第9話 異常
「ご主人様、起きて下さい」
俺はミルシアの声に起こされる。
「……ああ、おはよう」
昨日は悶々としてあんまり眠れなかったから眠い。だが、そうも言ってられない。俺達は、今日も朝食を食べてギルドに向かう。
ギルドに入るとまた嫉妬の視線が集まる。俺達は視線をスルーして掲示板に向かう。早くギルドランクを上げたいから、またDランクの依頼を受けたいな。
「今日もDランクの依頼を受けたいんだけど、ミルシアはどれがいいと思う?」
「そうですね、これなんかどうでしょう?」
そう言って指差す依頼書には、『シャドウウルフの群れの討伐』とあった。報酬は一匹につき十セールで、場所は昨日と同じ町の裏の森の奥みたいだ。
「シャドウウルフの群れって、どのくらいの数なの?」
俺はミルシアに聞いてみる。
「二、三十匹が普通かと思います」
「それなら結構儲かるな……って二人でするには数多くない!?」
二人で二、三十匹を相手にするのはきついだろう。
「ご主人様なら大丈夫です!」
「何にこやかに断言してくれてんの!? 俺に丸投げか!」
「……………」
「そうなの、やっぱりそうなの?」
「……」
「は~、ミルシアも手伝えよ」
まあ、Dランクだしそんなに危ない依頼はないのだろうから、大丈夫だろう。
俺は依頼書を持って、いつもの様にミリアさんの所に行く。なんとなく、ミリアさんが俺の担当みたいになっている。
「この依頼を頼みま~す!」
依頼書を見ると、ミリアさんは心配そうな顔で俺達の事を見てきた。
「お二人で大丈夫なんですか?」
やっぱりもっと大人数用じゃないのか!? でも、今更変えるのは格好悪い。
「いや~、多分大丈夫だと思います」
「大丈夫です。ご主人様ならこの程度一瞬です」
ミルシアがやけに、自信満々に言ってくれた。いやいや、ミリアさんも苦笑いじゃないか。
「……と、とりあえず大丈夫ですからお願いします」
「分かりました、シャドウウルフの証拠は牙です。では、気をつけて怪我のないよう行ってきて下さい」
ミルシアを連れてミリアさんから逃げる様にギルドから出た。恥ずかしっ!
森に向かいながらミルシアにシャドウウルフの説明を受ける。
「シャドウウルフは人間の腰ぐらいの体長で、小柄です。毛並みは黒くて、知能は意外と高く群を作り、連携して獲物を囲んで狩ります」
「連携するのか、それは厄介だな。なるべく囲まれない様にしないとな」
「ご主人様、私を守って下さいね?」
「自分で戦わないつもり!?」
「もちろん魔法を使って援護はします」
胸を張って言うミルシア。
「頼むよ! ミルシア! 群れだったら魔法の方が効果的なんだからな」
「……ご主人様の剣の腕なら問題ないと思いますが」
「いいから、援護は頼んだぞ!」
「分かっています」
森に着くと、奥に向かって入って行く。すると、いきなり前からゴブリンが出てきた。
「ミルシア!」
ミルシアに呼びかける。
「頼みます」
頼まれた。
一匹だったので右手で剣を抜きながら近づき、剣で切り付ける。ゴブリンは反応出来ずに血を出して倒れる。
「なあ、ゴブリンって集団行動するんじゃなかったっけ?」
基本的に弱い魔物は集団で行動する。
「そのはずなんですが、周りに他のゴブリンは居ないです。おかしいですね」
一匹だけはぐれたのかな? そんな事は分からないけど、どうでもいい。
「まあ、考えても仕方がないからさっさと行こうぜ!」
そう言って歩き出す。
「ミルシア~、シャドウウルフの居場所はまだなの?」
しばらく歩いていると暇になった。中々シャドウウルフが出ないのだ。
「まだです。さっきから何をキョロキョロしているんですか?」
「だって暇なんだよ!」
その時、前方から何かが走って来る音がした。複数だ!
「なんだ!?」
驚いていると前の茂みから黒い塊が飛び出してくる。
「まだじゃなかったのか!」
俺は後ろに避けながら叫ぶ。
「ミルシア! 援護頼む!」
「了解です」
ミルシアの冷静な声に安心する。目の前のシャドウウルフを剣を抜きざまに切る。前からは二十匹ぐらいが迫って来る。
「水砲!」
後ろでミルシアの声が聞こえた。水の塊がいくつか飛んでいき、何匹かのシャドウウルフに当たる。当たった奴らは吹き飛んでいく。意外と威力があるみたいだ。見た目はただの水球なのに。
俺も走りだす。目にも止まらない速さで進む。近くにいたシャドウウルフに右手の剣を振り下ろす、そのまま回転して左手の剣で周りを薙ぐ。
「おらっ!」
二、三匹が血を出して崩れ落ちる。
「風の斬撃!」
ミルシアが言うと空気を切り裂く様な風を感じる。また数匹が血を出して倒れる。残った六匹が俺を囲む。
俺はまずいと思い、目の前にいる奴に向かう。他の奴らが俺に向かって来るが無視する。前の奴に近づいて顔面に剣を走らせる。
返す力で後ろから飛び掛かってくるのを叩き落とす。残りの四匹も流れる様に切る。
「流石です、ご主人様」
シャドウウルフを全て倒すとミルシアが言ってきた。
「ミルシアの援護も助かったよ!」
「このくらい当然です」
少し嬉しそうに言う。俺は調べたい事があったからミルシアに証拠を集めてきて貰う。
ミルシアが離れると、俺は「ステータス」と念じる。もう敵を結構倒しているからレベルが上がっているんじゃないかと思ったんだ。
シバタ ハヤト
Lv.5
人間
自由民
17歳
平民
体力 100
筋力 999
知力 001
耐力 100
俊敏 999
器用 800
振り分けポイント 60
スキル
片手剣 100
双剣 100
ナイフ 10
隠密 100
ステータス確認
魔法
装備
黒い外套
ミスリルの剣
ミスリルの剣
皮の靴
レベルが5になっていた。振り分けポイントの60はステータスに振り分けられるんだろう。う~ん、何に振り分けようかな。やっぱり、死にたくないから体力とか耐力に振り分けよう。
どうやって振り分けるんだ? 30ずつ体力と耐力に振り分けるように念じる。すると、出来た! 体力と耐力は今まで全然上げてなかったからこれから上げよう。俺がステータスを見ていると、ミルシアが戻ってきた。
「ご主人様どうかしましたか?」
「いや、何もない、そういえばシャドウウルフってこんな近くに出るの?」
「いえ、もっと奥に居るはずなんですが、何故こんな所に出たのでしょう、分かりません」
「分からないか。まあ、考えても仕方がないから帰ろう!」
何だか嫌な予感がする。俺達は町に向かって歩き出す。
以外と近くでシャドウウルフに会ったから、予想より早く森を出られた。
町の方を見ると、煙が上がっていた。中からは叫び声がいくつも聞こえてきた。
「何がおきているんだ……」
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2012 2/08 加筆修正