第25話 ハッシュベル
俺達は馬車に揺られていた。王都には、馬車でも四、五日かかるらしい。
いくら馬車と言っても普通の馬と違い、人間が走る程のスピードしか出せない。いや、出そうと思えばもっと速く走れるのだろうが、そこまで急いでる訳ではないし、スピードを出せば揺れも激しくなる。
そんな訳でゆっくり進んでいるのだが、馬車の中では会話が無い。本当に静かだ。
ミルシアは何時もの事だし、スンは人見知りな所がある事は分かっている。だが今日のスンは人見知りのせいではなかった。俺が昨日、エルメナの事やら、俺が異世界から来たとか、諸々の言ってなかった事を教えたのだ。
当然スンは混乱していた。だが、俺が異世界の人間なのは、別にどうでもいいと言っていた。って、どうでもいい事は無いと思うんだが……。まぁ、そのままの俺を認めてくれたのだ。ハヤトさんはハヤトさんだと思うの! だとさ、いや~嬉しかったね。
まぁその事も含め、色々な事を一気に知ったスンは、今も色々考えているんだろう。時折、……異世界、とか、……王女、とか聞こえて来る。ハッシュベルに聞かれてないか心配だ。聞かれると色々マズイ。
そういえば、スンはここ二、三週間で、相当強くなった。なんせ、スンの故郷から戻ってから、高ランクの依頼とか、ダンジョンに行きまくったからな。
元々身体能力が高かったのだろうけど、凄く強くなった。その高い身体能力を生かした戦い方は目を見張る物があった。一対一なら俺も負ける程に。
まあ、俺はチートで、戦闘センスとかは、あまりないからな。……なんとも悲しくなってくる話だ。
閑話休題。
ミルシアもスンも話さないし、ハッシュベルはずっと不機嫌そうだ。そんなに嫌だったのか? 俺達との旅が? まぁ、俺も嫌だったんだけど、歩いて王都までは遠すぎる。仕方がなかったんだ。エルメナの手紙にも書いていたんだし。
「なあ、ハッシュベ――」
俺が話し掛けようとしたら、ハッシュベルは物凄い形相で睨んで来る。怖っ! 俺は諦めて、ミルシアの方に視線をスライドさせる。
「なあ、ミルシア」
「何でしょう?」
「何か話をしないか?」
「……話ですか?」
俺の言葉に首を傾げるミルシア。
「そう、話だ。暇だから何か話さないか?」
「いいですよ」
「王都って、どんな所なのかな?」
「そうですね……、行った事がありませんから分かりませんね」
「いや、事実を知りたい訳じゃなく、こう、予想というか、希望みたいなのだよ」
「希望ですか? ハヤト様が私のおもちゃに――いえ、何でもありません」
えっ! 何それ、ミルシアの隠れた希望が垣間見えたよ! 俺はミルシアのおもちゃにされるの!?
「……そ、そうか。いや、もういいよ…………」
「……?」
ミルシアは何? という顔をしていたけど、俺はミルシアが怖かったんだ。何かいけない事を聞いた気がして。俺は諦める。
俺はまた、視線をスライドさせるとスンが視界に入って来る。だが、スンは目が死んでいた……。そして、時折聞こえる小さな呟き。怖っ! あのかわいかったスンが!
俺は話すのを諦めて景色を見ながら揺られ続けた。一日ってこんなに長かったんだね…………。
結局、一日目の野宿の場所まで話す事はなかった。
道から少し離れた所に、馬車を止めると御者は馬車を見ておくから、適当な所で野宿して下さいと言う。御者も王族の近衛や王女の客人と一緒に寝るのは、きつかったんだろう。ちなみに御者は二人いる。
俺達は、ハッシュベルに付いて、野宿の場所を探す。野宿の場所が決まると、俺はハッシュベルに言う。
「じゃあ、俺達がテントを張っておくから、ハッシュベルは薪になる木の枝を集めて来てくれ」
「はぁ、お前ら何を言――」
「そうですね、ハッシュベルさんお願いします」
さすがミルシア、乗ってくれた。君の願望は恐ろしいけど。
「くっ! だから嫌だったんだよ!」
ハッシュベルは怒りながらもちゃんと薪を探しに行く。去り際に目に光る物が見えたのは、気のせいだろう。復活したスンは苦笑いしていた。
俺達はちゃんとテントを張り、ハッシュベルを待つ。テントは二つ男と女それぞれだ。二人で寝ても少し余裕がある広さだ。でも、ハッシュベルはデカイから狭くなりそうだな。
「ん~、遅いな」
「やっぱり、一人で行くのは危なかったかもなの」
「いや、あいつも王族直属の騎士なんだろ、一応。大丈夫だろ」
「そうです。大丈夫です」
少しすると、ハッシュベルは帰って来た。ハッシュベルは無言で薪に火をつけ、焚火を起こす。
俺達はそこで持って来た保存食を温めて食べる。冷たいままよりは美味しいかったが、所詮は保存食、パサパサしていた。
俺達は少し会話して、寝る事にする。見張りは、順番にする事になった。最初はハッシュベル、次に俺だ。女性陣は明日にしてもらう事になった。
俺達はハッシュベルを残してテントに入る。俺は一日中馬車に揺られたから疲れた。その疲れを癒す為に寝る。
俺はハッシュベルに揺り起こされる。ん、もう交代の時間か。俺はテントから出ると、まだ軽く火が付いている焚火の前に座る。
俺は一人考える。果して、本当に勇者の召喚が行われたのだろうか? そして、俺はその勇者なのだろうか? まあ、それも全て王都に行けば分かるのかな。
俺は、色々考えながら朝まで見張りを続けた。
結局何も起こらず、朝になった。皆を起こして、朝飯を食べる。残念な事に、またおいしくない保存食だけど……。
朝食を食べ終わると、赤色が目立つ馬車に乗り出発する。
俺は昨日の様に暇なのは勘弁なので、ハッシュベルに話し掛ける。
「なあ、ハッシュベルってさあ、何で近衛になったの?」
俺は適当に質問を投げかける。
「だから、呼び捨てにするな!」
「そうか、姫様が可愛すぎて近くで仕えたかったんだな? まぁ、気持ちは分からなくはない」
俺がハッシュベルに話すと何故かこうなる。うんうんと頷くスンとミルシア。ハッシュベル弄りに皆さん慣れてきた様で。
「お、お前、ふざけるのもいい加減にしろ!」
ハッシュベルは今まで散々言われて、溜まっていたみたいで、爆発する。
「よし、いいだろう! 此処で誰が一番偉いのか決めておこう! ハヤト、貴様、私と決闘しろ! その勝者がこの中で一番偉い、それでいいだろ!」
はぁ? 決闘? こいつはいきなり何を言い出すんだ!?
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