第12話 ミルシア
今回はほとんどミルシア目線です。
夜ご飯は本当にご馳走で、すごくおいしかった。周りでは冒険者達が祝いだ、と騒いでいた。だが、俺は犠牲になった人達のことを思うと、とても祝う気にはなれなかった。だから、早めに食堂を出た。当然の様にミルシアも着いてくる。
部屋に戻りベッドに座って、今日の事を考えていると、ミルシアが俺の前に座って話しがありますと言ってきた。
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私の家は貧乏だった。いや、それ自体はたいした事はなかった。
エルフなのにエルフの村で暮らさないで、人間の町で暮らしていたからだ。人間の町では、エルフだと言うだけで差別を受けた。
親がやっていた服屋も、エルフがやってる店だといって買ってくれる人は少なかった。それが、貧乏に拍車を掛けた。
私は二十になる前に奴隷商に売られた。とうとう家が限界になったのだ。
それまでは私が冒険者をしていたけれども、私がエルフだから、パーティーを組んでくれる人もいなかった。それに、魔法しか使えない私は、一人ではたいした依頼を受けられる訳もなかった。依頼を受けても、エルフだから断られる事もよくあった。だから大して家の足しにはならなかった。
そんな中、家は借金が増えていき、家には借金取りが毎日の様に来る様になった。
家は妹と弟の泣き声と父親の怒鳴り声が鳴り止まなくなった。私はそんな家が嫌になった。そして、両親に自分を奴隷商に売る様に言った。私は逃げてしまおうかとも、考えたが、妹と弟の事を考えるとそれは出来なかった。
周りから見ると、私の両親が私を売った様に見えるが、私が両親を見限ったのだ。この家にいるのが、嫌になったのだ。私を売ったお金で、借金を返せてもこの生活を続けていたら、すぐにまた、借金が出来るだろう。私はその事を分かっていながら、結局妹と弟を見捨てたのだ。
奴隷商では、腕輪を付けられて言うことを無理矢理聞かされた。
私は、いくら自分で奴隷になったと言っても、両親を恨んだ。毎日人間を恨んだ、私達エルフを差別した人間を。家族を恨んだ、無理に人間の町で暮らそうとした親を。何よりそんな運命を恨んだ。
私は、奴隷商の人間に反抗的だった。そのせいか、なかなか売られなかった。
でも、私は売られないならその方が良いと思った。どうせ買われても慰み者として男に玩ばれるだけだから。
でも、そんな願いも叶わない。
ある日、ある部屋に連れていかれた。
「こ、これは……」
私が入ると中には、黒目黒髪の少年が座っていた。多分私より、年下だろう。
私はこんな人間に買われるのか、と絶望した。それは、脂ぎった中年に買われるよりはいいが、嫌な事には変わりはない。
「いかがですか。なかなかでしょう。ちなみに処女ですよ」
「い、いくらなんですか?」
「ハヤト様には恩もありますし……二万セールでどうでしょう?」
「買います!!」
私が絶望していると、いつの間にか買われる事になっていた。
「あ、ありがとうごさいます。では契約をしますから立って頂けますか」
私は少年の前まで歩かされる。その少年が私の腕輪に手を当てると奴隷商人が呪文を唱える。
私の体中に虫がうごめく様な感覚がはしる。気持ち悪い。
「これで、ハヤト様が主人になります」
「奴隷を解放したい時は、腕輪に触りながら呪文を唱える事で、出来ます。また、奴隷には住む所と必要な食事を与える義務があります」
奴隷商が説明している。
「えっと、俺はハヤト。これからよろしく」
説明が終わると、少年が話し掛けてくる。
「…………」
私は当然無視する。
「え~と、君の名前は?」
私のご主人様は奴隷に慣れてないのか、命令かどうか分からない言葉で聞いてくる。だから私は無理矢理答えさせられる事はなかった。
「……それは命令ですか?」
「いや命令じゃないけど、教えて欲しいなと」
意味が分からない。言わないとずっと待ってそうだったから仕方なく答える。どうせ、命令されれば逆らえないのだから。
「私はミルシアです」
私が答えた事に満足したのか、歩き出した少年に付いて行く。
「ミルシアって、魔法を使えるんだよね?」
「はい、使えます」
私は事務的に答える。
「何か武器って要るの?」
「ナイフがあれば」
本当は杖があれば一番いいが、奴隷に杖は無理、と諦め、ナイフと言っておく。
「防具は何か着けるの?」
「必要ありません」
からかっているのだろうか、防具を着けている魔法使いが一体何処にいるのか。
「じゃあ、服は要るよね」
「要ります」
要らない訳がなかった。本当にからかわれているのだろうか?
質問には、全て最低限の言葉で答える。私が言った武器や服をそのまま買い与えられる。もしかしたらバカなんじゃないかと思った。杖も言っておけば買ってくれたかもしれない。残念だ。
ギルドにも登録させられ、一応戦わすつもりみたいだ。よかった、魔物を倒す事で気分転換ができる。
「あ~、もう寝るか?」
私は宿に連れて行かれて夜になり、ギルドの説明を終えたご主人様が、私に言ってくる。
そのまま、自分のベッドに入って寝ようとしている。
「何もしないの……?」
私は思わず聞いていた。
「えっ」
私は何を余計な事を言っているんだろう。わざわざ自分から言わなくてもよかったのに……。
「そりゃ、したいけど。ミルシアが嫌そうだったから」
意味が分からない。何を言っているんだこの人は。奴隷の意思を気にするなんて、命令すれば聞かなければならないのに。
「……なんで?」
私は混乱していた。
「えっ」
ご主人様は何か言っているが、私は逃げる様にベッドに入った。
少しすると、ご主人様の寝息が聞こえてきた。本当に何もしてこなかった。奴隷として売られる時から、自分の純潔を好きでもない奴に奪われる事を、覚悟していたのに。
私はご主人様が何を考えているのか分からない。でも、私は安心してしまった。いい人に買われたんだと思ってしまった。人間を嫌っていたのに、恨んでいたのに……。
私はちゃんとご主人様の奴隷らしくしようと思った。
ご主人様が、自分は異世界から来たと言われた。
私は意味が分からなかった。だけど、ご主人様のことを信じると決めていた。奴隷の私に一人の人間として接してくれた、そんなご主人様だから。
町に戻ると町が魔物に襲われていた。
私は、ご主人様が走って行くのに付いて行くだけで精一杯だった。
ニーナさんを助けて、騒ぎの中心に向かうと三メートルを遥かに超えるオーガがいた。私は、見た瞬間思考が固まった。
私はただ、ご主人様がオーガの前に出て行く時も見ている事しかできなかった。
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「私はその時、ご主人様が遠くに行ってしまうと思いました。私にはご主人様しかいません。そのご主人様に置いていかれて、捨てられるかもしれないと思うと……」
ミルシアは寂しそうに言う。俺はそんなミルシアを見て守ってやりたくなる。
「そんなことは無いよ。ミルシアは十分上手くやってくれているよ。戦闘以外でも助かってるよ。だからそんな事、心配しなくてもいいよ」
「ご主じ、……ハヤト様」
ミルシアがやっとハヤト様と呼んでくれた。俺は思わずミルシアを抱き寄せる。
「これからもよろしく頼むな、ミルシア」
「私こそ、よろしくお願いします。ハヤト様」
ミルシアはギュッと抱きついてくる。俺とミルシアはそのままベッドに倒れ込む。
俺とミルシアの長い夜が始まった。
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2012 2/11 加筆修正