おまけ ミルシアの暴走
スンとルンさんの仲直りから少し経った後。俺とミルシアの二日酔いのせいで、帰りの道のりは遅々として進まなかった。
途中で魔物が出ても、スンに任せて、俺達は遠くから高みの見物を決め込んでいた。激しく動くと、ヤバイんだ色々と。特に強い魔物も出なかった事だし、すっかりスン任せっきりだった。
ルンさんにスンの事頼まれたばかりだというのに、スンに負担を掛けまくっていた。
「スン、済まない……任せてしまって……ウ゛ォエ、う、気持ち悪」
「すみません、スンさん。お酒に弱い事をすっかり忘れていました………うっ、すみません」
俺とミルシアは完全にグロッキーだった。
「無理しないで、出発は明日にしたら良かったの」
「スン、このくらい、俺にとってなんて事ないぞ……ウ゛ウ゛ッ」
「そうです、問題ありません……うっ」
「無理して出発する方が迷惑な気がするの……」
スンは苦しむ俺達を見て呆れた様に言う。俺とミルシアは、森の中で少しスッキリさせてもらい、また歩き出す。すみません、森……。
俺達は苦しみながら何とか、大きい道まで出て来た。
「このままじゃ、町に着けるか分からないの。道を通っている馬車か何かに乗せてもらう方がいいと思うの」
「そ、それは名案だ。是非ともそうしよう」
「そ、そうですね。スンさんにこれ以上の迷惑は掛けられませんから」
俺とミルシアは既に限界だったから、スンの提案に即、賛成する。俺とミルシアの気力は尽きかけており、そのまま座って待って馬車が通るのを待っていたかった。
だが、スンが許してくれない。スンさんマジで勘弁して。
馬車に乗せてもらうにしても、馬車が通って来るのを座って待っている訳にもいかないという事で、とりあえずノロノロと歩き出す。
歩き出したのはいいが、歩けども、歩けども、馬車が通らない。
「もう、こ、ここら辺で野宿、してしまおうぜ、うっ……」
「そ、そうですね、明日まで休んだ方がいいと思います……うう」
「そ、そんな事言わないで欲しいの。も、もう少し頑張るの!」
俺とミルシアが完全にやる気を無くした時、道に救いの神が舞い降りる。
「あっ、馬車が来たの! これで町まで行けるの!」
スンの声に顔を上げると、一台の大きな馬車が走って来る。これで、助かった~。
スンは座り込んでいる俺とミルシアを立たせると、馬車の方に向かう。
「すみません! 少し乗せてもらえませんか?」
スンの言葉に、馬車は俺達の前に止まる。荷台は布が被されて膨らんでいた。俺達が乗る所はあるのか?
御者の男は俺達の方を見て言う。
「何処まで行きたいんだ?」
「マスラまでお願い出来ますか?」
男の優しそうな言葉に、スンは安心した様に答える。
「ああ、もちろんいいさ。ただし…………、死体としてな!」
男が急変して叫ぶ様に言うと、馬車の荷台の布が中から取り払われ、沢山の男達が出て来る。
そして、俺達の周りを円形に囲んだ。な、何だ?
俺達が突然の事に混乱していると、一人の男が前に進み出て来る。なんか見たことあるような?
俺が記憶を探っていると、隣でスンが息を呑む気配を感じる。
「おい! てめぇらそのガキが持って行った金を今す――ごぁば!」
男は話の途中でミルシアの魔法に飛ばされる。あいつの言葉からすると、スンを騙していた奴か? じゃあ周りの奴らはあいつの仲間か? ギルドにはこんな事をする奴らがこんなにもいるのか……ギルドも腐ってるな。
「頭に響きますから、大声を出さないで下さい」
ミルシアは頭を押さえて、怒っていた。確かに頭に響く、二日酔いにあの大声はキツイな。
「てめぇ! 何しや――ぐびゃっ!」
「ふざけんじゃねえ――げふっ!」
次々と声を出した者から、ミルシアの魔法の餌食になっていく。相手も警戒して、喋らなくなった。
俺はこんな二日酔いの状態で戦いたくないし、穏便な解決法を提案する。
「なぁ、お前ら諦めてくれよ。っていうか、関係ないやつが殆どだろ? 元々の取り分なら俺が払ってやるからさ」
俺が喋っていると、ミルシアがこっちを睨むから、魔法を討たれるかと思いビビった……。大声は出してないからいいだろ。
しかし、周りの男達は俺の言葉を無視する。
「騙れ! 有り金全部頂くつもりだから、そんなの興味ねぇんだ――ぐあっ!」
「この人数ならいけるはずだ! 行け! ――ぐわっ!」
声を出した奴らはミルシアに瞬殺されていた。ミルシアはとうとう怒りが頂点に達したのか、強い魔法を放ち始める。
俺は身の危険を感じてスンを抱いて、素早くその場から離れる。うっ、頭、痛……。
しばらくすると、辺りはミルシアの魔法でボコボコになり、男達は無残な姿で伸びていた。
わざとなのか、あいつらが乗って来た馬車は無事だった。ミルシアは忌ま忌ましそうに呟く。
「本当に頭が痛いと言っているのに……さあ、ハヤト様、スンさん、馬車も手に入れましたし、町に向かいましょう!」
ミルシアの笑顔が妙に怖かった。俺はその時のミルシアを忘れないだろう。スンも完全に怯えきっていた。
俺は、二度とミルシアに酒を飲ませまいと、誓い。ミルシアを怒らせない様にしようと、思った。
俺達は男達を置いたまま、馬車で揺られて町を目指す。
ご感想お待ちしています。
2012 3/13 加筆修正