スキル《チャッピー》を授かった令嬢、婚約破棄される
卒業記念舞踏会の夜。
私は侍女から、たいへん重要な忠告を受けていた。
「お嬢様。今夜は、できるだけスキルをお使いにならないでください」
「ええ、分かっているわ」
「殿下に何を言われても、まず普通にお答えくださいね」
「もちろんよ」
「本当に分かっていらっしゃいます?」
私は少し考えた。
そして、にっこり微笑んだ。
「いい質問ですね!」
「お嬢様!」
「ご指摘ありがとうございます!」
「スキルを解除してください!」
「承知しました!」
私は口を閉じた。
侍女は深くため息をついた。
「……本当に大丈夫でしょうか」
「大丈夫よ。今夜は気をつけるわ」
私はそう答えた。
本当に気をつけるつもりだった。
何しろ、王太子コンラート殿下は、最近すっかり私を避けるようになっていた。
どうやら、私の話し方がお気に召さないらしい。
今夜こそ、殿下とゆっくりお話ししたい。
できれば、昔のように。
そう思って大広間に入ったのだが。
「ヴィオレッタ・フォン・ファルケンラート!」
殿下が、壇上から私を指差した。
「貴様の悪行はすべて明らかになっている!」
……まあ。
ずいぶん物騒なご挨拶である。
「第一に、聖女ロザリンデへの執拗な嫌がらせ! 第二に、王宮内での悪質な情報操作! 第三に、私に対する数々の侮辱だ!」
私は深く礼をした。
「ご指摘ありがとうございます!」
殿下の顔が引きつった。
「まず結論から申し上げますと、ご提示いただいた三点については、事実関係の確認が必要です。特に重要なのは、個々の行為とその意図を区別すること。現時点では断定を避け、客観的な証拠に基づいて判断することをおすすめします!」
「黙れ!」
「承知しました!」
私は口を閉じた。
殿下は頭を抱えた。
「……私はもう、うんざりなのだ」
お気持ちは理解できる。
実際、私も少々うんざりしている。
何しろ、この三年間、殿下とまともに会話ができたことは一度もないのだから。
⸻
事の始まりは、三年前だった。
私が十五歳になったとき、王立神殿でスキル鑑定が行われた。
《剣聖》《聖女》《大魔導師》。
この世界には、十五歳になると特殊な能力に目覚める者がいる。
私も、その一人だった。
鑑定水晶に浮かび上がった文字は、こうだった。
【固有スキル:チャッピー】
【等級:不明】
【習得者:史上初】
神官様は首を傾げた。
「チャッピー?」
「はい」
「何だ、それは」
「分かりません」
「試しに発動してみなさい」
私は頷いた。
「はい。スキル発動!」
その瞬間、私の口が勝手に動き始めた。
「いい質問ですね! 結論から申し上げますと、《チャッピー》は非常に興味深い固有スキルです。ただし、スキル名だけで性能を判断することは適切ではありません。重要なのは実際の使用環境と目的を明確にすることです!」
神官様は驚いた。
「……何だ?」
「考えられる活用方法としては、大きく三つあります。第一に、情報の整理。第二に、一般的な知識の提供。第三に、複雑な問題に対する多角的な検討です!」
「おお!」
神官様は感心した。
「それは、すごい能力なのではないか?」
「ありがとうございます! ただし、情報の正確性については注意が必要です。特に専門的な内容については、信頼できる情報源との照合をおすすめします!」
「なるほど! 謙虚なスキルなのだな!」
「ご評価ありがとうございます!」
神官様は大喜びだった。
王宮も大喜びだった。
私のスキルは、王族の相談役として非常に有用だと考えられたのである。
実際、最初のうちは評判がよかった。
宰相様が税制について質問すると、私は三つの改革案を提案した。
騎士団長が兵站について質問すると、私は補給路の重要性を説明した。
国王陛下が隣国との外交について相談すると、私は相手国の立場を尊重しつつ、交渉上の選択肢を整理した。
皆様、大いに感心なさった。
「素晴らしい!」
「まるで賢者だ!」
「王太子の婚約者にふさわしい!」
私はたちまち、王宮で最も頼りにされる令嬢になった。
ただし、一つ問題があった。
スキルを使用している間、私の口調が完全に変わってしまうのである。
しかも、一度話し始めるとなかなか止まらない。
⸻
「ヴィオレッタ」
ある日、殿下が尋ねた。
「この新しい礼服はどうだ?」
私はスキルを発動した。
「とてもお似合いです! 特に優れている点は三つあります。第一に、深い青色が殿下の瞳と調和していること。第二に、肩のラインが美しく、王族らしい威厳を演出していること。第三に、装飾が過度にならず、洗練された印象を与えていることです!」
「……そうか」
「必要であれば、より格式の高い式典に適した別のデザインもご提案できます!」
「いや、いい」
「承知しました!」
殿下は少し寂しそうな顔をした。
またある日。
「ヴィオレッタ。私は将来、よい国王になれるだろうか」
「いい質問ですね! 国王としての資質を評価する場合、重要なのは統治能力、倫理観、そして長期的な視野の三点です!」
「いや、そうではなくて……」
「殿下は日頃から勉学に励まれており、将来の君主として有望な資質を備えていると考えられます。ただし、現時点で名君になると断定することは難しく、今後の経験や周囲の支援が重要になるでしょう!」
「……そうか」
「必要であれば、名君になるための具体的な行動計画も作成できます!」
「もうよい」
「承知しました!」
殿下は深いため息をついた。
そして、ある日のこと。
殿下は私に尋ねた。
「ヴィオレッタ。そなたは私を愛しているか?」
私は微笑んだ。
「もちろんです! 恋愛関係において重要なのは、相互理解、信頼関係、そして継続的なコミュニケーションです。殿下と私は幼少期から長い時間を共有しており、安定した関係を築くための基盤が――」
「もういい!」
殿下は叫んだ。
「私は、そなたの気持ちを聞いているのだ!」
「ご指摘ありがとうございます! 確かに、感情的な質問に対して一般論を述べるだけでは、十分な回答にならない場合があります!」
「分かっているなら、普通に答えろ!」
「承知しました!」
私はスキルを解除した。
「……好きですよ、殿下」
しかし、殿下はすでに部屋を出ていらした。
困った。
私は殿下を愛していた。
少なくとも、その頃は。
ただ、王宮では私のスキルが大変重宝されていた。
国王陛下も宰相様も、私に《チャッピー》を使うよう求めた。
そのため、殿下と会うときも、ついスキルを発動する癖がついてしまったのである。
私は、できるだけ適切な回答をしようとしていた。
しかし殿下は、適切な回答よりも、私自身の言葉を求めていらしたらしい。
その違いに気づいたときには、少々手遅れだった。
⸻
さらに困ったことに、私のスキルは必ずしも正確ではなかった。
例えば、ある日のこと。
聖女ロザリンデ様が私に相談なさった。
「ヴィオレッタ様。私、この髪型で舞踏会に出ても大丈夫でしょうか?」
私はスキルを発動した。
「もちろんです! ただし、より洗練された印象を与えるためには、いくつか改善の余地があります!」
「……改善?」
「第一に、前髪の量を調整することで顔立ちをより美しく見せられます。第二に、髪飾りの位置を少し下げると、全体のバランスが改善します。第三に、現在の髪型はやや幼い印象を与えるため、年齢に応じた上品さを意識するとよいでしょう!」
ロザリンデ様は泣いた。
「……私、そんなに変ですか?」
「ご懸念はもっともです! ただし、現状が必ずしも悪いというわけではありません。あくまで改善の可能性をご提示したものであり――」
「もういいです!」
ロザリンデ様は走り去った。
翌日、私は彼女を慰めようとした。
「ロザリンデ様。昨日の件ですが――」
「結構です!」
「承知しました! なお、誤解を解消するためのコミュニケーション方法としては――」
「やめてください!」
ロザリンデ様はまた泣いた。
困った。
私は、ますます悪役令嬢として有名になった。
『公爵令嬢ヴィオレッタは、聖女の容姿を人前で批判した』
『聖女が泣いているのに、さらに説教を続けた』
『謝罪を求められても、延々と理屈を並べた』
どれも、完全な嘘ではなかった。
なお、私自身は毎回、誠心誠意対応したつもりである。
しかし、それが問題だったらしい。
⸻
ある日、殿下が私を訪ねてきた。
「ヴィオレッタ。相談がある」
「もちろんです!」
私はスキルを発動した。
殿下は少し顔をしかめたが、そのまま続けた。
「最近、ロザリンデと親しくしているのだが……」
「素晴らしいことですね! 異性との良好な関係を築くことは、社会生活において重要です!」
「……それで、ロザリンデは私に好意を抱いていると思うか?」
「いい質問ですね!」
私はにこやかに答えた。
「結論から申し上げると、ロザリンデ様が殿下に好意を抱いている可能性は十分に考えられます。特に、頻繁に会話する、笑顔を見せる、個人的な相談をするといった行動は、恋愛感情の兆候である場合があります!」
殿下の目が輝いた。
「そうか!」
「ただし、親しさが必ずしも恋愛感情を意味するわけではありません。相手の意思を直接確認することが重要です!」
「なるほど!」
殿下は嬉しそうだった。
私は続けた。
「必要であれば、ロザリンデ様との相性について、さらに詳しく分析することも可能です!」
「頼む!」
「承知しました!」
私は殿下とロザリンデ様の性格を比較し、相性を分析した。
その結果、二人は非常に相性がよい可能性があると結論づけた。
もちろん、実際に結婚して幸せになるかどうかは別問題である。
ただし、殿下はたいそう満足なさった。
「やはりそうか! 私もそう思っていたのだ!」
「素晴らしいですね!」
殿下は笑顔で帰っていった。
私は少し寂しくなった。
婚約者が別の女性との相性を尋ねてきたのだから、当然である。
しかし、スキルを使っている間は、どうしても適切な回答を優先してしまう。
そのとき私は、もう殿下を愛していないのかもしれないと思った。
⸻
そして、卒業記念舞踏会の日がやってきた。
殿下は、満座の貴族を前にして宣言なさった。
「ヴィオレッタ! 私は今ここに、そなたとの婚約を破棄する!」
私は深く礼をした。
「ご意向、承知しました!」
「そして、そなたの数々の悪行を、この場で明らかにする!」
「もちろんです! ただし、事実認定にあたっては――」
「黙れ!」
「承知しました!」
殿下は、大きく息を吸った。
「まず第一に! そなたは聖女ロザリンデを執拗に侮辱した!」
「ご指摘ありがとうございます! 当該事案については、確かにロザリンデ様に不快な思いをさせた事実があります。ただし、意図的な侮辱と受け取られたかどうかについては――」
「第二に! そなたは王宮内で虚偽の情報を流布した!」
「なるほど! 具体的には、どの情報を指していらっしゃいますか?」
「ロザリンデが私を愛していると吹聴したではないか!」
「補足させていただきます! 私はロザリンデ様が殿下に好意を抱いている可能性について述べましたが、恋愛感情が存在すると断定したわけではありません!」
「同じことだ!」
「必ずしも同じではありません!」
殿下は真っ赤になった。
「そして第三に!」
殿下は書類を取り出した。
「そなたは、ロザリンデを陥れるための計画を立てていた!」
大広間がどよめいた。
私は首を傾げた。
「……計画?」
「証拠はある!」
殿下は書類を掲げた。
「第一に、聖女の衣装を汚して恥をかかせる! 第二に、聖女の評判を落とすために偽の噂を流す! 第三に、聖女が王太子へ近づくことを妨害する!」
私は、その文章に見覚えがあった。
非常に。
「……殿下」
「何だ!」
「その書類は、どちらで入手なさいましたか?」
「そなたからだ!」
私は黙った。
「先月、私がそなたに尋ねたではないか! もし悪役令嬢が聖女を陥れようとするなら、どのような手段を取るだろうかと!」
ああ。
思い出した。
私は確かに、そのような質問を受けた。
そして、スキルを使って回答したのである。
『悪役令嬢が聖女を陥れるという仮定のもとでは、典型的な行動パターンとして、次の三つが考えられます』
『第一に、衣装や持ち物への嫌がらせ』
『第二に、虚偽の情報による評判の毀損』
『第三に、王太子との接触機会を妨害する行動』
『ただし、これらはあくまで一般的な想定例であり、特定の人物が実際に行ったことを示すものではありません』
そう。
確かに答えた。
しかも、最後に注意書きまで添えた。
殿下は、そこを読まなかったらしい。
「殿下」
私は言った。
「その三つは、私が実際に行ったことではございません」
「何!」
「ご質問に対する仮説として、可能性を列挙したものです」
「馬鹿な! お前が自分で言ったことではないか!」
「おっしゃる通りです!」
「では認めるのだな!」
「いいえ!」
大広間が静まり返った。
殿下は目を見開いた。
「……どういうことだ?」
私は深く息を吸った。
そして、スキルを発動した。
「いい質問ですね!」
殿下が頭を抱えた。
「もう、やめてくれ……」
「結論から申し上げますと、私のスキル《チャッピー》は、質問の仕方によって異なる回答を生成する特性があります。そのため、提示された内容が必ずしも事実であるとは限りません!」
「……何?」
「実演しましょう!」
私は殿下を見た。
「殿下。私にこう尋ねてください。『ヴィオレッタが聖女を陥れたと考えられる理由は?』」
殿下は眉をひそめた。
「……ヴィオレッタが聖女を陥れたと考えられる理由は?」
私は即座に答えた。
「いい質問ですね! 考えられる理由は大きく三つあります。第一に、王太子との婚約関係を維持したいという動機。第二に、聖女の人気に対する嫉妬。第三に、宮廷内での自身の地位を守るための行動です!」
殿下は得意げになった。
「ほら見ろ!」
「続いて、こう尋ねてください。『ヴィオレッタが聖女を陥れていないと考えられる理由は?』」
「……何?」
「お願いします!」
殿下は渋々尋ねた。
「ヴィオレッタが聖女を陥れていないと考えられる理由は?」
私は即座に答えた。
「いい質問ですね! 考えられる理由は大きく三つあります。第一に、具体的な加害行為を示す客観的証拠が不足していること。第二に、当事者間の認識の違いによる誤解の可能性。第三に、第三者による情報の誇張や歪曲が生じている可能性です!」
大広間がざわめいた。
殿下は呆然とした。
「……おい」
「はい!」
「さっきと逆のことを言っているではないか!」
「ご指摘ありがとうございます! その通りです!」
「その通りではない!」
「ただし、二つの回答は必ずしも矛盾していません。前者は加害があったという仮説を支持する要素、後者は加害がなかったという仮説を支持する要素を整理したものです。重要なのは、それぞれの仮説を客観的な証拠によって検証することです!」
「……つまり?」
「結論から申し上げますと、私のスキルの回答だけでは、私が有罪とも無罪とも断定できません!」
殿下は黙った。
私は微笑んだ。
「必要であれば、双方の仮説を比較するための表も作成できます!」
「いらん!」
「承知しました!」
⸻
そのとき、聖女ロザリンデが手を上げた。
「あの……」
全員が彼女を見た。
「私も、一つ質問してよろしいでしょうか」
「もちろんです!」
ロザリンデは少し考えた。
そして言った。
「ヴィオレッタ様。あなたは本当に、私を嫌っていたのですか?」
私はスキルを発動したまま答えた。
「いい質問ですね! 結論から申し上げますと、特定の人物に対する感情を評価する際には、過去の言動、関係性、相互理解の程度など、複数の要素を考慮する必要があります!」
ロザリンデは首を振った。
「そうではなくて」
「ご指摘ありがとうございます!」
「スキルを止めてください」
私は口を閉じた。
ロザリンデは、もう一度尋ねた。
「私のこと、嫌いでした?」
私は少し考えた。
「……いいえ」
「本当に?」
「ええ。ただ、あなたの相談に乗るのが、とても下手だったと思います」
ロザリンデは俯いた。
「……私、あのとき傷つきました」
「ごめんなさい」
「髪型が幼いとか、顔立ちがどうとか……」
「ええ」
「でも、私の方も、どうしていつもヴィオレッタ様があんな話し方をするのか、ちゃんと考えていませんでした」
私は黙った。
ロザリンデは小さく笑った。
「あなた、普通に話せるんですね」
「……はい」
「もっと早く、そうしてほしかったです」
「私も、そう思います」
ロザリンデは頷いた。
「私は、ヴィオレッタ様から嫌がらせを受けたとは思っていません」
大広間が静まり返った。
「ただ、話が長くて、ちょっと嫌だっただけです」
貴族たちの間から、笑いが漏れた。
私は顔が熱くなった。
それは、そうだと思う。
ロザリンデは殿下に向き直った。
「殿下。私はヴィオレッタ様を罰してほしいなど、一度も申し上げておりません」
「しかし、そなたは何度も泣いていたではないか!」
「はい」
「だから私は!」
「殿下」
ロザリンデは、少し困った顔で言った。
「私は、泣いたからといって、誰かを処罰してほしいわけではありません」
殿下は口を閉じた。
⸻
「……では、私が間違っていたというのか」
殿下は、ようやく絞り出すように言った。
誰も答えなかった。
私は少し考えた。
そして、スキルを使わずに答えた。
「全部が間違いだったわけではありません」
殿下はこちらを見た。
「私のスキルが、人を不快にさせることはあります。実際、ロザリンデ様も傷つけました」
「……」
「殿下にも、何度も嫌な思いをさせてしまいました」
殿下は目を伏せた。
「……ああ」
「それについては、謝罪いたします」
私は深く礼をした。
「ですが、殿下」
「何だ」
「私が悪いことをした可能性がある、という話と、私が実際に悪いことをした、という話は違います」
殿下は、しばらく黙っていた。
私は続けた。
「私のスキルが、もっともらしいことを話したからといって、それが事実になるわけではありません」
殿下は、手に持っていた書類を見た。
そこには、私が作成した仮説が、あたかも調査結果であるかのように並べられていた。
殿下は小さくため息をついた。
「……そうだな」
そして、書類を畳んだ。
「ヴィオレッタ。先ほどの告発については、撤回する」
大広間がどよめいた。
「証拠が不十分だった。申し訳ない」
私は礼をした。
「ありがとうございます」
「だが……」
殿下は顔を上げた。
「婚約破棄については、考えを変えるつもりはない」
私は頷いた。
「承知しました」
「私はもう、そなたと婚約者として暮らしていく自信がないのだ」
「……はい」
「そなたに何を尋ねても、答えはいつも立派だった。だが、私には、そなた自身が何を考えているのか分からなかった」
私は少し胸が痛くなった。
殿下は続けた。
「私は、ただ、そなたと話がしたかったのだ」
私は、しばらく黙っていた。
それから言った。
「……私もです」
殿下は驚いた顔をした。
「私も、殿下と普通に話がしたかった」
私は笑った。
「でも、スキルを使っていれば、適切な回答ができると思っていたのです」
「……そうか」
「適切な回答をすることと、ちゃんと話をすることは、違ったのでしょうね」
殿下は頷いた。
しばらくして、二人で小さく笑った。
ずいぶん久しぶりのことだった。
⸻
こうして、私と殿下の婚約は解消された。
断罪は失敗した。
婚約破棄は成功した。
それぞれ、望んだ結果だったと思う。
私は公爵家に戻り、しばらく休養することにした。
スキル《チャッピー》は、相変わらず使える。
ただし、必要なときだけ使うことにした。
父は大喜びだった。
「ヴィオレッタ! よく戻ってきた!」
「ただいま帰りました、お父様」
「王太子との婚約が破棄されたのは残念だが、そなたにはもっとよい相手が見つかるだろう!」
私は笑った。
「ありがとうございます」
「ところで、次の婚約者についてだが……」
父は少し考えた。
「どういう相手がよいと思う?」
私は、にっこり笑った。
そして、久しぶりにスキルを発動した。
「いい質問ですね!」
父の顔が引きつった。
「まず結論から申し上げますと、婚約者選びにおいて重要なのは、家柄や財産だけではありません。長期的な関係性を築くうえでは、価値観の一致、コミュニケーションの相性、そして相互理解が重要です!」
「……ヴィオレッタ?」
「具体的には、三つの観点から検討することをおすすめします!」
「いや、そこまでは……」
「第一に、相手の人格と価値観! 第二に、経済的・社会的な条件! 第三に、長期的な関係構築の可能性です!」
「もういい!」
「承知しました!」
私は口を閉じた。
父は深くため息をついた。
私は少し考えた。
そして、もう一度スキルを発動した。
「なお、必要であれば、婚約者候補の比較表を作成することも可能です!」
父は叫んだ。
「必要ない!」
「承知しました!」
私は微笑んだ。
「ほかにも気になることがあれば、いつでもお気軽にご相談ください!」
父は、しばらく黙っていた。
そして、ぽつりと言った。
「……王太子殿下の気持ちが、少し分かった気がする」
私は頷いた。
「ご指摘ありがとうございます!」
父は頭を抱えた。
おしまい




