第10話 危機
「何がおきているんだ……」
町から聞こえてくる悲鳴に呆然としてつぶやく。隣でミルシアも唖然としている。こうしていても、どうしようも無い。何が起きているのか調べなければ。ミルシアに声を掛ける。
「ミルシア、とりあえず町の中に入ろう!」
ミルシアを連れて町に入ると町には、魔物が沢山いるのが見えた。その魔物たちに人が襲われている。
何故、町に魔物がいるのか? 何でこんなに沢山いるのか? 様々な疑問が俺の頭をよぎる。だが、あまりに酷い光景にそんな疑問も吹き飛ぶ。俺は近くの魔物に向かう。
「ご主人様!」
ミルシアの声がする。
「ついて来い! あと出来るだけ魔物は倒せ!」
俺は2本の剣を抜きながら言う。近くにいたゴブリンを次々倒す。通りを中心に向けて走る。俺はとりあえずギルドに行こうと思った。後ろからちゃんとミルシアもついてくる。
魔物が多過ぎる、一体何が起きているんだ。魔物たちの中に突っ込み右の剣でゴリラみたいな魔物を切り、左では木みたいな魔物を切断する。
続けて、四、五匹倒す。だが、キリがない! まだ周りには魔物がいっぱいいる。それに、襲われている人達も。
後ろでは強力なつむじ風が起きていた。ミルシアか! 助かった。魔物たちがまとめて飛ばされる。
周りを見ると魔物の死体と一緒に人も沢山倒れている。そんな光景から無理矢理目を離し先を急ぐ。くそっ、なんで一般人が!
ギルドを目指しつつ何度か魔物を倒す。途中で冒険者と思われる人が何人か魔物と戦っているのを見て、少し安心する。
町の中心に近づくに連れ魔物が増えてくる。だが、同時にギルドのメンバーも増えている。ギルドが視界に入った時、俺の視界に知っている人が入ってきた。ニーナだ!
知り合いが無事なのに安心して近付こうとすると、突然ニーナに飛び掛かる魔物の姿が目に写る。くそっ! ここからじゃ走っても間に合わない!
俺は咄嗟に右手を振りかぶり、ニーナに飛び掛かっている魔物に向かって剣を投げる。剣は物凄い速さで飛んでいき、魔物の胴体を貫く。魔物はそのまま勢いで飛ばされる。
俺はニーナに駆け寄る。
「ニーナ! 大丈夫か!?」
俺が声をかけると、ニーナは呆然と顔を上げた。よかった無事みたいだ。ニーナは俺の顔を見ると、突然泣き出した。
「……ハヤトざん、んっ、こわかったでず」
そう言って抱き着いてきた。突然の事に焦るが、もう怖がらせない様に優しく抱きしめてやる。
「もう、大丈夫だ」
しばらくそうしていたが、このままでは危ないし、ミルシアの視線が痛くなってきたから、ニーナを立たせギルドに向かう。ギルドには結構な人が集まっていた。
誰かに話しを聞こうと思い中を見渡すとちょうどミリアさんが居た。ニーナを抱える様にしてミリアさんに近づく。
「ミリアさん! 何が起きているんですか!?」
「あぁ、ハヤトさん! 無事でしたか。私もよく分からないのですが、魔物が沢山町に侵入してきたみたいです」
シャドウウルフが近くに居たのもその影響なのだろう。森の魔物達が町に向かっているのか?
「今、ギルドの冒険者達はどれぐらいいるのですか?」
ミルシアが聞く。
「余り多くありません。依頼で町を出ている人が多いですから」
「それはまずいんじゃないか!?」
「いえ、今近くに居た王都の兵が来て魔物と戦っているので、町の魔物達はそのうち全滅させてくれるでしょう」
それならひとまず安心か。
「俺達も助太刀に行くか!」
ミルシアに声を掛ける。
「そうですね」
「ミリアさん、ニーナを頼みます」
ミリアさんにニーナを任してギルドから出る。
「ご主人様、これを」
そう言って、さっき俺が投げた剣を渡してくる。
「ああ、ありがとう」
外に出ると右手の方が騒がしかった。
「向こうに行くぞ!」
ミルシアに言って騒がしい方に走り出す。少し行くと魔物が多くなってくる。魔物と戦う白い鎧姿も何人かいた。あれが王都の兵だろう。
そこは、兵に任せて騒ぎの元へ急ぐ。騒ぎの中心に着くとそこには、優に3メートルは超えるでかい人型の魔物がいた。
顔は醜く歪んでいて、手にはどこかの木をそのまま抜いたんじゃないかというほど大きい木が持っていた。奴は全身から物凄い威圧感を放っている。
そして、その怪物の前には、赤いマントを纏った、綺麗な金髪の少女がいた。驚いた、俺と同じぐらいの年なのに、ひるむことなく一人でレイピアと魔法で奴を撹乱している。だが、たいしたダメージは与えられてないみたいだ。
周りには呻いている鎧の兵がいる、あいつらは魔物にやられたんだろうか。
ミルシアは魔物の威圧感に固まってしまっている。
その時、疲れが出たのか、動きが鈍った少女に魔物が振り回す木が迫る。俺は咄嗟に飛び出す。
「……あっ!」
ミルシアが何か言っているが気にしない。両方の剣を抜き、少女と怪物の間に割り込む。木が迫って来る、俺は剣をクロスにして防御する。
「くそっ! 強い!」
俺は耐え切れず少女と一緒に飛ばされる。
「ぐっ!」
「きゃっ!」
俺は空中で体を捻ってなんとか着地する。
「おい! 大丈夫か?」
俺は後ろで倒れている少女に無事か確認する。
「ううっ、……あんたは?」
呻いた後、俺の事を気にしている。とりあえず無事だったから質問は無視して魔物に向かう。
俺は剣を持ち直して魔物に向かって走る。魔物は向かってくる俺に気づき、持っている木を横から振る。
俺は跳んで避ける。そのまま足元に潜り込み脛に剣を叩きこむ、魔物は血を吹き出しよろめく。
もう1度切ろうとしたら背後から木が迫ってくる。
「チッ!」
舌打ちして横に避ける。余りダメージを与えられていない。強い皮膚を持っているのか?
また足を切ろうかと思ったが、時間が掛かり過ぎると考え、首を狙う事にする。多分首ならもっとダメージを与えられるだろう。
魔物の攻撃を避けながらタイミングを計る。魔物が木を横から振り回してくる、タイミング良く木の上に跳び、木を踏み台にしてより高く跳ぶ。
「おらぁぁぁー!」
首に向かって2本の剣を揃えて振る。だが、風圧で予想より跳び過ぎる。強い衝撃が来る。剣は顔にめり込んでいた。
「グギャアァァァァー!」
顔面は硬く、途中で剣が止まる。力を込めて振り抜こうとすると、剣が2本とも根元から折れる。
「えッ!?」
俺の口から驚きの声が漏れる。俺は成す術なく地面に向かって落ちていく。このままじゃマズイ。上からは、木が迫っていた。
「電撃」
俺が焦っていると、後ろから声が聞こえる。すぐ横に光が走った。光は魔物の顔に吸い込まれて、俺の剣が残っている傷口に命中する。
「ギャアァァァァー!」
魔物は叫び声を上げてゆっくり倒れる。俺は先に地面に下りて、巻き込まれない様に逃げる。
あの魔法は誰が?
分からないが、とりあえずミルシアの所に戻ろうとする。すると、目の前にさっきの金髪の少女が現れる。少女は俺を親の敵みたいに睨み付けてくる。俺、何かしたっけ?
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2012 2/08 加筆修正