第35話 神父と神官
俺達は宿で起きると、すぐに出発する事にする。関所で時間が掛かってしまったから、先を急ぎたい。
俺達が村の外に止めてある馬車の所に向かい、村の中を歩いていると、村の教会の近くで騒ぎが起きていた。
「――どうかお止め下さい」
「おいおい、辺境の村にいる神父ごときが、中央の神官であるこの私に意見するんじゃない!」
近くに行くと、聞こえてきたのは、昨日会った村の神父さんの声と、もう一人偉そうに喋っている声。
「で、ですが、今年は凶作で、しかも魔物が増えたので、この村には、教会に納める税などございません」
「そんな事は無いだろう。こうして、村が元気に生きているのだから、何処かには納める物があるだろう」
神父さんは、村の教会を後ろに立っていた。神官は、馬に乗っていて神父さんを見下ろしていた。神官の後ろには、他にも神官と似たような格好をした人が何人もいた。
「その様な事をしたら村人達が生きていけません」
「なんだと! この村の人間が生きていけるのも、こうして中央の軍が魔物から守ってやっているからだろう」
神官と後ろの人達はどうやら、ミルバル国の軍みたいだ。軍隊は、神官が率いているからか、鎧の様な装備ではなく修道服姿だった。
「そ、そうですが、どうか今年はご勘弁を――」
「ふん。よし、税を集めるぞ!」
「はっ!」
神官は、神父さんを無視し、後ろの人達に号令を掛ける。
酷いな、この村は決して裕福そうではなかったのに、こんな村から税を搾り出すのか。
「酷いわ……」
エルメナは拳を握り締めていた。エルメナは神官に近づこうと歩き出す。俺は慌てて止める。
「何するのよ!」
何するのよ、じゃねぇよ。
「今、出て行ってどうするんだ?」
「そんなの止めさせるに決まってるじゃないの!」
エルメナは俺を振り解こうとしてくる。俺はそれを押し止め、言う。
「待てよ、エルメナ。ここでは、王女じゃないんだぞ。エルメナがここで何か言った所で変わらない」
「あ……でも、許せないわよ。なら、力ずくで追い払うわよ」
一旦力を抜いたエルメナだったが、そう言うとまた俺を振りほどこうとする。
「待てよ。力ずくで追い払っても、また次は、もっと兵を連れてやって来るだろう。そしたら、村人達はもっと困るだろが! そんな事は逆効果だろ」
「う……じゃあ、何も出来ないって言うの!」
エルメナは悔しそうに言うと、やっと落ち着いてくれた。これがこの国の決まりなら俺達にどうする事も出来ない。
「そうだな、俺達に出来る事は、この国の権力者に言う事ぐらいじゃないか?」
「そんなの無駄よ、あの神官も権力者でしょ」
「そこは、まともな人がいる事を期待しよう」
「何も出来ないなんて……」
「本当に酷いですね」
「村の人達が心配なの」
「姫様、行きましょう」
ミルシア、スン、ハッシュベルもそれぞれ言っている。
「く……そ、そうね、行きましょう」
俺達は、村から出ていく事にした。村人達が心配だったけど、俺達にはどうしようもない。
「キャャャー!」
俺達が魔物よけの柵の所まで来た時、村の中から叫び声がいくつも聞こえてきた。
「何だ!」
いくら何でも、こんな悲鳴が聞こえる事が起きているのはありえないだろう。
「許せない……」
エルメナはそう呟くと来た道を走って行く。俺達も慌てて追いかける。今回は止めようとは思わなかった。あんな悲鳴ただ事じゃない。あの神官は、一体何をしたんだ。
「えっ? 何が……」
俺達が教会の所まで戻って来ると、神父さんと村人達は魔物と戦っていた。……一体何が?
魔物の数は多かった。村人達が応戦しているが、圧倒的に押されてる。それに所詮は、ただの農家や職人、魔物と戦う事になれていない。
とりあえず、村人達の助太刀に入る俺達。こんな事を見過ごす事は出来ない。
「一体、何があったんですか?」
俺は魔物を倒しながら神父さんに近づき、聞く。何故か神官達は見当たらなかった。
「貴方は、昨日の。私どもが神官様に気を取られている内に、魔物に侵入されてしました」
神父さんは怪我をした村人達を、魔法で治療しながら答えてくれた。
「なら、神官達はどうしたの? 村を守ってくれるって言ってたじゃないの」
エルメナが魔法で魔物を倒しながら、神父さんに聞いている。
「ああ……神官様方は、魔物を見ると逃げ出しました」
「はぁ、何なのよ! あんな偉そうにしておいて!」
エルメナは怒りに任せて、魔物達に突っ込んで行った。
「魔物は俺達に任せて下さい。神父さんは村人達の治療に専念してください」
俺はエルメナを急いで追い掛ける。エルメナは魔法とレイピアで魔物を次々地に沈めている。無茶するなよ。
俺はエルメナを気にしながら、炎と水を纏った剣を振り回す。
ミルシアは広範囲の魔法で、魔物を大量に吹き飛ばしている。
スンは素早く動き回り、俺達の討ち残した魔物を的確に倒している。
ハッシュベルは大剣を振り回し、魔物を何匹も巻き込んでいる。
数分すると、大体の魔物は倒せていた。村人は五人で魔物の群を討滅した俺達を、驚愕の眼差しで見ている。
「ありがとうございます。助かりました」
神父さんは血に染まった俺達に言ってくる。
「神官達が逃げたってどういう事なんだ?」
俺は神父さんに聞く。税を取りに来てるんなら、魔物を倒すのを手伝えよ。何の為の軍だか。
「その事ですか、私も昔中央――聖地がある首都に居ましたから解るのですが、今中央の神官達は腐敗しています。国民から高い税を取るだけで、実際には、今回の様に何もしないのです。特に上の位の人間は酷く、あの神官も同じです」
神父さんは顔を歪めて言う。
「私はそんな神官達を変えようとしました。その結果が中央から追いやられたという訳です」
神父さんは自嘲する様に言う。
「……そんな事が許されるの?」
「神官達は、儀式だけはしっかり行っていますから、信者である国民にはどうしようもないのです」
神父さんは言う。今はただ、堪える事しか出来ない、と……。
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