第十九章「再会」
10年後。
雨だった。
静かな雨。
街の音を、すべて溶かしてしまうような。
「……」
傘を差しながら、歩く。
変わった街。
変わらない空気。
「……久しぶりだな」
誰に向けたわけでもない言葉が、こぼれる。
ここに来るのは、いつぶりだろう。
覚えているはずなのに。
“少し曖昧だ”。
交差点。
信号待ち。
ふと、隣に人が立った。
視線を向ける。
――その瞬間。
心臓が、止まりかけた。
「……え……」
声が、出る。
そこにいたのは。
「……陽菜?」
彼女だった。
少しだけ、大人びた顔。
でも。
間違いない。
「……え……?」
彼女も、固まる。
数秒。
時間が止まる。
「……湊……?」
その名前。
呼ばれた瞬間。
胸の奥が、強く揺れた。
「……なんで……ここに……」
「……いや……それは……」
お互い、言葉が出ない。
雨の音だけが、続く。
「……久しぶり」
彼女が、小さく笑う。
少しだけ、ぎこちない。
「……ああ」
頷く。
“何年ぶりだよ”
そう言おうとして。
言葉が止まる。
「……10年、か」
彼女が、先に言った。
「……覚えてるんだな」
思わず、口に出る。
「……全部じゃないけどね」
彼女が、少しだけ空を見上げる。
「……でも」
視線が、戻る。
「……なんか、分かる」
その言葉。
理由はない。
でも。
“同じものを感じている”。
「……俺もだ」
小さく、笑う。
沈黙。
でも。
今度は、気まずくない。
「……ちょっと、話す?」
彼女が、言う。
「……ああ」
即答だった。
二人で、歩き出す。
雨の中を。
並んで。
その距離は。
少しだけ遠くて。
でも。
確実に、“繋がっていた”。
その時。
ふと、足元を見る。
影。
――ズレていない。
「……」
少しだけ、息を吐く。
もう。
終わったはずだった。
でも。
一瞬だけ。
ほんの一瞬だけ。
二人の影が、重なった瞬間。
“別の影”が、混じった気がした。
「……っ……」
顔を上げる。
何もない。
雨だけが、降っている。
「……どうしたの?」
陽菜が、振り返る。
「……いや」
首を振る。
「……なんでもない」
そう答えながら。
心のどこかで、分かっていた。
これは、“偶然じゃない”。
“また、繋がった”。
そして――
物語は、もう一度動き出す。




