第86話「最初の名前」
『パパラッチ・パパラッチ』登場人物一覧
■神崎 修司
本作の主人公。
元人気俳優で、七年前のスキャンダルによって芸能界を引退。
現在は実業家として成功し、「パパラッチ・パパラッチ」という会社を立ち上げた。
芸能人を追い回す記者を逆に取材するという前代未聞のビジネスを開始し、
メディア・芸能界・スポンサー・政治の裏側にある「物語を作る構造」に戦いを挑む。
■真壁 葵
パパラッチ・パパラッチの調査責任者。
元新聞記者。
報道の裏側を知る人物で、神崎の最も信頼する右腕。
理性的で冷静だが、神崎の手法の危うさを常に理解しており、物語の中で「倫理の視点」を持つ存在。
神崎の行動に疑問を持ちながらも、彼の覚悟を理解し、共に戦う。
■佐伯 圭一
神崎の元マネージャー。
神崎が新人だった頃から担当していた人物。
しかし七年前、相良宗一から金を受け取り、神崎のスキャンダル情報を週刊誌に流したことが発覚。
神崎の人生を壊すきっかけを作った「裏切り者」。
■黒川 真也
週刊誌記者。
七年前、神崎のスキャンダル記事を書いた人物。
仕事として記事を書いただけだと語る、典型的なゴシップ記者。
神崎にとっては「直接の加害者」ではあるが、同時にメディア構造の中で動く一人の歯車でもある。
■相良 宗一
芸能界の大物プロデューサー。
テレビ・映画・音楽業界に強い影響力を持つ人物。
神崎のスキャンダルの裏側で暗躍していた可能性が高い。
■城戸 正宗
広告業界の伝説的存在。
日本最大の広告代理店の元会長で、現在は政府のメディア戦略顧問。
テレビ・広告・政治を横断する巨大な影響力を持つ。
■有里
神崎の元恋人。
七年前のスキャンダル当時、神崎の最も近くにいた人物。
現在、週刊誌で「元恋人の独占告白」として登場し、
神崎にとって最も痛い形の攻撃材料として利用される。
■最終判断者
大手企業・メディア・広告を横断する意思決定の中核にいる人物。
七年前の神崎のスキャンダルにも関与していたとされ、
今回、音声や記録によってその関与が可視化される。
当初は「組織の一部」として責任を曖昧にするが、、、
■観客
SNSのユーザー、視聴者、一般の人々。
当初は消費者として情報を受け取る存在だったが、
神崎の言葉によって「選ぶ側」へと引き上げられる。
本作において、最終的に“物語の意味を決定する存在”。
六本木のオフィスに、キーボードの音だけが響いていた。
誰も話さない。
誰も動かない。
神崎修司の指先だけが、静かに言葉を刻んでいく。
「この件に関わる人物について」
そこから先は、慎重だった。
断定しない。
だが逃げない。
真壁が、後ろから画面を見ている。
「書き方、重要ですね」
神崎は頷く。
「事実と推測、分ける」
一行ずつ、整理されていく。
「確認されている事実」
「時系列」
「関与が疑われる動き」
そして――
最後の一行に、指が止まる。
名前。
空気が、完全に固まる。
スタッフの一人が、小さく言う。
「本当に出すんですか」
神崎は、画面から目を離さない。
「最初は一人でいい」
その言葉に、真壁が反応する。
「“最初”ですか」
神崎は頷く。
「全部は出さない」
「順番に出す」
その意図を、全員が理解する。
一気に出せば、潰される。
だが、段階的に出せば――
止められない。
神崎は、深く息を吸った。
そして、打ち込む。
「相良宗一」
六本木の空気が、一瞬止まる。
真壁が、目を閉じる。
「…そこからですか」
神崎は、静かに答える。
「繋いでるやつからだ」
赤坂。
相良宗一のスマートフォンが震える。
通知。
投稿を開く。
そこに、自分の名前がある。
相良は、数秒だけ何も言わなかった。
そして――
小さく笑う。
「いいね」
有楽町。
城戸の元にも、すぐに情報が入る。
「名前が出ました」
城戸は、静かに目を開いた。
「誰ですか」
スタッフが答える。
「相良宗一です」
数秒の沈黙。
城戸は、わずかに頷いた。
「順当ですね」
六本木。
投稿は、すぐには爆発しなかった。
だが――
止まらない。
「え?」
「相良ってあの?」
「でも証拠は?」
「流れ的にはあり得る」
「でも確定じゃないよね」
真壁が言う。
「まだ“疑い”ですね」
神崎は頷く。
「それでいい」
少し間を置く。
「ここからだ」
赤坂。
相良は、スマートフォンをテーブルに置いた。
部下が言う。
「対応しますか」
相良は、ゆっくりと首を横に振る。
「しない」
部下が驚く。
「よろしいのですか」
相良は、少しだけ笑った。
「まだ浅い」
その目は、完全に冷静だった。
六本木。
神崎は、ホワイトボードを見ていた。
「名前」
その横に、新しく書く。
「一人目」
真壁が言う。
「次、行きますか」
神崎は、少しだけ考えた。
そして答える。
「まだだ」
「反応を見る」
その夜。
最初の名前は――
静かに、世界に落ちた。




