第33話 エルメナ
目を開けると、真っ白い天井が目に入ってきた。俺はベッドに寝ていた。
俺は起き上がろうと思い、腕を動かそうとするが左腕が動かない。左腕には、包帯が頑丈に巻かれて固定されていた。
俺はそのグルグル巻きの左腕を見て、黒装束にやられた事を思い出す。どうにか無事だったみたいだ。
「あ~、そうか、油断したな」
俺は独り言を言い、周りを見回すと、俺の寝ているベッドの右側に広がる金髪を見つける。
俺は自由に動く右手で、その頭を優しく撫でる。そう、俺はエルメナを守る為に戦ったんだ、後悔はない。
俺がしばらくそうしていると、頭が動き、うめき声が聞こえてくる。
「ん、ん~」
エルメナはこちらに顔を向ける。そして、目を開く。
「えっ――」
固まるエルメナ、と俺。エルメナが固まるからつられて俺まで固まってしまった。先に硬直が解けたのは、エルメナだった。
「ハヤト、ハヤト! よかった。本当によかった」
そう言いながら、目に涙を溜めて、俺に抱き着いてくるエルメナ。
ああ、エルメナさん。色々と当たってますよ。エルメナも俺も部屋着で薄いから、良い感じに胸とかが――。
って、そんな場合じゃないな。俺はエルメナの背中に手を回し、言う。
「大丈夫だよ。あれくらい、俺には問題ないよ」
俺はエルメナを安心させる様に言う。
「で、でも、ハヤトは気を失っちゃうし……」
その後もしばらくエルメナの泣き声が続いた。
俺はひたすら安心させる様に背中を撫で続けた。その間も、胸を堪能させて頂きました。ごっつぁんです!
エルメナは落ち着くと、恥ずかしくなったのか、俺から離れてしまった。残念。
「……あの、ハヤト、その腕は特に問題ないそうよ。もう明日には元の様に動かせるということよ」
ふん、ちゃんと左腕の神経は生きているみたいだ、さっきから傷があった所が少し痛む。でも、あの傷で一週間か、魔法でも使ったのかな。
エルメナの話によると、俺はあの後結構危なかったらしい。毒も体中に回り掛けていたらしい。大量出血も危なかったみたいだ。あの傷の中、無理して動いたからな。
すでにあれから、二日経っているらしい。
「ずっと、看病してくれたのか?」
俺はエルメナがベッドの横で寝ていたから聞く。
「う、うん。アタシのせいだから、当然だわ」
「そうか、ありがとうな、エルメナ」
「な、なんで、ハヤトがお礼を言うのよ」
「いや、何となく……そうだ、あいつらの事聞いていいか?」
俺はずっと聞きたかった黒装束の事を聞く。
「えっ、ええ、いいわよ。ハヤトにも迷惑を掛けてしまったから、無関係じゃないしね」
エルメナは座り直すと、話し始めた。
「あの黒装束達を送って来たのは、おそらくアタシの姉、ルミナル・アースファルトだわ」
「えっ? 第一王女が?」
俺は、思わず聞き返す。
「ええ、そうよ。あのルミナル姉さんが……」
「なんでそんな事を?」
俺は、王都で会った第一王女を思い出しながら聞く。
「姉さんはアタシが邪魔なのよ。アタシがしょっちゅう騎士や兵士達と共に、色んな所に行っているから、騎士達はアタシに付いてるのよ」
別に、味方になってもらいたくて、一緒に行動していた訳じゃないんだけど、とエルメナ。
「それが気にいらなかったのよ。姉さんは、貴族達に人気だから、貴族と仲の悪い騎士に人気のアタシを、排除しようとしているのよ」
「姉妹なのに、そんな事で殺しに来るのか……」
「姉さんも第一王女だから必死なんでしょう。今、王国には王子はいない。従って、次期国王は、第一王女の姉さんが最有力。権力に貪欲な貴族達は、そんな姉さんに味方しているの」
「つまり、そんな後ろ盾を失わない様に、第二王女のエルメナを?」
「そう、アタシは別に後継とかはどうでもいいんだけど、騎士達はアタシを持ち上げているから……」
「ふーん、それで、エルメナがいなくなったら、騎士達は力を失い、貴族と第一王女に権力が集中するのか」
「アタシはこんな事、嫌だったのよ。なんで、姉さんに殺されそうにならなきゃならないのよ……。だから、王都にはなるべくいない様にしていたのよ。そして、今回ちょうどハヤトが他国に行くから、付いて来たのよ。でも――」
「俺達といる時に、王都から離れていても、刺客に襲われたという訳か」
「そうなのよ。アタシは、怖いの……。何処にいても姉さんに狙われている気がして。いつ、何処にいても安心出来ない……」
エルメナは俯き、肩を震わせていた。
「それは、国王とかには相談しなかったのか?」
「駄目よ。お父上は実力主義だから、死にたくなければ自分の力を付けろって、言われたわ。何ならルミナルがいなくなれば、お前が後継者だぞ、って」
「そ、そうなのか」
父親としてはどうかと思ってしまうな。娘同士に殺し合わせ様なんて。
「もう、アタシは生きていていいのかも、分からなくなったの。姉には命を狙われ、父は助けてくれない。旅に出ても、周りに迷惑が掛かってしまう。……もう、生きている意味が分からなくなったのよ」
エルメナの俯いている顔の下のシーツが、涙で濡れていた。
俺はそんなエルメナを見て考える。今、エルメナを救うには何をすればいいのか。
そして、決める。例えそれが間違っていたとしても、エルメナを救えるなら――。
「そんな事を言うなよ。エルメナ。俺はエルメナの為になら命を投げ出してもいいと思っているぞ。俺がエルメナ、お前の生きる意味になってやってもいいぞ」
「えっ? どういうこっ――」
俺は、顔を上げたエルメナにキスをする。軽く触れる様なキスだ。すぐに離れてしまったが、確かに触れた。
「な、何、なんで?」
唇を離すとエルメナは混乱して、目を白黒させている。可愛いな。
「俺の為に生きていてくれ。そうすれば、俺がエルメナを守ってやるから」
「な、なんでよ……そ、そんな事を言われたら……」
エルメナの目からはボロボロと涙が流れ出していた。その涙を拭うと、言う。
「わ、わかったわ。アタシをちゃんと守りなさいよ。ハヤト」
エルメナは、泣き顔に笑顔を浮かべ言う。
俺達は再び唇を重ねる。
エルメナの目からは、また涙が溢れていた。
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