第34話 ミルバル国へ
俺達は、神聖ミルバル国に入っていた。
既に、俺が黒装束に襲われて、病室で起きてから、一日経っていた。あれから黒装束は再び襲ってくる事はなかった。
これといってアースファルト王国と変わりはない様な道が続いている。周りの景色も大差はない。魔物の数が心なしか増えた気がするぐらいだ。
あの後、エルメナは恥ずかしくなったのか部屋から出て行った。俺も慣れない事をして疲れていた。カッコつけ過ぎたな……。
俺が横になって、自分のセリフに悶えていると、ミルシアとスンがやって来た。
「ハヤト様、大丈夫ですか?」
「ハヤトさん!」
二人は部屋に入ってくるなり、口を開く。
「ああ、大丈夫だ。心配かけて済まなかったな」
「エルメナさんが走って行きましたけど、どうしたのですか?」
「泣いていたみたいに見えたの。ハヤトさん何かしたの?」
二人がエルメナについて聞いてくる。
「え、え~と、まぁ、エルメナを狙っているのが誰かとかを、聞いていたんだ」
俺は一応事実を伝える。ただ、その後にした事は言わないが。
「本当に何もしてないのですね?」
「あ、ああ」
「ならいいのですが……」
「そうなの」
俺は少し、歯切れが悪くなってしまった。
俺は一日休んで、次の日には出発する事にした。ミルシアとスンは心配していたけれど、大丈夫だろう。一日でも早くミルバル国で事実を知りたいんだ。
ああ、そういえば、ハッシュベルがエルメナの部屋の前にいたのは、エルメナに護衛はいらないと言われたが、心配になり部屋の近くまで来ていたかららしい。
そこに俺が現れ、俺の事を暗殺者だと思ったらしく、向かって来たという訳だ。
ハッシュベルは、俺に同じ様な手で倒された事にイライラしていた。
あれから、俺とエルメナはまともに喋ってない。エルメナが妙に恥ずかしそうにするから、俺も恥ずかしくなる。
今も、四人で馬車に揺られているが、非常に気まずい。
「あ、あのハヤト。腕の調子どう?」
気まずい空気の中、エルメナが遠慮がちに聞いてくる。
「あ、ああ。大分、元に戻ったぞ」
俺は、包帯が取れた左腕を振りながら言う。あの、気を失う程の傷がこんな短時間で動くまでなるなんて、すごいな魔法。
やっぱり、俺の治療には、魔法を使ったみたいだ。関所に、回復魔法を使える人がいたみたいだ。よかった。
「そ、そう。ならいいんだけれど……」
さっきから、俺とエルメナの会話はこんな感じで、すぐに止まってしまう。
「やっぱり何かあったんじゃないですか?」
俺達の不自然さに、ミルシアが聞いてくる。うたぐり深いな。いや、俺達の言動が不自然すぎるのか。
「い、いえ、な、何にもないわよ」
「そうだぞ、何もないぞ」
エルメナが否定するから、俺も否定する。わざわざ言いたくはない。
「本当なの?」
スンの疑わしげな視線が突き刺さる。ぐっ、罪悪感が。
俺はそんなスンの視線を受けながら考えると、何だか馬鹿らしくなってきた。エルメナと気まずくなっていたら、エルメナを守れないかもしれない。
「なぁエルメナ」
「えっ、な、何?」
「安心しろよ。俺は言った事はちゃんと守るぞ」
「なっ、あ、当たり前じゃない!」
エルメナは少し安心した様に言う。俺の言った事信じてなかったのかな。
「言った事? 何の事ですか?」
「教えて欲しいの」
「え~、それは……」
「言ったらダメ! 秘密にしときなさいよ!」
俺が言い淀んでいると、エルメナが言ってくる。なら、言わないけど、俺も言うのは恥ずかしいし。
「まっ、そういう事だ」
「え~、何なの、知りたいの」
そんなこんなの内に、馬車はある村に着いた。今日は、ここで宿を取るという事だ。
村にはやはり、魔物よけの柵が張り巡らされていた。
俺達は馬車から降り、村に近づく。すると、柵の中から人が顔をだしてくる。
「おい、お前達は何者でぇ?」
「旅をしている者です」
「こんなご時世にか? 気楽なもんでぇ、まあ、入りな」
俺達は村人が開けてくれた門から村に入る。村人の案内で村の中を進む。
「まずは、教会でお祈りをどうぞしてくだせぇ」
俺達は立派な教会に連れていかれた。流石は宗教国家、こんな小さな村にも教会がある。
中に入ると、長椅子が並んでいた。ガラスはステンドグラスで彩られていた。
俺達は村人の見様見真似で、お祈りを捧げる。
「お客様ですか?」
俺達が祈り終わると、横から柔らかい声が聞こえてきた。そこには、ゆったりとした白い修道着を着た男がいた。
「へぇ、そうです。神父様」
「そうですか、ゆっくりしていって下さいね」
男は優しく微笑むと、下がって行った。
「神父様って、どういう人なんですか?」
俺は教会から出ると、なんとなく気になって村人に聞く。
「ん、神父様は、優しいお方でぇ。昔は聖地で働いておられたみたいなんだが、今はこうして、私達を導いて下さっておるのです」
「そうなんですか」
「ええ、そうなんでぇ。神父様が来るまでは、教会も荒れ放題で困っとったんです」
ふ~ん、立派な人なんだな。でも、聖地で働いていたんなら何でこんな所に来たんだ?
「では、ここで。宿はそこにあるんで。ごゆっくり」
村人は、俺達を案内すると去って行った。
「すごいな、教会でお祈りさせられたぞ」
俺は、村人が見えなくなると、口を開く。
「ええ、驚きました。外から来た者にもお祈りさせるとは」
「そうなの。あたし、ちゃんとお祈りできたかな?」
ミルシアもびっくりしたみたいだ。スンは可愛い事を言ってくれる。
「噂には聞いていたけど、この調子じゃ、村に行く度にお祈りしなくちゃならないわね……」
「そうですね……」
エルメナとハッシュベルも、言っている。無宗教の俺達には一々お祈りするのは面倒でしかない。
俺達はうんざりしながら宿に向かった。
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