第31話 関所
俺達はようやく国境まで、たどり着いた。国境線上には、関所が設置されていた。
俺達が関所に近づくと、見張りをしていた兵士が出てくる。兵士は俺達が馬車を止めるのを見ると、声を掛けてくる。
「通行書はありますか?」
俺が通行書を出そうと、服の中を探していると、ハッシュベルが暴走しだす。
「おい、お前失礼だぞ」
「は、はい?」
突然のハッシュベルの言葉に、首を捻る兵士。俺は嫌な予感がして、止めようとするが、間に合わない。ハッシュベルは暴走を続ける。
「こちらは、第二王女の、エルメナ様だぞ!」
あ~あ、言っちゃったよ。なんの為にエルメナが普通の鎧姿になっているんだか。俺達はハッシュベルの暴走に嘆息する。
どうも、ハッシュベルは王族を限りなく尊敬しているみたいだな。エルメナが普通に扱われるのが我慢ならなかったんだろう。でも、止めて欲しい。余計迷惑だろ。
兵士は何を、という顔をして、エルメナの顔を見る。すると、エルメナの顔に見覚えがあったらしく、顔面を蒼白にする。
「も、申し訳ありません。いらっしゃる事を知らなくて、す、すぐに、歓迎の準備を――」
「いや、その必要はないわ。それより、アタシが来た事は内密にしてくれないかしら」
エルメナが言葉を遮り、頼む。
「はっ、分かりました。本日はこちらに泊まっていかれますか?」
兵士はエルメナの言葉に敬礼して、泊まるかどうか聞いてくる。
エルメナは俺に視線で聞いてくる。エルメナはこの旅では、俺に付いて来ている身分だから、俺に基本的に従うと言っていた。
「泊まっていこうぜ。疲れている事だし」
俺達は関所で泊まっていく事にし、兵士に案内してもらう。
この後、当然ハッシュベルをボコボコにした。エルメナがなんの為に身分を隠しているのかを、しっかり教え込む。これだからバカは。
関所は大きく、無骨な造りで要塞みたいだった。中は広く、部屋も沢山あり、俺達はそれぞれに一部屋を与えられた。エルメナがいる事で気を使っているんだろう。
部屋にはベッドと、机しかない簡素な造りだったけど、野宿ばかりしていた俺には嬉しい。俺は、旅の疲れが出て、自分の部屋で寝てしまった。
俺は晩飯を知らせに来た兵士の声に起こされる。いつの間にか、結構時間が経っていた。
俺が食堂に行った時には、みんな既に座っていた。
「遅かったわね。待ち侘びたわよ」
俺がエルメナの対面に座ると、エルメナが口を開く。
「スマン、ちょっと寝てた」
「まぁいいわ。みんな揃ったし、食べましょう」
「「「「「頂きま~す」」」」」
エルメナが言うと俺達は一斉に食べ始める。
料理は色々あり、どれも豪華だった。ここにも、気を使ったんだろう。おいしい料理が食べられて、エルメナ様々だな。
俺はエルメナに感謝しながら、スープに手を伸ばす。最近は外で食べてばかりだったから、こういう温かいのは嬉しい。
俺は、肉を頬張りながらこれからの事を聞く。
「なぁ、俺達が向かっている神聖ミルバル国の首都……えー」
「……カタフィギオですか?」
俺が言い淀んでいると、右隣に座っているミルシアが教えてくれる。
「そう、それカタフィギオ」
カタフィギオ――神聖ミルバル国の首都であり、国の宗教のミルバル教の聖地でもある町だ。
「この前教えたばかりよ……」
エルメナの呆れた声が聞こえてくる。
「仕方がないだろ、最近は色んな事を知り過ぎて、頭がいっぱいいっぱいなんだよ」
「ふんっ! これだから、軟弱者は」
「はぁ、お前には言われたくないわ!」
俺は、エルメナの横で嘆息しているハッシュベルに言い返す。一々鬱陶しいやつだ。
「で、カタフィギオが一体何なの?」
脱線していた俺達を、右隣に座っているスンが引き戻す。
「ああ、そこまでここからどれくらい掛かるんだ?」
俺はカタフィギオが何処にあるのか分からないから、どれくらい掛かるのか知りたい。
「う~ん、馬車だと多分、三、四日じゃないかしら」
王都からここまでくらいの距離だな。案外近いみたいだ。
「ふ~んそうか。それから、聞いてなかったけど、この国とミルバル国はどうなんだ? 外交的に仲が悪かったりするのか?」
「外交的には、はっきり言って仲は悪いわ。少し前まで戦争したりしていたのだから」
「マジで。それなら、俺達はミルバル国に行っても大丈夫なのか?」
俺は今更ながら、心配になる。
「ああ、それなら大丈夫だぞ。今は魔物が増えた事に対応するために停戦しているし、わざわざ面倒事を増やしはしないだろう」
エルメナに聞いたつもりだったのに、男の低い声が耳に入ってくる。俺は少し気分を落としつつも安心する。
「なら、いいや」
俺はパンに手を伸ばしながら言う。久しぶりのしっかりした食べ物に箸がすすむ。箸はないけど。
「ねえ、ハヤト」
俺がそろそろデザートに入ろうかという時、エルメナが話し掛けてくる。
「ん、なんだ?」
「あの、ハヤトって、異世界から来たのよね?」
「んっ、なんだ、今更疑っているのか?」
「そういう訳じゃないんだけれど――」
エルメナは、俺の問を焦った様に否定し、少し言い淀むと、決心した様に聞いてくる。
「――ハヤトは、故郷から、親や友人と離れ離れになったのよね?」
ミルシアとスンは、その質問にエルメナを凝視して、俺の方を恐る恐る見てくる。
「ん~、まぁそうだな」
ミルシアやスンは俺の事を心配していたんだろう。今まで前の世界の事を聞いてこないと思っていたけど、そういう事か。
別に俺は触れられたくない訳じゃない。親や友人を思い出して悲しむ訳じゃない。特に友人はいなかった。逆の理由では、思い出したくないけど……。
「なら、この世界を、特に自分を召喚した人を恨んだりはしていないの?」
そうか、エルメナが心配しているのは――。
「いや、全然恨んでないよ。寧ろ感謝しているぐらい」
「えっ、何で?」
エルメナは俺の答えに首を傾げて聞いてくる。
「んっ、まぁ俺は前の世界では、何をする訳でもなかったし、この世界に来てから、ミルシアや、スン、エルメナなんかの素敵な女の子達と出会えたからかな」
俺は三人に笑顔で言う。ちょっとカッコつけ過ぎたか。顔を真っ赤にする三人に、俺も恥ずかしくなってくる。
「まぁ、ハッシュベルに出会ったのは、マイナスだけどな」
俺は恥ずかしさをごまかす為に、ハッシュベルの方を見て言う。困った時のハッシュベル。便利だ。
「一々、言わなくていい!」
俺とハッシュベルのやり取りを見て、恥ずかしさが収まったのか、エルメナが言う。
「なら、いいんだけれど」
多分、俺が召喚された事の復讐とか考えていると、思ったのだろう。
俺達は食事が終わっても、色々話した。
解散したのは夜も既に遅くなっていた。皆、自分の部屋に戻る事になる。
エルメナの部屋は俺達四人とは少し遠い所にある。俺達よりもいい部屋が当てられたんだろう。俺達四人の部屋はそれぞれ近かった。
「じゃ、おやすみ~」
「おやすみなさい」
「おやすみなの!」
「おやすみ!」
「姫様おやすみなさいませ」
皆口々に挨拶して、それぞれの部屋に向かった。
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