第22話 森の魔物
翌朝、俺達は再び村長の家に訪れていた。俺は村長を待ちながら、今朝の光景を思い出していた。
今朝も、ルンさんとスンは口を利いていなく、朝食の時間も気まずい空気が漂っていた。
俺は事情が気になって、ご飯を食べ終わるとスンのお母さんに聞いた。
スンのお母さんによると、ルンさんはスンが冒険者になるのに反対だったらしい。「スン、あんたが冒険者なんて出来る訳ないじゃん! 魔物を殺したり、時には人と殺し合ったりしなきゃいけないのよ!」と言う具合に。
スンが冒険者になる為に村を出てからは、口を利いてないそうだ。
本当はルンもスンの気弱な性格を心配していただけなのに、頑なな性格だから……どうしたものかしら。と言っていた。
俺はつい勢いで、「なら、俺に任せて下さい」と言ってしまった。ん~、どうしたものかな?
応接間の扉が開いたので、俺は思考を止める。
村長さんは杖をコツコツとつきながら俺達の前まで来て、向かいのソファーに座る。
「ゆっくり休めたかのぉ?」
「おかげさまで」
別にゆっくり休めた訳ではないが、わざわざ言う事でもない。
「それはそれは。では、本題に入るとするかの?」
ようやく依頼の内容が聞ける。まぁ、依頼書から大体の内容は想像出来るんだが。
「はい、確か森の魔物の退治だとか何だとか」
「そうなんじゃ。最近この村の周りの森に、大量の魔物が出る様になってのぉ。村人の中には襲われて怪我をする者も現れておる。幸い死者は出てないのじゃが、このままでは、村の者達も自由に仕事も出来んのでの。こやつらの数を減らして欲しいのじゃ」
やはり、最近はどこでも魔物が増えてるみたいだ。
「そうですか……、ん? でもこの村に来る時、森の中を通って来たけど特に魔物が多かった様なことはなかった気がしますが?」
俺が疑問をぶつけると、待ってましたとばかりに村長が答える。
「そうなのじゃ! お主らが来た方向つまり町へ出る方向には、あまり魔物はいないのじゃが、反対側の森に集まっておるの様なのじゃ」
「そんな事がありえるのか?」
俺が疑問に思い聞くと、ミルシアが答える。
「もしかしたら強い魔物が現れて、ダンジョンみたく、そこに魔物が集まっているのかも知れません」
「ダンジョンみたいに……、それは厄介だな。じゃあその強い魔物を倒せば解決ってわけか?」
「恐らくそうでしょう」
「よし! じゃあ、村長さんそういうことだから行ってきます」
「よろしく頼むのじゃ」
俺達は村長に見送られ、家を出る。来た時とは逆の方向の出口に向かう。
魔物避けの柵の所には、やはり見張りがいた。獣人とエルフだ。
そういえばこの村は異種族が多いな。村の中で歩いているのも殆どがエルフや獣人、ドワーフだった。
「お! あんたらが魔物を退治しに来たという冒険者かい?」
近づくと一人が気付いて話し掛けて来る。
「そうです。魔物が多いっていう森はこっちですよね?」
「ああ、そうだ。この先の森に沢山いる」
「そこには、どんな魔物がいるんですか?」
魔物について情報を集める。
「ここには、ゴブリンなんかの弱い魔物しか来ないが、襲われた者によると森の中にはもっと強いのがいるらしい」
「まぁそいつも、すぐに逃げたから何かははっきり分からなかったらしいが、デカイ魔物らしいから、気を付けな」
「どうも、ありがとうございます」
俺達は柵の外に出ると森に入って行く。
「デカイって言ってたな。オーガか何かだろうか?」
「そうかも知れませんね、油断は出来なさそうです」
「お、オーガ……」
スンはオーガと言う言葉にビビっていた。
森の中は、薄暗く不気味な雰囲気だった。
こんな所で仕事してる人がいるのか? すげぇな。と思っていると、前方から足音が聞こえて来る。
ゴブリンだ。1匹だけで行動しているとは、馬鹿なやつめ。
「スン! 行ってこい!」
「わ、分かったの」
俺が言うと、スンは焦ってモタモタしながら腰に差してある短剣を引き抜く。
ゴブリンもこちらに気付いた様で向かってくる。
「や、やあー!」
スンは情けない声を出しながら、ゴブリンに向かって行く。ゴブリンだから大丈夫だと思っていたけど、本当に大丈夫なのか?
俺の心配を余所にスンはゴブリンの一撃を華麗に避け、短剣で切り付ける。
ゴブリンは一撃で沈んだ。
「お~! やるじゃん」
何と言うか、発していた言葉や直前の行動と、倒した時の動きに差があった。実際結構強いんじゃないのか?
その後も俺達はテンポよく魔物を倒していく。スンは自分で言っていた程役に立たない訳じゃなかった。普通に強い。
「はぁ、本当に魔物が多いな」
「今の所弱い魔物しか出てませんけれど、さすがに疲れました」
「もう、クタクタなの~」
俺達が疲れて休んでいると、突然デカイ足音が聞こえてくる。
「なんだ!?」
俺達は、足音のする方へ急ぐ。
そこには、オーガよりも細長い体で、腕がすごく長い魔物がいた。
「なんだあいつは?」
「トロルです! オーガよりは弱いですが、リーチが長く厄介です」
「分かった。行くぞ! スンとミルシアはあいつを撹乱してくれ」
俺の言葉でスンとミルシアは撹乱し始める。ミルシアは魔法で、スンはその高い身体能力を生かして。
俺はトロルの後ろに回って、左右の魔剣を抜き、魔力を込める。
デカすぎて、首まで剣が届きそうにないな。
俺はトロルの足元まで走り、膝裏に炎と水を纏った剣で切り付ける。
トロルは片方の支えを無くし、バランスを崩し奇声を発しながら倒れ込む。
倒れたトロルはその長い手を振り回し暴れる。
俺はその腕の隙間を縫って首に近づき、切り落とす。
俺達はあっさり目的を達成し、村に戻りながら残っている魔物を倒していく。
おかしいな、倒した魔物達は皆、俺達がトロルを倒した場所から遠ざかろうとしているみたいだった。
まずいな、何故かは分からないけど、トロルがやられた事を他の魔物達は知っているみたいだ。このままだと、村に向かう魔物も出て来るかも知れない。
「ちょっと急いで戻るぞ!」
「どうしたのですか?」
「魔物が皆トロルを倒した場所から遠ざかっている。このままじゃ村が危ない!」
俺はミルシアの問に答えると走り出す。
ミルシアもついて来る。
「え! な、何? 2人ともどうして急に走り出すの?」
スンは話しさえ聞いてなかったのか、走り出す俺とミルシアを見て焦っている。
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2012 3/7 加筆修正