第23話 スンとルン
村に着くと柵が破壊されていて、見張りの男達が倒れていた。俺が近づくと1人が顔を上げる。
「魔物が……魔物が村に入っちまった。頼む……村を家族を守って……く……れ…………」
そう言うと力を失った様に倒れる。俺は近寄り助け起こす。
「おい! しっかりしろ!」
くそっ、何てことだ! 村人が犠牲になるなんて……ミルシアも近寄り様子を見ている。
「……命に別状はありません」
そ、そうか、俺が絶対に仇を討ってやる。だから安心して逝きな…………………………………って、命に別状はないだと!? さっきの言葉、完全に死に際の台詞だったぞ?
いかんいかん! こんな事をしている場合じゃない、急がないと。とりあえずミルシアが言うに2人とも命に別状はないみたいだし。
「急ぐぞ! スン、ミルシア!」
俺達が村の中心あたりまで走ると、猪の魔物が見つかった。その前には、果敢にも魔物を迎え撃つ村人達の姿が。
「スン! 行ってこい!」
俺はスンに魔物を倒しに行かす。幸な事に、魔物は一体だけみたいだ。
「分かったの!」
スンが行くと俺はミルシアに言う。
「ミルシア、スンが危なくなったら助けてやってくれ」
「んっ? ハヤト様はどうするのですか?」
「俺はちょっとしなきゃならない事が出来た」
「そうですか、なら任せて下さい」
ミルシアは俺のしたい事が分かったのか、詳しくは聞いて来なかった。俺はミルシアから離れて、さっき見つけたルンさんの所に向かう。
「どうです? スンも立派に冒険者してるでしょう?」
俺は、心配そうにスンを見ているルンさんの横に立ち、同じくスンを見ながら話し掛ける。
スンは猪の魔物に挑み掛かると、一人で奮闘している。
「っ!?」
ルンさんは驚いた様にこちらを見る。
「貴方は確か――」
「そう、スンと一緒に冒険者をしている、ハヤトという者です」
「何故、貴方が此処に?」
ルンさんはスンの方に視線を戻しながら聞いてくる。
「それはルンさん、貴女がスンを心配していると聞いたからものですから」
スンは今までの疲れか、猪の突進に反応が遅れる。
「あっ!」
ルンさんは思わず声を出す。だが、俺は安心して見ていられる。
猪はスンに届く前に突風に飛ばされた。
「い、今のは?」
「今のはもう1人の仲間ミルシアの魔法です。貴女がスンを心配するのは分かります。ですが、スンには俺達仲間がいます」
スンは倒れた魔物に止めを刺していた。
「スン自身も決して弱くないですし、危なくなったら俺が命を懸けてでも守りますよ」
「…………」
俺は黙っているルンさんを残してスンの元に向かう。
次の日、俺達は町に戻る為にスンの家を後にした。
昨日は、あの後大変だった。村を救った英雄だとか何とか言って、俺達の為に宴会が開かれた。
宴会では、スンが村の英雄として盛り上げられ、俺達はその仲間という事になっていた。
まぁ村人達が見た戦闘がスンのだけだったからな。スンも嬉しそうだったし良かった。
でも、ルンさんがスンに話し掛ける機会はなかったと思う。それが少し気がかりだった。
俺とミルシアは、村人達に酒を勧められ、飲まされた。
俺はもちろん飲んだ事がなかったが、意外とおいしかった。だが、残念な事にアルコールにはそんなに強くなかったらしく、二日酔いが酷い。今も頭が痛い。
ミルシアは酒を飲まされると、すぐに顔が赤くなり、俺に愚痴り、いつも以上の暴言を吐き始めた。酒癖が悪いみたいだ。
終いには、俺の周りには誰も村人がいなくなった。皆さんミルシアを避けたのだ。俺達は英雄だったんじゃ……。
と言う具合で騒ぎまくった。結果、今日は昼前まで寝ていた。
俺もミルシアも二日酔いだった。頭がガンガンする。スンは大丈夫だったみたいで、ピンピンしていた。
俺達が村を出ようとした時、後ろから声が聞こえた。
「スンー! スン!」
ルンさんが走って来ていた。俺とミルシアはスンから少し離れる。ルンさんはスンの側まで来ると俯いて息を整える。
スンは突然の事に驚いて目を見開いている。ルンさんは息が整うと、俯いたまま喋りだす。
「……スン、あの……今まで、無視したりしてゴメンね。わたしはあなたが本当にちゃんとした冒険者に、なれると思っていなかったの」
ルンさんは顔を上げてスンの顔を見て話す。
「でも、昨日あなたが魔物と戦っているのを見て、ちゃんと大きくなっているんだと知ったの。ちゃんと冒険者としてやっているんだと分かったの」
ルンさんは俺の方を向き、口元を緩めると言う。
「あなたの事を守ってくれる人もいるみたいだし、もう心配しなくても大丈夫かな?」
「……ルンお姉ちゃん、あたし……あたし……、お姉ちゃんがあたしの事心配してくれてるのを分かってたのに、勝手に村を出て…………ごめんなざい……」
スンは涙を流しながら謝っていた。スンも色々と思っていたのだろう。
「いいのよ、わたしも無視したりしてゴメンなさい」
ルンさんはスンを優しく抱きしめる。少しすると、ルンさんはスンを放し、言う。
「スン行きなさい。あなたの仲間達が待っているわ」
「……分かったの。行ってくるの!」
「身体には気を付けるのよ! また、いつでも帰って来ていいのよ!」
スンが俺達の所まで来ると、ルンさんが大きな声で言う。
「ハヤトさん、ミルシアさん、スンの事を頼みます!」
「もちろんです! 任せて下さい!」
「お任せ下さい」
俺達はルンさんに見送られて村を出た。
一応これで第1章は終わりです。
第2章もよろしくお願いします。
ご感想お待ちしてます。
2012 3/7 加筆修正