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パパラッチ・パパラッチ  作者: 礼嗣


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第8話「炎上の朝」

翌朝、日本中のニュースは一つの名前で埋まっていた。


神崎修司。


朝六時。都内のコンビニの新聞ラックには、まだ輪ゴムのかかった束が並んでいた。だが、その一面の見出しはすでに同じ言葉で埋め尽くされている。


「芸能界の闇暴露」

「元スター俳優、報道に宣戦布告」

「パパラッチを追う会社とは」


テレビでは、朝のワイドショーが一斉にこの話題を扱っていた。スタジオのモニターには昨日の会見の映像が繰り返し流れている。


スクリーンに映る相良宗一。

泣く女優。

そして神崎修司。


コメンテーターが言う。


「これはすごいことになりましたね」


別のコメンテーターが腕を組む。


「でもね、神崎さんのやっていることも危険ですよ」


「報道の自由という問題があります」


その横で、若い女性アナウンサーが控えめに言った。


「ただ、SNSでは神崎さんを支持する声がかなり多いですね」


画面の下にハッシュタグが流れる。


#パパラッチパパラッチ

#報道の裏側

#神崎修司


そしてもう一つ。


#ざまあみろ


 


神崎修司は、そのニュースをオフィスのソファで見ていた。


テレビの音量は小さい。だが、内容は十分聞こえる。


ここは東京・神山町ではない。六本木のビルのワンフロア。パパラッチ・パパラッチの本社オフィスだった。


オフィスはまだ朝の空気だった。大きな窓から日差しが入り、ガラスの会議室が静かに光っている。


神崎はコーヒーを一口飲んだ。


苦い。


だが、その苦さが少しだけ心地よかった。


足音が近づく。


真壁葵だった。


「トレンド全部取りました」


タブレットを差し出す。


神崎が見る。


Twitter(X)トレンド

1位 #パパラッチパパラッチ

2位 #神崎修司

3位 #相良宗一


神崎は小さく笑った。


「相良さん、人気者だな」


真壁は笑わない。


「問題はそこじゃない」


神崎は顔を上げる。


真壁はタブレットをスワイプした。


「これ」


画面には記事が表示される。


週刊フラッシュアクト

神崎修司の危険な会社

元記者が証言「違法調査の実態」


神崎は記事を流し読みした。


書いてあることは、ほぼ想定通りだった。


「企業スパイまがいの調査」


「報道を萎縮させる危険な存在」


「新しい監視社会」


神崎は言った。


「早いな」


真壁は頷く。


「会見終わって12時間」


「もう反撃が始まってる」


神崎はソファに体を預けた。


「相良さん?」


真壁は少し考える。


「たぶん」


神崎は天井を見上げた。


「まあ、そうなるよな」


真壁は静かに言った。


「でも」


神崎が視線を向ける。


真壁は言う。


「社長」


「これ、まだ序盤です」


神崎は笑った。


「知ってる」


真壁は続けた。


「昨日の会見で、あなたは二つの業界を敵に回した」


指を二本立てる。


「芸能界」


「報道」


神崎は言った。


「三つだよ」


真壁が眉を上げる。


神崎は言った。


「政治」


真壁は少し黙った。


神崎はテレビの画面を指した。


そこには国会の映像が流れていた。


ある議員が質問している。


「この神崎修司という人物の会社は、報道の自由を脅かす存在ではないのか」


神崎は言った。


「もう始まってる」


真壁は小さく息を吐いた。


「やっぱり」


神崎は笑った。


「いい流れだ」


真壁が怪訝な顔をする。


「いい流れ?」


神崎は立ち上がった。


窓の外を見る。


朝の東京は、すでに動き始めている。


神崎は言った。


「物語が大きくなる」


真壁は静かに聞いている。


神崎は振り返った。


「炎上ってさ」


少し笑う。


「火が小さいと広がらないんだよ」


真壁は理解した。


「つまり」


神崎は頷いた。


「もっと燃やす」


真壁は少しだけ笑った。


「次のスクープ?」


神崎は机の上の封筒を取った。


分厚い資料だった。


そこには写真が何枚も入っている。


相良宗一。

テレビ局幹部。

広告代理店役員。

政治家。


すべて同じ場所で撮られている。


高級寿司店。


神崎は言った。


「これ」


真壁が聞く。


「何の会合?」


神崎は封筒を机に置いた。


「物語の脚本会議」


真壁の目が細くなる。


神崎は静かに言った。


「そして」


少し間を置く。


「この国のニュースの半分が」


窓の外の東京を見る。


「ここで決まる」


真壁は黙っていた。


神崎はコートを手に取った。


「行こう」


真壁が聞く。


「どこへ」


神崎は言った。


「記者に会いに」


真壁は少し驚いた。


「取材?」


神崎は笑った。


「逆だよ」


エレベーターの扉が開く。


神崎修司は歩き出した。


「今日は」


静かに言う。


「こっちが取材する」


そしてその頃。


都内のある高層ビルの最上階。


相良宗一は、新聞を読んでいた。


そこには大きな見出しがあった。


「神崎修司、日本の報道に宣戦布告」


相良はゆっくり笑った。


「面白い」


秘書が言う。


「どうしますか」


相良は新聞を畳んだ。


「簡単だ」


窓の外の東京を見る。


「物語を終わらせる」


秘書が聞く。


「神崎修司を?」


相良は首を振った。


「違う」


そして静かに言った。


「英雄を作るんだ」


秘書が首を傾げる。


相良は微笑んだ。


「英雄は」


少し間を置く。


「堕ちると一番面白い」


その目は、獲物を見つけた捕食者の目だった。


 


物語は、まだ序章だった。

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