第2話 盗賊
「何だ!」
誰かが叫ぶ声を聞く。俺は自分の事かと、驚いて周りを見回すが誰も見当たらない。
だが、俺は人間の存在を感じられて嬉しくなり、すぐ声がした所を目指して走り出す。すぐにでも、会って話しがしたかった。さっきの声から考えるに、言葉は通じそうだ。
少し行くと馬車が止まっていた。俺は馬車なんて珍しいなと思いつつ、よく確認もせずに馬車の前に飛び出す。
俺の目には馬車を取り囲んでいる男達が写し出された。あれ? 見間違いかな? 盗賊に見える。しかも皆さん剣やら斧やらで武装してらっしゃる。
そして、馬車の方に目を向けると、高そうな服を着たオッサンが震えており、近くに真っ赤に染まった鎧が落ちていた。
ま、まさか、人じゃないよね? 俺はあの真っ赤な物体が人間だと認めないぞ!
俺が一人、狼狽していると、盗賊らしき人が一人話し掛けてきた。全部で十人はいそうだ。
「あっ? なんだてめぇは! 何しに来た!」
うわっ、いきなりの敵対心マックスだ……。俺は、なるたけ話したくなかったけど、答えなかったら殺されそうだと思い、仕方なく答える。
「えっと、たまたまここを通っ――」
「嘘つくんじゃねぇ!」
ええっ! まさかの人の話しを聞かないパターン?
「わざわざ人が滅多に通らない所を狙ったんだぞ!」
「そうだ! こんな所一般人が通る訳ないだろ!」
まずい、興奮してきてる。俺は誤解を解く為に、口を開く。
「いや、本当にたまたま通っただけなんです」
「嘘だろ! しっかり剣を装備しているし、もしかしてギルドか?」
「何? ギルドだと、俺らに懸賞金を出してるみたいだからな」
「くそ! もう、手が回ってくるとは!」
なんだか余計怒らせてしまったみたいだ。それに、勝手に話しが進んでしまっている。このままじゃまずい、非常にまずい。何とかしなくちゃ。
「ち、違いますよ。俺はギルドとか関係ありませんよ」
「はぁ! じゃあ何だってんだ!」
俺は何かいい言い訳を考える。このままじゃ殺される。何か、何か……、そうだ!
「俺は兄貴達の仲間に入れて欲しいんっす!」
何言ってんだ俺ー! 俺は自分でも何を言っているんだと思う。
「ふざけてんのか! やっちまえ!」
一人が言うと、奴らの内二、三人が向かって来る。俺は何故か少し余裕があった。それは、現実味がない為か? 無駄に高いステータスを持っていた為か? どこか冷静な自分がいた。
先頭の男が、剣を振る。俺はとっさに避ける。だが、頬に鋭い痛みが走る。剣が掠ったのだ。
俺は痛みに現実味を感じる。俺はここで斬られて死ぬんだろうか。
俺はそう考えると、怒りが込み上げて来た。意味が分からない。その時、何かが切れる音を聞いた。そこからは、俺は必死に生き残る事以外の事は考えなかった。
まだ、近くにいた先頭の男を、腰から剣を抜き様に切る。やけに軽く降り抜ける。男の頭は簡単に落ち、鮮血がほとばしる。
俺はそのまま、後ろの二人に向かう。二人は驚いていた。その隙を狙う。走り出すと、すごく速く走れた。相手の動きも遅く感じた。
「何っ!」
驚いてる男を切り倒す。続け様にもう一人も切り殺す。辺りに血が舞う。
「てめぇよくも!」
他の男たちの声が聞こえる。迫り来る剣を避けて切り付ける。また鮮血が飛び散る。次に迫ってきた剣も避ける。そして、切りつける。体が風のように軽い。自分でも驚く様に動く。
次々と避けては切り付ける。体は止まらなかった。ひたすら生きる事を考え……。
いつの間にか、立っているのは俺だけになっていた。俺は返り血で真っ赤に染まっていた。
俺は呆然とする。
俺は……何を……したんだ…………。
少しして、俺は自分を取り戻すと自分のした事が、急に怖くなった。
俺は、人を殺してしまった……。
必死に吐き気を抑える。
相手は犯罪者だ……そう、犯罪者なんだ。
殺さなければ俺が殺されていたんだ、ここは日本じゃないんだ。
そう自分を無理矢理納得させる。
そうしないと自分を見失ってしまいそうだった。
一人で呆然としていると不意に後ろから声が聞こえた。
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2012 1/29 加筆修正