第一章 手紙から始まった違和感 ― 彼女は“見える人”だった
これは、俺が実際に体験した話だ。
――と言っても、信じてもらえるとは思っていない。
見えないものが見える彼女。
先祖の因縁に縛られた恋。
そして、人間じゃない“何か”に奪われていく存在。
どれも、普通に生きていれば関わることのない話だ。
俺も、そう思っていた。
あの日までは。
ただの気まぐれで載せた、出会い雑誌の小さな募集。
そこから始まった、ひとつの出会い。
それが――
こんな結末に繋がるなんて、想像もしていなかった。
もし、この話を読んでくれるなら。
どうか、最後まで見届けてほしい。
これは、運命に抗った――
ひとつの恋の話だ。
第一章「手紙から始まった違和感」
俺たちの出会いは、出会い雑誌だった。
今の時代なら笑われるような話だが、当時はそれなりに利用している人もいた。
出会い系とは違う。
求人情報の最後に、ひっそりと載っている「出会い募集」の欄。
名前も顔も知らない相手と、雑誌を通して手紙をやり取りする。
そんな、どこか時代遅れで、妙に人間くさい仕組みだった。
正直、軽い気持ちだった。
暇つぶし。
それ以上でも、それ以下でもない。
だから――期待なんて、していなかった。
けれど。
ある日、一通の手紙が届いた。
「一度お会いして、お話しませんか」
たったそれだけの文章だった。
飾り気もなく、無駄もない。
それなのに、不思議と目が離せなかった。
――会ってみるか。
そう思ったのは、気まぐれだったのかもしれない。
あるいは、最初から何かに引き寄せられていたのか。
待ち合わせ場所は、東区のファミリーレストランの駐車場。
昼でも夜でもない、少し中途半端な時間だった。
当日、俺はいつも通りの車で向かった。
自分で手を入れた、少し派手なスポーツカー。
エンジンを止めたあとも、妙に静かに感じた。
――来るのか、本当に。
そんなことを考えていたときだった。
視界の端に、ひとりの女の子が入った。
俺の車を見て、一瞬だけ足を止める。
その表情は――少し、怯えていた。
(ああ、やっぱりか)
あとから聞いた話だが、彼女はかなり真面目な性格だったらしい。
改造車=怖い人、というイメージを持っていたそうだ。
逃げようと思えば、逃げられたはずだ。
それでも。
目が合った。
その瞬間、彼女は逃げなかった。
困ったように、少しだけ笑って――
そして、俺の方へ歩いてきた。
「……こんにちは」
小さな声だった。
「こんにちは」
俺も、それ以上の言葉は出なかった。
ぎこちないまま、助手席のドアを開ける。
彼女は一瞬だけためらってから、静かに乗り込んだ。
そのまま、車を走らせる。
どこへ行くかも決めていないまま、とりあえず東の方へ。
最初は会話も続かなかった。
当たり障りのない言葉ばかりが、空気の上を滑っていく。
けれど。
少しずつ、言葉が重なり始める。
年齢が同じだと分かった。
お互い、県外から来ていることも。
それだけで、不思議と距離が縮まった。
気づけば、さっきまでのぎこちなさは消えていた。
笑い声も、自然に出るようになっていた。
――なんだ、普通の子じゃん。
そう思った、そのときだった。
彼女が、ふと黙った。
そして、少しだけ視線を落とす。
「……あのね」
その声は、さっきよりも少しだけ低かった。
「馬鹿な話だと思ってもいいから、聞いてくれる?」
俺は、ハンドルを握ったままうなずいた。
「私ね――」
ほんの少し、息を吸って。
「見えないものが、見えるの」
車内の空気が、変わった気がした。
普通なら、笑う話だ。
軽く流してもいい。
冗談として受け取ることもできる。
けれど、俺は笑わなかった。
一度だけ――見たことがある。
あれが何だったのか、今でも分からない。
ただ、あれは“いた”。
だから。
「……そうなんだ」
それだけを返した。
否定も、肯定もしない。
ただ、受け止めるだけ。
彼女は少しだけ驚いた顔をして、俺を見た。
「……信じるの?」
「否定する理由もないしな」
そう言うと、彼女はほんの少しだけ笑った。
安心したような、でもどこか寂しそうな笑顔だった。
その瞬間。
なぜか、分かった。
――この子は、嘘をついていない。
そして同時に。
――この出会いは、普通じゃない。
そう感じていた。
理由なんて、なかった。
ただ。
胸の奥に、妙なざわつきが残っていた。
ここまで読んでくださって、ありがとうございます。
この物語は、ただの恋愛ではありません。
運命やしきたり、そして“見えない何か”に翻弄された、ひとつの恋の記録です。
正しいとか、間違っているとか。
どちらが悪いのか、そんな簡単に答えが出る話ではありません。
それでも――
誰かを想う気持ちは、きっと本物だったと信じています。
もし、この物語の中で、少しでも何かを感じていただけたなら。
それだけで、この物語を書いた意味があったと思えます。
そして、もしよければ。
この先の二人の結末も、見届けていただけたら嬉しいです。




