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1 来訪者

人間の寿命は予め決まっている。

寿命が途切れる頃、天界からの使い―つまり、天使―が“魂”を迎えに行く。

“魂”の行き先は、生前の行いを元に予め決まっている。

天使の仕事は、“魂”達を天国又は地獄の入口まで案内すること。

そして、行き先を断定し切れなった“魂”達を、天界の裁判所へ連れて行き、行き先を決めること。



そう、全ては決められたことを決められた通りにこなせば良かったのだ。



“あの女性(ひと)”が来るまでは。




※ ※ ※ ※ ※




ここは天界裁判所、の上階にある一室。

ここの裁判長を務めるアランは、ゆったりとしたソファに腰掛け、机上に広げられた資料を一枚一枚丁寧に確認していた。

裁判の対象となる“魂”はそうそう頻繁には現れない。大体が、生前に悪事も善事も行ってしまった者である。アランの手元にある資料は、これからその裁判の対象となる“魂”達の詳細が書かれていた。次の裁判は6時間後。それまでは暇を持て余すことになるので、資料の整理にゆっくり時間をかけることで時間を潰していた。

他の裁判員達は、普段は『案内』の仕事をしているが、裁判長となってしまうとそうもいかない。幸いアランが裁判長になってから出くわしてはいないが、緊急事態のため、裁判長は常時滞在を義務付けられていた。

いい加減この大量に与えられた時間にも飽き、アランが軽くため息をついた直後、部屋のドアが大きな音を立てて開いた。



「裁判長っ!!」



ドアを開けた張本人は、ノックするのを忘れたという失態にも気付かないくらい動転していた。



「どうした、ルイ。変なモノでも現れたか?」



あまりにその少年―ルイの慌てぶりに、アランも彼の失態を叱責するよりも先に、落ち着かせることを優先した。ソファを立ってルイに近づくと、彼はがっしりアランの腕を掴んだ。



「それが現れたんです。至急天界門へ。」



今度はアランが慌てる番だった。ルイはアランの腕をしっかり掴むと、脱兎の如く走り出した。





※ ※ ※ ※ ※




「あのさ、羽根使えよ。」

「すみ…ません、…裁判長。慌ててたもので…」



アランを連れてきた張本人、ルイは全く謝る気のない棒読みの返事を返してきた。全力疾走したお陰で、まだ肩で息をしていた(アランはこっそり羽根で浮いた状態になって引っ張ってもらっていた)



「こちらです。」



ルイは目の前の大きな門―天界門を勢いよく開いた。


天界門は、名の通り天界への門。天界の唯一の出入口である。ある意味天国と地獄の中立的な存在である天界は、どちらからも干渉を受けぬようにするため、天界に関わる者の仲介がなければ門に辿り着くどころか見ることすら出来ない。つまり、天使に連れてこられなければ、“魂”は天界門を認識することは不可能である。



そのはずだった。




門の向こう側にいたのは、女性だった。


胸下まで伸びた真っ黒な髪と、真っ黒な瞳。肌の色や目鼻立ちからして東洋の人間であることは間違いはなかった。ただ、天使特有の白装束は着ておらず、オレンジのTシャツに黒のジャージという、いかにも寝間着という姿。

“魂”は、基本的に死ぬ直前の姿で連れられてくるのだ。もちろん天使によって。



「ルイ、お前が連れてきたわけではないよな?」

「裁判長呼びに行くまで俺は12時間前からここから一歩も動いてません。」

「そりゃ門番だもんな。」

「そうですよ。」



案内の仕事から戻ってきたルイに、12時間前に門番の仕事を言いつけた張本人はアランである。

目の前にいる女性を連れてきたと思われる天使は、2人が確認する限り、どこにも見当たらなかった。



「担当が放置した可能性は?」

「いえ、あの女性が1人で突然現れました。」



天使によって天界に連れてこられるはずの“魂”。

その“魂”が連れの天使がいない状態で、門の前をうろついてるのは、確かに緊急事態だった。



「迷子って訳ではないんだよな?」

「迷子なだけだったら門開いた音に反応してませんから。」



そう、天使の仲介がなければ認識できないはずの天界門の開く音に、その女性は反応していた。門が開いた瞬間から、彼女は2人を興味深げに見つめていた。



「ねぇ、あたしいつまでここにいればいいの?」



いつまでもこそこそと話している2人に痺れを切らしたのか、彼女は笑顔で話しかけてきた。

その笑顔に少しだけ、寂しさが混じっていたのを、アランは見逃さなかった。

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