第29話 出発!?
俺達はエルメナの話を聞くと、一旦宿に戻った。今後の事について話す為だ。
俺はミルシアとスンと向かい合って、言う。
「なあ、ミルシア、スン。俺は――」
「言っておきますけど、私はハヤト様に付いて行くと決めていますから」
「あたしも! あたしも、もちろん付いて行くの!」
ミルシアとスンは俺の言葉を最後まで聞かず、付いて来ると言ってくる。
「でも、付いて来るったって、今度はこの国から外に出るんだぞ。しっかり考えて言っているのか?」
俺はもっと真剣に考えて欲しかった。俺はどうしても二人が大して考えずに、付いて来ると言っているとしか思えなかった。
「そんなのは当たり前です。私はハヤト様の奴隷ですから、ハヤト様が行くと言えば行きます。それに、私にはハヤト様しか頼れる人はいませんし、奴隷という関係がなくても、なんと言われようとも、付いて行きます!」
「そうなの、アタシもずっと前からハヤトさんに付いて行くと、考えて決めていたの!」
俺は二人の勢いに押される。二人が真剣に考えて、付いて行くと言うのなら、それでいいんだ。それに、本音を言うと付いて来て欲しかった。なんと言っても一人は寂しい。
「そうか、ありがとう。これからも、色々大変かもしれないけど、よろしく頼む!」
結局、二人とも付いて来る事になった。今までと何も変わらない。そう、今の俺にはこれが普通になっていた。
俺達が行こうとしているのは、神聖ミルバル国。魔法が盛んで、宗教によって治められている国だ。また、秘密主義で、エルメナも情報を集めるのは苦労したと言っていた。
エルメナの話だと、この世界で魔物が増え始めたのは、今から約二ヶ月前。俺が来る一ヶ月前くらいだ。神聖ミルバル国では他の国に比べても、魔物の増え方が多く、国も対応しきれずに人々は苦しめられていた。
そんな中、首都の聖地にいたある神官が、神からお告げを受ける。
曰く、魔王が現れたのが、魔物が増えている原因だ。
曰く、ミルバル国の中に魔王が存在する。
曰く、魔王を倒すには、異世界から勇者を召喚するしかない。
という事だ。俺には信じられないが、ミルバル国の人達は信じたみたいだ。さすがは、宗教の国。
そこで、昔から言い伝えられていた召喚の魔法を、国一番に優秀な巫女が使った。
それは、長期間に渡る魔法らしく、実際に呼び出せるのは、一ヶ月後、つまり、俺がこの世界に来た時とちょうど合う。
しかし、巫女は最後の最後に失敗したらしい。詳しい事は分からないが、勇者がちゃんと召喚される事はなかった、という事だ。
時期的にもピッタリだし、それが俺だという確率は高かった。失敗した結果があんな草原に投げ出されていた、というなら俺も納得できる。
俺はこのままこの話を無視して、普通に生活してもよかったんだ。本音ではそうしたかった。だけどよく聞くと、魔王を放っておくとこの世界が終わる、というお告げもあったらしい。
そうなると、この世界で暮らしていこうと思っている俺に、影響が出てくる。俺が本当にその勇者かどうか調べて、勇者なら魔王を倒さなければならない。残念ながら、勇者以外では魔王を倒せないときた。本当に面倒だ。
そういう訳で俺達は、神聖ミルバル国に向かう事になった。エルメナに通行書と、紹介の手紙を貰ったから問題なく行けるはずだ。
俺達は明日の出発に備えて、早めに寝た。
次の日、俺達は王都の外に用意しておくと、エルメナに言われた馬車を探していた。
エルメナには何から何まで世話になりっぱなしだ。これは、一生足を向けて眠れないな。
俺は止められている馬車を見つける。その馬車は、ハッシュベルが乗っていた馬車にも劣らない大きさがあった。派手さは抑えられていたから、安心する。変に目立ちたくないからな。
俺達が馬車に近づくと、馬車の側に人影があった。俺は使用人かなにかだと思い、お礼を言おうと近づく。
「あの、ハヤトです。これは――」
俺は言葉を途中で止める。いや、止まってしまう。俺の目の前に広がったのは、真っ赤なマント――
そうエルメナだった。
「え、エルメナ? 何でここに?」
俺は驚いて聞く。同時に、嫌な予感が沸き上がってくるのを抑えつける。
「あっ、ハヤト、遅いわよ。いつまで待たせるのよ! ん? 何でいるかって、それは付いて行くからに決まっているでしょう。ねえ、ハッシュベル」
な……に、ハッシュベルだと!? エルメナの真っ赤なマントの後ろには、白い鎧を身に纏い、大剣を背にした巨体が。
「……は、はい! それから、お前、姫様になんて口を利いているんだ!」
うわっ、鬱陶しいやつが来たな。ハッシュベルは俺達に付いて来る事には、乗り気でないみたいで、返事に歯切れがない。
「いいのよ、ハヤトはアタシの恩人なんだから」
「そ、そうなんですか?」
エルメナがハッシュベルを諌める。ハッシュベルは俺の方を睨んできたが無視だ、無視。
「で、私は一体何故一緒に行く事に?」
「え? だって貴方アタシの近衛じゃない」
「くっ、そうですが……。分かっています。全力で姫様を守らせて頂きます!」
ハッシュベルは、嫌そうにしていたが、エルメナの言葉には逆らえないのか、最後には投げやりに叫んでいた。
俺は二人のやり取りを見届けると、エルメナに話し掛ける。
「なあ、一国の姫がこんな勝手に他国に行ったりしていいのか?」
俺は、自分でダメだろ! と、ツッコミながら聞く。
「ん~、多分駄目なんだろうけど、勝手に出かけるのはいつもの事だし、大丈夫でしょ」
「いやいやいや、ダメっしょ! 何か俺があの国王に罪を問われたりするんじゃないの!?」
勝手に王女を他国に連れ出した、とか言って。
ハッシュベルはエルメナの後ろから、がんばれと口パクで俺に言っていた。そんなに行きたくないなら自分で言えよ。ムカつくな!
「大丈夫よ。アタシがなんとか言ってあげるから。さあ、行きましょう!」
エルメナは、他の国に行くのは初めてなのよ、と嬉しそうに言いながら馬車に乗り込んで行く。
「本当に大丈夫なのでしょうか?」
ミルシアがポツリと漏らす。
「いや、分からん。だけど、エルメナには世話になり過ぎた。今更逆らえない……」
「ははは、何だか賑やかになったの」
本当だ五人になってしまった。結構な大所帯だ。でも、こんな旅も楽しいだろうと、期待する気持ちもある。
俺達も馬車に乗り込み、賑やかな旅が始まった。
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