇者である事を証明して頂く為に、その岩に刺さっている伝説の聖剣ラムドスクを抜いて頂きます」
まさかの、伝説の剣を抜くパターンかよ。んな事で本当に分かるんだろうか? 大体、ラムドスクってなんだよ。
「……それで分かるんでしょうか?」
俺は半信半疑だった。あんなの力があれば誰でも抜けるんじゃないのか。
「はい、あれには勇者しか抜けないとの伝承があり、今まで幾人もの力自慢が挑戦しましたが、抜けた者はおりません」
「……わかりました」
それは本当なんだろうな、仕方がないから試してみるか。
俺は岩に近付き、上る。四、五メートルある岩の頂上には、刀身の部分が見えないぐらいまで刺さっている剣が柄だけ顔を出していた。
「これを抜いたら良いんですか?」
「そうです」
俺が聞くと、緊張している声が返ってきた。
岩の上から見下ろすと、四方八方が神官達で埋まっていて、皆から期待する様な視線を感じた。
何これ、失敗出来ない雰囲気じゃん。いまさら勇者じゃありませんでした、とか言ったらふるぼっこにされそうだ。なんだかんだ言って、神官達は勇者に期待してんのか。
「くっ、じゃあいきます」
ゴクリと唾をのみ、柄に手を掛ける。部屋の空気が止まる。
息を吸い、柄を握りしめて、引く。
………………ぬ、抜けない…………。
ま、マズイぞ、マズイ。視線が痛い。
も、もう一度だ。
再び力を込め、全力で引っ張る。フルパワーだ。
「ぐ、ぐぉぉぉ!」
メキメキと嫌な音が聞こえる。だが、引き続ける。何としても抜く。
「おらぁ!」
岩の砕ける様な音と共に、聖剣ラムドスクが出てくる。その刀身は、青白く光り輝いていた。
俺が神秘的な聖剣に見とれていると、周りからの視線を感じた。
下を見ると、ジト目のミルシア達が。止めて、失敗出来ない雰囲気が悪いんだ。例え力ずくでも抜いたんだからいいだろ。ち、チートだけど。
「……ゆ、勇者様だー!」
勇気ある誰かが、声を上げる。力ずくでも抜けた事には代わりない。俺を勇者と認めてくれたみたいだ。ただ、魔王の退治を押し付けたいだけかもしれないが。
「勇者様だ!」
「勇者、ハヤト様だ!」
「ハヤト様じゃー!」
しばらく、地下には勇者様だのハヤト様だという声が響き続けた。
こうして、勇者ハヤトは微妙な空気の中、仲間には半眼で見られながら誕生した。
「勇者ハヤト様。どうか、魔王を倒して頂けないでしょうか」
俺の前の白髭の老人が言ってくる。
この世界に来てすぐだったら断ったかもしれない。何故、俺が何も関係ない世界を救わなきゃならないんだ、と。そんな事他人に任せるな、と。
でも、今はこの世界にも大切な人が出来て、この世界を好きになっている。だから――。
「もちろんです」
「ありがとうございます」
俺は勇者になった。
第二章終了です。
次回から第三章、これからもよろしくお願いします。
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