第十六章「それでも君を取り戻す」
世界が、軋んでいた。
空は割れ、地面は歪み、現実と“記録”が混ざり合っている。
無数の声が響く。
過去の失敗。
未来の確定。
観測されたすべての結末。
「――終了を確認」
上位観測の声。
冷たく、絶対的な宣告。
「対象個体“彼女”は、消失する」
その言葉と同時に。
彼女の体が、透け始める。
「……っ……」
彼女が、自分の手を見る。
消えかけている指先。
「……やっぱり……」
小さく、笑う。
「……こうなるんだね」
その声に。
震えが混じる。
「……ごめんね」
一歩、近づく。
「……もう、いいよ」
「よくない」
即答だった。
彼女の手を、強く掴む。
「勝手に決めんな」
空間が、歪む。
観測の“圧”が強まる。
「確定事項だ」
上位の声。
「例外は、修正される」
「だったら」
息を吐く。
「“例外のまま”終わらせる」
その瞬間。
“干渉”が、限界を超えた。
世界の構造が、見える。
記録。
未来。
確定された分岐。
全部。
「……これが……」
手を伸ばす。
世界の“根”に。
「……お前らのルールか」
触れる。
激痛。
意識が、飛びそうになる。
「……っ……!!」
無数の失敗が、流れ込む。
それでも。
離さない。
「……関係ねぇ」
歯を食いしばる。
「何回失敗してても――」
彼女を見る。
今、ここにいる。
この瞬間の彼女。
「……今回が、初めてだ」
その言葉で。
“記録”が、揺らいだ。
「……矛盾……発生……」
上位観測の声に、初めてノイズが走る。
「確定値が……一致しない……」
「だったら」
笑う。
「書き換えろよ」
拳を握る。
「“今”でな」
その瞬間。
記録に、亀裂が入った。
バキッ、と。
未来が、崩れる。
彼女の体が、止まる。
消えない。
崩れない。
「……え……?」
彼女が、息を呑む。
「……なんで……」
「決まってるだろ」
手を、引き寄せる。
抱きしめる。
「取り戻すって言っただろ」
その言葉。




