第17話 ネコミミ
俺逹は悲鳴がした方に急いで向かう。悲鳴はすぐに止んでしまった。俺は焦る。
それにしても、ダンジョンに入って初めて他人の存在を感じたのが悲鳴とは、さすがダンジョンというところだな。
俺達が少し行くと、前から数人の冒険者達が必死の形相で走って来る。
「おい! 一体、何があったんだ?」
俺は状況を知る為に聞く。一体、何があったんだ。あんな悲鳴、ただ事じゃないぞ。
「あっ! ド、ドラゴンだ、このダンジョンの主、ドラゴンが出たんだ!」
「俺逹じゃとてもじゃないが、敵わない!」
俺の声を聞いて初めて俺逹に気付いたみたいで、ホッとした様子で話してくれた。
「主か、ミルシア意外と早く見つかったみたいだぞ」
俺は主の情報に早く帰れそうだと、嬉しく思った。最近俺、楽観的になってるな。
「ええ、そうみたいですね。早速行きますか?」
「おう! さっさと行っちまおうぜ」
俺達は主を倒す為に、冒険者達が逃げて来た方に向かう。
「お、おい、まさかあんたら二人で行くのか」
「やめときなよ、ど、ドラゴンだぞ」
俺逹が主に挑みに行こうとしたら、さっきの人たちに呼び止められる。まぁ、四、五人いながら逃げて来たんだからな。けど――。
「ミルシア、ドラゴンってどれぐらい強いんだ?」
「オーガよりは強いですね」
「まじか~、まぁ大丈夫だろ。それに、主が目的だし」
俺逹はドラゴンの待つ場所に向かう。
「お、おい」
冒険者達が何か言っていたが無視する。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁー!」
ドラゴンの所に向かって走っていると、また悲鳴が聞こえてきた。最初の悲鳴より、切羽詰まっている様な悲鳴だった。
「何だ!? あいつら以外にもいたのか、くそっ、急ぐぞ!」
スピードを上げて走る、すると、すぐに開けた場所に出てくる。
中心には、デカイ魔物がいた。あれがドラゴンか!
「ド、ドラゴン?」
どう見てもドラゴンと言うより恐竜なんだけど……。ティラノサウルスみたいな感じだ。俺は、もっとこう、翼が生えていて、空を飛んだりする様なやつを、思い浮かべていたのだけれど……。
俺はひそかに楽しみにしていた、ドラゴン見る事が微妙に裏切られて、肩を落とす。
俺が一人、ひそかにショックを受けていると、ドラゴンの前にうずくまっている人が目に入ってくる。
ドラゴンは、躊躇いなくその人を踏みつぶそうとしていた。
「くそっ! ミルシア、援護頼むぞ!」
俺はミルシアに援護を頼み、走り出す。
「分ってます」
ミルシアの返事を聞きながら、ドラゴンの横っ腹に全力でタックルをかます。俺の全力に、ドラゴンはバランスを崩して、たたらを踏む。なんとか、うずくまっていた人は踏まれずに助かった。
俺はうずくまってる人の横にしゃがみ無事か確認する。
「おい! 大丈夫か?」
その人は女の子で猫耳が付いていた。なんか見覚えが……。
「ス、スン?」
どう見てもスンだった。
「ハヤト様!」
ミルシアの声が響く。俺は確認するよりも先に、スンを抱き上げその場から飛退く。
すると、俺がいた場所にドラゴンのしっぽがものすごい速さで振られる。間一髪だ。
俺は、とりあえずスンを壁際に寝かしてドラゴンに向かう。
俺は左右の剣を抜くと、すぐに魔力を込める。炎と水を纏う二本の剣。
ドラゴンはミルシアによる魔法の牽制に翻弄されている。俺はそんなドラゴンに突っ込んで行き、首にむけて両手の剣をそろえる。
「おらぁ!」
気合いを入れて、力任せにたたき付ける。派手に炎と水が迸る。
「グギャー!」
ドラゴンの頭があっさりと落ちる。
「ふへっ?」
思っていたよりも簡単に倒せてしまった。流石は魔剣なのか……。
「……さ、さすがはハヤト様ですね」
ミルシアは頬を引きつらせながら、俺を見ていた。俺はそんなミルシアに親指を立てる。そして、急いでスンの所に向かう。
「スン! 大丈夫か?」
「んっ、ん~」
俺が呼び掛けるとスンがゆっくりと目を開ける。スンは俺を認めると、驚いた様に目を見開く。
「お~い、大丈夫か?」
「ふぇっ! な、なんで、ハヤトさんが!?」
スンは状況を飲み込めずに混乱して、アワワワ、となっている。テンパっているスンはすごく可愛くて、このままずっと見ていたかったが、ミルシアの無言の威圧に負け、説明する。
「いや、たまたまこのダンジョンに来てたら、悲鳴が聞こえたから、駆け付けたんだ」
「そ、そうなんですか!? あれ? そういえば、さっきまでいたドラゴンは?」
「ああ、そいつなら俺逹が倒しておいた。そこに倒れているだろ」
「ふぇっ!? 本当なの!」
スンは驚いて、目を見開いている。
「それはそうと、スンはどうしたんだ? まさか一人で来たのか?」
そういえば昨日、町で見た時は他の人とも一緒にいたはずなんだが。
「え~っと……、他にもいたんだけど、どこに行ったんだろう? ハハハッ」
スンは、下手にごまかし、乾いた笑い声を上げる。
「もしかして、さっきの逃げてきた奴らか?」
何となく見覚えがあるとは思っていたら、そういう事か。
「そうかも。あたしはいつの間にか逸れてたから……」
スンは今にも泣きそうな表情だった。
もしかして、他の奴らに置いて行かれたのか? 逃げる為におとりにされたのか?
「そうか、スンはこれからどうするんだ?」
俺は色々聞きたい事があったが、敢えて言わずに、別の話題を投げかける。
「えっと、何もないけど?」
何んで急に? という顔をしているスンに、勢いよく言う。
「じゃあ、俺逹と一緒に行こうぜ!」
「えっ、良いんですか?」
スンが心配そうに言う。
「ええ、もちろんですよ」
ミルシアも頷いてくれ、俺のほうを見てくる。俺も頷く。
「そうだ、大丈夫だ。俺達は歓迎するよ。さあ、行こう!」
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2012 2/16 加筆修正